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【対談】オープンイノベーションの「成功」「失敗」とは何なのか?<前編>

スタートアップと大手企業の協業が推進されていく中で、オープンイノベーションの事例における「成功」や「失敗」について議論される機会が増えています。


しかし、オープンイノベーションの「成功」「失敗」の基準とは何なのか?どんな事例を「成功」とみなし、逆にどんな事例を「失敗」と捉えればいいのか、実態に即した定義はまだ出来上がっていないように感じます。


今回は、富士通株式会社で新規事業開発を担当しているアクセラレーター、松尾圭祐さんをゲストにお迎えして、オープンイノベーションの「成功」「失敗」について、一緒に考えていきたいと思います。


前編では、オープンイノベーションの「成功」「失敗」の定義についてどう考えるか、を主な論点としてお届けします。

オープンイノベーションの「成功」をどう定義するか


西中孝幸(以下、西中):
私は普段、ベンチャーキャピタル(VC)の立場から、大企業とスタートアップの協業を推進しているわけですが、立ち位置が変わると当然、問題の見え方も変わると思うんですね。


今回は、大企業の中で、実際にアクセラレーションプログラムを通じて、スタートアップとの協業を進めている松尾さんにお話を伺うことで、オープンイノベーション周りの課題の解像度を高めていけたらと考えています。


そもそもオープンイノベーションの成功事例・失敗事例とはいうものの、「成功」「失敗」についてきちんと定義していないケースが多いように思うんですね。そのあたり、松尾さんとしてはどのようにお考えですか?


松尾圭祐さん(以下、松尾):

非常にいい論点だと思います。確かに、定義自体がされていないケースは本当に多いですよね。


オープンイノベーションに限らず、事業開発全般に通じる考え方だとは思うのですが、私は「会社規模」と「売上」が成功・失敗を分ける一つの判断基準だと考えています。


たとえば、富士通であれば年間3兆5000億円程度の売上があるわけですが、その中で新規事業の売上見込みが1000万円だと相手にしてもらえないわけですね。


大手企業の規模感によって新規事業に期待するボリュームが違う、ということを前提とした上で、期待値を下回った場合は「失敗」と見なすケースもあると思います。


西中:

「売上」というのは、確かにインパクトがあって分かりやすい指標ですよね。ただ、僕の肌感覚ではありますが、資本業務提携によって急激に売上が伸びたという事例はあまりない気がします。


ここで興味深いなと思うのが、協業を進めている中でスタートアップと話していると、意外に売上の話に焦点が当たらないケースが多いという点ですね。もちろん売上を重視していないわけではないのですが、それよりも協業による販路拡大や信用力の向上など、直接的な売上貢献以外の部分に期待する面が大きいように感じます。


松尾:

大手企業と業務提携をすれば、スタートアップとしてもブランドに箔が付く部分はあるでしょうし、売上アップについても当然期待されているとは思います。とはいえ、西中さんがおっしゃったように、実際に売上が大幅アップしたという協業事例はあまり聞いたことがないです。その点は、僕たちアクセラレーターとしても大きな課題ですね。


西中:

松尾さんとお話していてハッとしたんですが、大企業とスタートアップとの間で、新規事業の「売上」に対する意識が本当に違うというのは大事なポイントですね。いい悪いではなく、オープンイノベーションの現場で双方が「何」を重視しているのか、まずは違いがあることを互いに知った上で、認識をすり合わせできるようにしていきたいです。


ボトルネックとなりがちな「事業性の検証」


松尾:

オープンイノベーションの「失敗」でいうと、そもそも事業化までに至らないケースもたくさんあると思います。大企業とスタートアップの協業が進むまでの流れでいうと、ちょうど検証途中でプロジェクトを断念する、通称「POC死 (ポック死)」が特に多いですね。

PoC・検証の段階では、デモデーや成果発表のイベントを行うわけですが、その場は盛り上がっても次につながっていかない「お祭り」状態になってしまっている事例は本当に多いなと思います。実際、「大企業ってイベント好きですよね」と、スタートアップの方々から揶揄されることもあるくらいです(苦笑)

このPoC死の頻発について理由を考えてみたんですが、「事業化の検証が甘い」というのが一番の課題じゃないかなと思っています。

西中:

事業性の検証がどうして甘くなってしまうのか、が問題ですよね。松尾さんは、本質的な課題はどこにあるとお考えですか?

松尾:

「顧客の課題をどう解決していくのか?」という点を考えると、企業によって様々な方法がありますし、それぞれ背景も違います。そのため。本質的な課題がどこにあるか、というのは難しい問題ですが…


事業性の検証が不十分なままPoC死してしまうケースのほかに、事業化できたとしても、売るための仕組み作りを検証段階で練っていないため、今後の売上の見通しが立たないデスマーチへと突入してしまうケースもあると思うんですね。


一つ例を挙げるなら、たとえば顧客が本当に求めているモノは何なのか、そのインサイトの理解よりも「モノをつくること」を前提に新事業を進めた結果、うまくいかなくなったというケースはよく見受けられます。そういったケースの場合、せっかく作った商品なのに、市場の要求とずれてしまっているので、思うように売上が上がらない。その結果、事業としても成立しないわけです。


あくまでも私の経験からの意見ですし、他にも様々なケースがあるでしょう。正確なリサーチがあるわけではないので、まだまだ解像度は低い状態ですが、実際に詳しく調査したら興味深い発見がいろいろ出てくると思いますね。


西中:

それは面白いですね。オープンイノベーションの文脈における事業性の検証については、どの企業も、知識や経験が不足している中で模索している状況だと思います。ある程度ノウハウが蓄積されていくまでは、「やってはみたものの、あいまいな結果に終わった」という構造から抜け出すのは難しいのかもしれません。


松尾:

事業化した後、想定通りの結果が出るかどうかは、ある意味やってみないと分からないことだらけですからね。ただ、大手企業とスタートアップが力を合わせた結果、1+1=2ではなく、オンリーワンのビジネスが出来上がればベストだと私は思っています。


その点、JR東日本グループとスタートアップとのジョイントベンチャーで生まれたTOUCH TO GO社の「無人店舗コンビニエンスストア」は、まさに成功例といえるでしょう。


Suicaという決済システムとコンビニのノウハウを持っていたJR東日本グループと、スタートアップのIT技術。この2つが組み合わさったことで、コンビニ業界が長年抱えていた労働者不足の問題を解決する唯一無二のビジネスモデルが出来上がったわけですね。


後編に続く→


文章協力)株式会社SHUUU

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