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"コードが出せてリードが弾けるベース" Squier BASS VI レビュー

1~2年ほど悩み、2021年10月末にポチッたBass VIがようやく2022年1月中旬に届きました。
正式にはSquier Classic VibesシリーズのBASS VIですね。
Classic Vibesシリーズは、Squierにおいて価格を押さえながらビンテージに忠実なものを目指した最上位機種のシリーズになるかと思います。

Beatlesのドキュメンタリー(たぶん)であるGet Back効果なのか、何なのか、ずいぶん品薄で、けっこう価格も変動している印象です。

ともあれ、私がBASS VIを購入した動機はBeatlesではありません。
①ライブルーピングにおいて、オクターバーで下げたギターの音ではなく、きちんとしたベースの音が欲しい。
ちなみに、ショートスケールのベースサウンドはけっこう好みです
②たまにライブをするドラム・トロンボーン・ギターのトリオでロー不足を解消し、トロンボーンとの帯域のかぶりを避け、それでいてコードを出したい。
という2点が動機でした。

そのため、この2つの視点からレビューをすることになります。
結論からいえば、タイトルで"コードが出せてリードが弾ける"としている通り、この動機は十分に満たされるものでした。

一方で、Twitterを中心にある種のネガキャンを受けているSquier BASS VI。
そのあたりも踏まえながら、レビューをしてみたいと思います。


サウンドについて

第一にレビューすべきはサウンドでしょう。

とりあえず演奏したので動画を見ていただけるといいかと思います。

この通り、わりとしっかりベースのサウンドが出ます。
フロントとセンターのミックス・ポジションで、ローカットのスイッチ(Strangle Switch)はオフ。
この状態でミキサー(Mackie Mix 8)に直刺し、EQ等はいじっていません。
(インピーダンスが合っていないかもしれません、というかたぶん合ってません。)

ピックアップをリアのみ、ローカットをオンにするとかなりギターっぽいサウンドになりますが、これも非常に独特なものとなります。


スペック

次にスペックです。

ボディ:ポプラ
ネック:メイプルネック、インディアン・ローレル指板、Cシェイプ、30インチスケール(一般的なベースのショートスケール)。
ちなみに、ビンテージのものはアルダーボディ、メイプルネック、ローズ指板です。

まぁ最上位機種とはいえSquierですし、やはり安価な代替材等を使っている印象は否めません。
だからといって音が悪いとも思いませんが。

ピックアップ:ジャガータイプ×3(Fender® Designed Alnico Single-Coilだそうです。)
コントロール:ピックアップそれぞれのオンオフスイッチ、マスターボリューム、マスタートーン、ローカット・スイッチ(Strangle Circuit)
ちなみにスイッチは、ネック側から3つがそれぞれのピックアップのオンオフスイッチ、最後のリア側のスイッチがローカットです。

電装系は割とビンテージに忠実なのではないでしょうか。
ビンテージといっても、初期ものではありません(たぶん)。

ブリッジ:フローティング・トレモロ(ノンロッキング※1)。ジャガー・ジャズマスタータイプの台座に、ムスタング・サドル(指板のRに合わせたコマがついています。)
ペグ:ビンテージ・スタイル(普通のフェンダーのクルーソンタイプ)
ナット:Bone、と公式には書いてますが、ほんとか……?(後述)
ムスタング・サドルな点と、ノンロッキングな点がビンテージと異なる点でしょうか。
ジャガー・ジャズマスターは一般的にムスタング・サドルに換えられがちなので、よほどディテールにこだわる方じゃない限り問題ないと思います。
ノンロッキングは……、なんともいえませんね。

ブリッジ等のハード面は演奏性も加味してモディファイされてるような感じですね。
(特にムスタング・サドル。)

弦:恐らく、D’AddarioのBass VI用弦、ニッケル・ラウンドワウンドの0.24-0.84
ビンテージは0.25-0.95だった、らしいです。

弦についても、ナットと共にデメリットの項で後述。

公式にあるスペックはこんなもんでしょうか。


メリット、とうかサイコーな点

まず、サウンドの所で述べた通り、わりとベースの音です。

もちろん、ショートスケールであること、ネックが細いことをふまえる必要があります。
いってしまえば、一般的なジャズ・ベースのE弦のようなタイトな低音は出ません。
ただしその分、一般的なジャズ・ベースには出せない、ショートスケールのイナタく、ディープな低音が出せます。

また、スカスカとか、ペラいとかいわれがちですが、そんなことないと思います……。
先の通り、タイトでおなかに響くような低音はもちろん無理ですが、それなりの良き低音だと私は思います。
スカスカとか、ペラいとかは十分EQやプリアンプで何とかなる範囲ではないでしょうか。
(タイトな低音を目指さない限り。)

また、おなかに響くような低音が出ない点は、ベースでコードを弾く際にコードの分離感がはっきりするという点ではメリットと感じました。
一般的なジャズベで、3フレットのGからG7を弾くと厳しいサウンドですが、BASS VIなら可能です。
流石に、1フレットのFからF7とかは厳しいですが、それでも一般的なベースよりかなりマシ。

次に、パッシブながら音作りの幅が広いというメリットがあります。

というのも、それぞれのピックアップのオンオフに、ローカット・スイッチがついているので、(2^3-1)・2=14(※2)通りの選択肢があります。
それにプラスしてもちろんボリューム・トーンも付いています。

そのため、ライブルーピングにはうってつけ。
例えば、
フロント+センターでトーンを絞り気味にしてベースをまず弾いて、トーンは絞ったままリアのみでローカットをオンにしてコードを弾いてバッキングを作り、その上でローカットはオンのままリア+センター+フロントでトーンを全開にしてリードを弾く、
みたいなことが手元のみで可能です。
下の動画でそんな感じの使い方をしています。

また、結構おだやかな音が出るので、ジャズのギタリストがリードとして使うのも面白いと思います。


デメリット、というかアレな点

ただし、アレな点がちらほら……。

まず、ナットです。
公式サイトにはボーン(たぶん牛骨を指しているのでしょう)と書いていますが、これは率直にいってかなり怪しいです。

というのも、私はSquier BASS VIを通販で購入した際、ナットが毛羽立っていたので、それをとってもらいにリペアに出したところ、
「牛骨の削れ方ではなく、樹脂系なはず。恐らくプラ」
リペアマンの方がとおっしゃっていました。
(フェンダーに問い合わせてみようかな……。)

次に弦とそれに付随する問題について。

まず、ショートスケールにもかかわらず全体に弦が細いので、かなりイナタく独特なベースサウンドです。
まぁ、好みの問題っちゃ好みの問題ですが。
私は好き。

そしてさらに先述の通り、6弦がビンテージのものよりも細くなっており、そのため張力のバランスが崩れています。

D'addarioのパッケージに書いてあった張力を記しておくと、
1弦E .024inで張力が12.44kg
2弦B .034inで張力が13.62kg
3弦G .044inで張力が13.86kg
4弦D .056inで張力が12.57kg
5弦A .072inで張力が11.48kg
6弦E .084inで張力が8.89kg
です。

6弦だけ張力が低くなってしまっております。
そのため、6弦だけ音もビロンビロンです。
どのくらいビロンビロンかというと、クリップチューナーBOSS TU-10が6弦だけ反応しないくらい……。
差し込むタイプ(YAMAHA TDM-700)だと大丈夫なのですが、それでも音程はフラフラします。

さらに、6弦だけの張力が低いため、1弦側だけ反るような捩じれの原因になる可能性もあります。
実際、到着して2,3日の間に捩じれる傾向がみられたので、1弦2弦だけ緩めて保管しておりました。
3週間ほど経過した現在はかなり安定してきている様子で、チューニングしたまま置いておいても、若干捩じれる傾向はあるものの問題ない範囲に収まっています。
ともあれ、高音弦側だけ緩めることを推奨しますが……。)

また、ネット上では、
ネックが反って使い物にならない
みたいな評判が散見されます。

しかし、これは私としてはなんともいえません。
現に、購入後一カ月たった現在、チューニングしたまま放置してもネックが動く気配はありません。

というのも、D'addarioの45-105 long scaleでニッケルのラウンドワウンド弦、一般的なベースに張る、最も一般的であろう弦のトータルの張力が174.29Lbs≒79.06kg
なのに対し、
D’Addarioの24-84 short scaleでニッケルラウンドワウンド、つまりBASS VI用弦のトータルの張力は
160.63Lbs≒72.86kg

です。
(参照: D'addarioの米サイト、ロングスケール弦BASS VI弦

実は、BASS VI用弦の方が全体の張力が低いんですよね……。
これをふまえると、BASS VI"だから"反るということはないでしょう。
経験的なものにすぎませんが、デジマートで中古楽器をぼーっと見ていると、ギターよりもベースの方が「ロッドが限界です」と書かれているように感じます。
やはり、BASS VIだから反るというよりも、ベースは基本的に反りやすい、と考えたほうが良い気がします。
特に伝統的なワンピースメイプルネックは……。

ともあれ、先に書いた通り、私の個体は1カ月たって安定しており、ことさら問題になってはおりません。


最後に――お勧めできるのか?

結論から申し上げると、あまりお勧めはしませんね……。
なによりも、デメリットが多いという点を否定できません。
割とベースの音とはいっても、5弦ベースがスタンダード化しつつ現代のシーンにおいて、このイナタいBASS VIの音が求められることは少なそうです。

何度かジャズ・セッションに持ち込み、ベースとして弾いてみたり、ローカットしてギター的に弾いてみたりしましたが、なんとも扱いきれない印象も受けました。
ほうぼうで書かれていることですが、BASS VIを使いたいなら、それ用にバンドを組む必要がありますね。
組めばいーじゃん、って話ですけども……。

ただし、それ以上の魅力もたくさんあるように感じています。
その魅力はメリットの項で書いた通りですが、なによりも私にとって重要なのは、ギターと同じ感覚でコードが弾ける、という点。

弦間が非常にギターライクに狭くなっているため、かなりギターに近い感覚で押さえられます。
これはやはり大きなメリットではないでしょうか。
そんなコードが出せるベースを欲している人が果たしてどれほどいるかと言われると……。

ともあれ、使用者が非常に少ない楽器でもあるので、自分の音、新しいジャンル、そういったことを標榜する方は一度、手にとってもよいのではないでしょうか。
新しい世界が開けるかもしれません。

デメリットを最小限にするための簡単な改造も施しているので、その点については後日アップします。


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2022年7月現在、スカンクラインがへこむという不良が生じ、入院中です。
このような不良はまぁ、木材を使っている以上は一定しかたがないのかと思いますが、より他人には勧めにくくなりますね。
いずれにしても、私がハズレを引いてしまっただけ、と思ってよいかと。

2022年8月現在、この件について、交換品が返ってきました。

センターピックアップの取り付けねじが斜めに入っていて機能していない以外は正常です。


……。


※1 一般的なジャガー・ジャズマスターのフローティング・トレモロには、アームアップをできないように固定するスライド・スイッチがあるのですが、SQUIER BASS VIにはありません。

※2 リアのみ、センターのみ、フロントのみ、リア+センター、リア+フロント、センター+フロント、リア+センター+フロント、の7通りにローカット・スイッチのオンオフで14通り。

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