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#3 ベトナムでは想像できないことが起こるよ(1)

これは私が来越したばかりの頃に、懇意にさせていただいていた方からよく言われた言葉です。
正確を期すなら、その方と飲みにいき、酔ってくると毎回しつこいぐらいにおっしゃていた言葉です。
ちなみに、その方は現在日本に帰国し仕事を引退され、悠々自適な暮らしを送っていらっしゃるようで、「ベトナムにいた時のことなんて忘れちゃったよ」などと言いつつ、酔うとくどいくらいにベトナム生活時代の思い出を話されていると聞きました。

さて本題に戻りまして、その当時の私はまったくベトナム、ホーチミン市のことについてよくわかっておらず、その言葉についてもどのレベルで " 想像できないこと " なのか、まるで想像ができていませんでした。
ちなみに、いまでもベトナムやホーチミン市についてはわからないことだらけですので、SNS 等で質問を受けることがたまにございますが、きちんと回答できないことがしばしばございます。
さて今回は、その " 想像できないこと " の意味がはじめて理解できたエピソードを紹介したいと思います。

日本では想像できないくらいの量の荷物をバイクで運びます

来越当時に私が生活の地に選んだのは、ホーチミン市は1区の Tân Định(タンディン)地区という場所でした。
そのころはわからなかったのですが、タンディン市場やピンクの教会として有名なタンディン教会などがあり、観光地としても有名な地区であります。
薬屋や衣服用の生地店が多い地区でもありますので、アオザイやスーツを仕立てるためにこの辺りで生地を購入された方もいらっしゃるかもしれません。
そして、私が借りたのはサービスアパートと呼ばれる、掃除・洗濯のサービスが付帯した、こじんまりとしたアパートでした。
部屋はそれほど広くはありませんでしたが小綺麗で、目の前にはカフェ、5分も歩けば居酒屋が多く並ぶ川沿いの通りがあり、大変快適な環境でありました。

" ピンクの教会 " で有名なタンディン教会

家賃は他の一般的なアパートの相場より高かったと思いますので、住人は欧米人、日本人(おそらく)など外国の方が多く、セキュリティ対策としてガードマンが常駐しておりました。
そのため、夜11時を過ぎるとアパートの入り口の門は南京錠により施錠され、中に入るにはガードマンに鍵を開けてもらう必要がありました。
私は週末などは深夜まで飲んで帰っていたのですが、その時間ともなるとガードマンは寝てしまっており、その都度彼を叩き起こして門を開けてもらい迷惑をかけていたものです。
そしてこの時、日本のガードマンと異なり、ベトナムではしっかり睡眠をとることを知りました。

いくつかのお店の入れ替わりもありましたが、いまでも居酒屋が多い場所です

このアパートのガードマンは老齢の男性と、若い男性の2名の交代制で運用されていました。
そして、この話しの中心人物であるのは若い方、グェン君(仮名)という名前の年齢は20代前半、たしかロンアン省出身の、小柄で筋肉がないのではないかと思うくらいに細い、目をキョロキョロと落ち着きなく動かしている男性でした。

地下の駐輪場の端に置かれたハンモックに寝転んで食事をしたり、果物を齧ったり、音楽を聞いたりスマートフォンでゲームをしたりと、ほとんど彼が仕事をしているところを見たことがありませんでした。
そして、ガードマンの仕事の一つである駐輪場のバイクの整理を怠り、住民がバイクを取り出せなくなったり、夜間にはアパートの門を閉めた後に寝てしまい、住民が帰宅しても起きないために住民を閉め出してしまったことがありました。そのため、住民たちからの評判は良くなかったと思います。
特に、あるガタイのいい中年の欧米人男性などは、よく彼を怒鳴りつけていたように記憶しています。

川が近く、川沿いの通りにはいくつかのお寺もあります

そんな彼は当然、住人とのコミュニケーションを極力避けているようでしたが、なぜか私にはよく話しかけてきて、仕事中にもかかわらず一緒にアパートの向かいのカフェでコーヒーを飲んだり、当時私の乗っていた古いバイクの調子が悪くなると気張って直してくれようとしました。ただ、残念なことに、彼のおかげで直った記憶はあまりありません。
また、どこからかもらってきた " 真面目ではないマッサージ店 " の割引チケットを、ちょくちょく私にくれたものです。ちなみに、大体の場合において、彼はそれらのお店に行った後であり、その感想も詳しく教えてくれ、私はその話しを聞いてはよく彼をからかっていました。
いつも目をキョロキョロさせヘラヘラしている不真面目な男ではありましたが、私にとっては大変人懐っこい気のいい青年であり、また不適切なベトナム語の先生でもありました。

駐車されたバイクの整理の腕がいいガードマンはアパートやオフィスビルで取り合いになるとか…

そしてある日の朝、先述した通りアパートの門は夜間にはゲンコツのようなサイズの南京錠により施錠されて朝に解錠となるのですが、なぜかその日は開いておりません。
私は犬を飼っており、毎朝早くに散歩に出かけるので門が開いていないことに最初に気がついたのですが、ふと見るとグェン君が駐車場の入口あたりでおろおろしています。
どうしたのかと聞くと「鍵を無くした」と青い顔で彼が言うのです。

話を聞くと、昨晩は深夜に帰宅した住人はおらず、施錠後は一度も鍵を使っていない、朝方鍵がないことに気がついてその後ずっと探している、とのことです。
外に出ることができないので、仕方がなく私も協力し鍵を探すのですが、彼がいつも寝ているハンモックからトイレ、狭いアパートの敷地内と探しても一向に見つかりません。

近所にはホーチミン市ではめずらしく?ウチワエビが食べられるお店があります

そうこうしているうちに住人が起き出し、門の前には早朝便のフライトで出張に出かける男性や、ジョギングに出かけるカップル、出勤する方々が集まり出してきました。
しかも間の悪いことに、この出張に出かける男性はいつもグェン君を怒鳴りつけている欧米人の男性です。

集まったみなさんは一様に「なぜ門が開いていないのだ」とざわめき、苛々した様子で雰囲気が良くありません。
出張に出かけるという、ガタイのいい欧米人の男性に至っては、明らかに憤怒の表情を浮かべております。
フライトの時間が迫っているのか、彼はなんとか門を乗り越えようとしていましたが、3 - 4 メートルほどの高さと、上には泥棒よけのためガラスの破片が埋め込まれた門です、当然乗り越えられるわけもありません。

そして、おそらく彼が呼んだであろうタクシーは門の向こうで早くしろとばかりにクラクションを鳴らしており、早朝からのやかましい状況に、近所の方々も門外に野次馬として集まりだしたのであります。


今回は長くなったので前後編に分けさせていただきます。
次回『#4 ベトナムでは想像できないことが起こるよ(2)』に続きます。

この辺りは好きなエリアの一つのため、いまでもよく近辺を散歩しています

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