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#5 阿吽の呼吸の運転

ベトナムの交通事情の話しをする際に、その有様をこの言葉で形容される方が結構な割合でいらっしゃいます。
渋滞時の車やバイクが隙間がない程に密集し、それでもなんとか流れている様子や、単純に多くのバイクと車がひしめき合う交通状況を見て、このように表現されるのだと思います。

確かに、『これだけのバイクや車が密集してよく事故が起きないものだ。これは運転手がお互いの動きを考慮している結果だ』と思い至ることは想像に難くありません。
しかし、私はこれについては声高に異を唱え、ホーチミン市の交通事情について私見を述べさせていただきます。例によって他の都市の実態についてはよく知りません。
ちなみに日本人の判断で事故と考えられる事例は、日常茶飯事、頻繁に起きておりますし、運転手が他者を配慮するということはほぼ皆無だと、あらかじめお伝えしておきます。

朝夕の通勤ラッシュ時は文字通り車、バイクがひしめき合っております

まずベトナムにどのくらいのバイクが存在しているのか、改めて調べたところ、

ベトナムの総人口:9,600 万人
バイクの登録数:6,500 万台以上

VnExpress : Thị trường xe máy Việt sẽ không tăng trưởng đột biến

と、ベトナムのニュースサイトに記載がありました。
ただし、こちらは2021年10月の記事であり、この文を書いている2024年の時点でベトナムの人口は1億人を超えているとのことなので、もう少し多いかもしれませんし、この出典元は " ベトナムのバイク市場に急成長なし " といったタイトルの記事なので、場合によったら少なくなっているかもしれません。

また、こちらはあくまでも登録数であり、実際に使用されている数は4〜5,000万台との別のデータもありました。
個人的な意見ですが、以前と比べてバイクの数はそれほど変わっていないような気がしますが、毎月のように目に見えて自家用自動車、タクシーは増えている気がします。

車が増えているとはいえ、日本のバイクの登録数が1,031万台(一般社団法人日本自動車工業会)とのことなので、それと比較してもわかるように、ベトナムには半端のない数のバイクが存在することは間違いがないわけで、" 生まれる前からバイクに乗っている " ベトナムの方々の主要な交通手段に間違いございません。

交通社会の暴君であるバス(特に観光バス)。デカいはエラい

さて、そのようにバイク大国でもあるベトナムの交通事情に話しを戻しまして、まず、この国の交通事情には他国にあってベトナムにない重要な二つの要素が存在すると考えております。それはルールとマナーです。

まずはルール、日本で言うところの道路交通法ですが、当然ですがベトナムにも存在します。
ただし、おそらくですがその内容を詳しく知っている市民はほぼなく、また、交通の安全と円滑を図るために、指導や取締りをおこなう方々にいたってもそれは同様ではないかと思われます。
日本においても道路交通法を詳細まで理解している一般市民の方々は少ないかもしれませんが、それをはるかに超えた次元で法律が浸透していないように見受けられます。

まず、停止線や車線などはそもそも人々の概念には存在せず、混雑時においては交通量が多い方向に向かう車両により占拠されるわけであります。
また、混雑時以外においても車線をはみ出した、というレベルを超えた逆走による無理な追い越しにより、運転中に対向車であるはずのバイク、車、バスがクラクションを鳴らしながら目の前に迫ってくるなんてことは日常茶飯事であります。
それゆえ、ある頃から中央線の代わりに、そこらじゅうの道路に中央分離帯が設置されるのですが、交差点や脇道を考慮せずに設置されているふしがあるため、さらなる渋滞だけでなく日常的な逆走といった道路交通法違反までも誘発しているように感じられます。

一方通行ではなく両側通行の道です

そしてマナーについてですが、こちらにいたっては日本と比較して、天国と地獄かくやあらんというレベルにございます。
先にも述べたとおり、運転手同士の " 阿吽の呼吸 " なんてものは存在せず、みなさま、ただ己の気の向くままに運転していらっしゃいます。

具体的にどのような運転なのか例を挙げますと、軽度なものとしては、とにかくクラクションを鳴らす、割り込み、幅寄せは当たり前で、側道から本線に合流する際などにおいては、一時停止はおろか、安全確認、減速などの概念は存在しません。
さらには渋滞時などにおいては、自動的に歩道が車道へと拡張されるといったシステムまで存在します(これは交通違反です)。

参考:ベトナムの道路交通法

また、スマートフォンの操作・通話をしながらの運転(これも交通違反です)なんて可愛いもので、電話がかかってきた際に急にバイクを停止させ、道の真ん中で通話をはじめるババ…もとい、ご婦人も存在します。
以前このような行動を取られたご婦人が後続の若い女性が運転するバイクに追突され、ご立腹されたご婦人が追突してきた若い女性をヘルメットで叩きまくる、なんて現場を見かけたことがございます。

さらにバイクや車を運転する際、他のバイクや車、歩行者にとどまらず、前方から飛んでくる物体にも注意を払っておかなければなりません。
タバコを吸いながらの運転している方から飛んでくる灰や吸い殻、脱げてしまったサンダルやヘルメット、水筒、ペットボトル、運んでいる荷物の落下など様々な物体が襲ってきます。私が経験した中では、ニワトリが数羽飛んできたことがありました。
また、それに分類される上位レベルの、走行中の痰吐き、手鼻をかむ、などの行為にいたってはもはやテロの域です。

いくつか挙げてみましたが、これらはほんの一例で、事細かに記していくと『地球の歩き方ベトナム編』程度にはなってしまうと思いますので、この話はここまでといたします。

バイクから荷物が落ちてしまう光景は頻繁に目にします

次に、これはルールやマナーの話ではなく、ベトナムで車やバイクを運転する上で注意すべき対象の一つとして、一時期 Ninja LEAD(ニンジャリード)と呼ばれる女性ドライバーが話題になりました。
Ninja はそのまま日本語の忍者であり、LEAD は HONDA 社より販売されているスクータータイプのバイクになります。

その名称は、日焼けを極度に嫌うベトナムの女性の一部が、長めのパーカーを羽織り、フード、マスク、サングラスと顔を覆い、手には手袋、足には腰巻きといった、さながら忍者のような格好でバイクを運転することが由来のようです。そして、LEAD はとても運転のしやすいバイクであり、多くの女性に好まれているので  Ninja LEAD なる HONDA 社にとっては、はた迷惑であろう命名がされたようです。

バイクは日常、仕事の足であり、休憩の場でもあります

そんな Ninja LEAD の彼女たちですが、プラモデルの如く姿勢良く正面だけを見据え、上着のフードや帽子を被り、さらに半帽のヘルメットを被るという、やられた方ならおわかりになると思うのですが、左右の視界が非常に狭い状態で運転をしております。
そして、視界が狭い状態に加えサイドミラーを見るわけもなく、左右の確認を拒むかの如く不動の姿勢を貫いて運転をいたします。

おわかりかと思いますが、彼女たちは周りを気にせず、ただひたすら己が道をゆく存在なのです。
左右後方には他の車両は存在しないかの如く、自身の5メートル程の前方のみを見据え進む彼女たちは、まさに勇往邁進、忍者という影の存在などではなく、我が道をひたすら邁進する武将のようであります。
さらには彼女たち独自の行動理念があるかの如く、他者が予測できない動きをするため、『なぜこの状況で事故が起きるのだろう?』といった不可思議な現象をも引き起こします。

私などは三大タブーの如く彼女たちを見かけたら、極力近寄らないようにしております。
もし近くに寄ってきた場合はクラクションを鳴らし、幅寄せをおこない、場合によっては歩道を走行し、彼女たちの前方に割り込んだ後、急加速で逃げられるよう常に心構えております。
参考:Ninja LEAD

外国人の観光客が多い場所では、信号待ちの際によくカメラを向けられます(撮影の際はスリにご注意ください)

最後になりますが、最近では道を譲った際にお辞儀をされたり、無理な追い越しなどの運転をした後に手を軽く上げる若い方が増えてきたのではないかと感じております。
ルールやマナーは国によって違うので、一概に良し悪しを決めつけることはできませんが、少なくとも気分の悪い行為ではありませんね。

バイクに乗ったまま寝るのは当たり前 ※ヘルメットは被りましょう

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