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句集「途中下車」西村小市

西村小市さんの「乱雑な部屋」に続く第2句集。小市さんは、童子の先輩であり、いつき組花芭蕉句会で句座を共にしている句友である。小市さんは俳句との向き合い方や生き方そのものがとても格好良く、私にとっては心の師とも言うべき存在。

第1句集の「乱雑な部屋」は65歳になられたのを記念して作られたそうだが、「途中下車」の扉の裏側には「妻 真弓の古稀を記念して」と綴られている。こんなところが、小市さんの格好良さなのである。

収められているのは、私の数え間違いがなければ、2015年から2021年にかけての152句。優しい家族愛に溢れた句、ちょっとシニカルな視線で社会の事象を切り取った句、そして反権力の姿勢を貫いた句など、小市さんらしい個性的な句が並んでいる。

風花や現場で喰らうカップ麺

カップ麺が流行するきっかけになったのは「浅間山荘事件」のテレビ報道であったことはもう有名な話。この句の現場とは、道路工事か、建築現場か。「風花」と「カップ麺」が過酷な現場の景をしっかりと描いている。

春愁や山口百恵のプロマイド

私が初めて小市さんにお会いしたのは、NHK文化センター(現NHKカルチャー)青山教室で行われた句会ライブだった。この句は、その時、特選7句に残った句である。この時、小市さんは、手を挙げてこの句を褒めちぎったのである(爆)もちろん、自分の句だとはお首にも出さない。句会ライブとはそういうもので、後で作者がわかった時の組長の「あんた、あの時あんなに褒めちぎって・・・なんだーーーあんたの句だったのーーー」なんていう言葉が最高に楽しい。私もこの日が初めての句会ライブで、組長にいじられまくり、興奮状態にあった頭と心にこの句がしっかりと刻まれたのである。

転校を告げる少女や春の雪

3月から4月にかけては、転校の季節である。私自身にも思い出の景だが、淡い初恋の思い出かもしれない。

この赤は鉄の色なり菠薐草ほうれんそう

この句は、「童子」2021年5月号で辻桃子主宰選「珠玉童子」に選ばれた句である。菠薐草と真っ向から相対した小市さんの観察眼の見事さ。写生句の真髄を見た気がする。

本当は怖い小鳥と妻の笑み

菠薐草の句のようなガッツリとした写生句があるかと思うと・・・こんなところがいかにも小市さんらしい。第1句集の「乱雑な部屋」にも「薄氷をつついて妻の顔を見る」という句があった。小市さん、奥さまの顔色を伺いながらも、結構自由な人生を歩んでおられると拝察する。

第1句集「乱雑な部屋」の感想を以前のブログに書いていたので、一応貼っておきます。
https://ameblo.jp/pocochpococh777/entry-12304496477.html

句集「途中下車」はAmazonでも購入可能です。

文責:根本葉音

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