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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第30回配信 危険なトーク

 ひとしきり頭を殴ったら、だいぶスッキリした。

「エリス、もう大丈夫だよ。スッキリしたから」

「……ユメオ、今日は休もう。ね?」

「平気だって。ほら、もういつもの配信時間を過ぎちゃったよ」

「こんな状態でさせられないよ。ねえ、なんで泣いてたのか話してくれる?」

 エリスが僕を、心から心配してくれていた。

(ああ、エリス。きみはなんていい子なんだ。きみにだけは、僕は隠し事をしたくない)

「わかった。正直に話すよ。実は僕、エリスに軽蔑されたと思ってた」

「軽蔑? どうして?」

「前回の配信で、巨大チュンチュンが飴を舐めたり、スネ夫が『僕は金、ジャイアンは暴力、しずかちゃんは○○○○』って言ったりしたでしょ?」

「なんだ、そのこと?」

「あれは僕の、無意識の願望から出たことだ。だから僕という人間は、実は音フェチで、ロリコンの変態野郎だ。というふうに、エリスに軽蔑されたんじゃないかと」

「それであんなに泣いたの?」

「うん。きっと嫌われたなあと思ったら、悲しくなってきて」

「そんなこと」

 エリスの口元が、ふっと弛んだ。

「全然思ってないから大丈夫。もう気にしないで」

「本当?」

 僕はエリスの表情を、探るように見た。

「もし、仮にだよ。僕の本性がロリコンで、変わった性癖の持ち主だとしても、嫌いにはならないってこと?」

「うーん、ずっとユメオのこと、すごく真面目だと思ってたから、意外な気はするけどね。でも嫌いになんてならないよ」

「ありがとう」

 僕は一歩踏み込んで、これまでしたことがないような性癖の話をした。

 そうすると、この機会をとらえて、さらに踏み込んでみたい欲求に駆られた。

「もし、もし、仮にだよ。僕が音フェチだけじゃなくて、匂いフェチだったとしても、嫌いになったりしない?」

「ユメオ、匂いフェチだったの?」

「それは……ダメ?」

「ダメっていうか、だって男って、そういうものでしょ?」

「え? 男って、どういうものなの?」

「女の人のシャンプーの匂いとか、好きなんじゃない?」

「それは嫌いにならない?」

「うん」

 僕は嬉しくなった。エリスは男の性癖を認め、それを普通のこととして受け入れている。

 つまりエリスは、男には変態なところがあるけれど、だからといって男を否定するわけではなく、そういう男を好きになる可能性もある女だということになる。

 そう思うと、エリスとの距離が、以前よりもグッと近くなった気がした。

「じゃあさ、仮に、仮にだよ」

「まだあるの?」

「洋服についた匂いを思いっ切り嗅ぎたいとしたら、それでも嫌いにならない?」

「いやねえ」

 エリスは笑った。

「ユメオ変態じゃん」

 やった! と僕は思った。

 エリスはこういう会話を嫌がらず、むしろ笑ってくれた。今まで嫌われることを恐れて、あまり出さないでいた部分を、これで遠慮なく出せるようになった。

「じゃあさ、じゃあさ」

「まだあるのね」

「オシッコの匂いが好きだったら、どう?」

「はあ?」

 エリスの顔が、女芸人がツッコむときみたいに歪んだ。

「さすがにそれは無理でしょ。最低じゃん」

「冗談、冗談」

 僕はアハハと笑った。

「今のエリスの顔、面白かったなー。いやー、最高、最高」

「冗談って、真面目な人が急にそんなこと言うと、けっこう怖いよ。あ、でも、ホントは真面目じゃないのか」

 エリスが今度は、僕をにらむようにした。

「あのさ、ユメオ。正直に言ってね」

「なに?」

「ユメオって、オシッコをかけられたりしたいの?」

「なんだって!?」

 僕はあまりに驚いて、ベッドから飛びあがった。

「オシッコをかけられたいだなんて、そんなの変態じゃないか!」

「だって、オシッコの匂いを嗅ぎたいとか言うから」

「言ってないよ。もし僕が、オシッコの匂いが好きだったらどうするって訊いただけで」

「おんなじだよ。オシッコの話をする時点で」

 エリスの口からオシッコという言葉が出るたび、ますます距離が近くなる気がして、僕はゾクゾクした。

 とはいえ、これ以上オシッコの話題を続けるのは危険だった。下ネタは引き際が肝腎だ。

 もし調子に乗って、

「いやー、さっきエリスがトイレに行ったとき、オシッコの音が聞こえて、オシッコの匂いがしてきたよ」

 などとバカ正直な告白をすれば、さすがにそれは、嫌われるに決まっている。

 が。

 もし、そう言ったらエリスが、

「ヤダー、最悪」

 などと、満更でもないリアクションをとったらどうだろう?

 僕はますます、エリスを好きになるだろうか?

(下ネタについてくる女、サイコー!)

 と思うか?

 それとも、

(あれ? エリスって、意外と下品?)

 と冷めてしまうか?

 僕の望みとしては、ライトな下ネタにはクスッとするが、ヘビーな下ネタは嫌がるくらいが、やっぱりちょうどいい。エリスはきっと、ちょうどいい女の子だと思う。だから僕は彼女が好きなのだ。

 だけど……

 ヘビーな下ネタにどう反応するかは、まだ見ていない。

 それを1回くらいは見てみたい。がしかし、嫌われてしまったら元も子もない。

 どうしよう。ヘビーなやつを投入するか、やめておくか……

「なによ、ユメオ。怖い顔して。またなんか、ヤラしいこと考えてるの?」

 よし、チャンスだ。どこまで行けるか試すには、今しかない。

「僕、ヤラしいかな?」

「むっつりでしょ」

「でも僕、なんでもいいわけじゃないよ。嫌いなやつの音とか匂いは嫌だけど、好きな人の音と匂いが好きなだけで」

「音と匂いって、なんの?」

「オシッコ」

 エリスは黙った。そして非情にも、今日は帰ってくれと僕を部屋から追い出した。


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第29回配信 彼女の部屋での闘い

第31回配信 学校にて


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