空きっ腹にガールズバー
それは数日前の出来事。新入社員を歓迎して開催した懇親会の日。
その日から、どうにも心が沈んでいた。
何をしていても、頭の中はこの言葉でいっぱいだ。
「ガールズバー」
3年前に入ってくれた当時は新入社員の子の歓迎会も、2年前に派遣職員として加わってくれた方の歓迎会もコロナ禍で実施できていなかった。
それで上司は、歓迎会ではなく、「懇親会」としてチームを招集した。
今回参加するメンバーには、その新入社員含め、お酒好きがいることから、飲み放題で予約されていた。
しかもその飲み放題は、セルフ飲み放題というやつで、ビールサーバをはじめ、ワイン、日本酒、ウィスキー、リキュールにソフトドリンク等々がセットされたカウンターが座席の近くに設置されていた。
たぬきちが酒は強くなく、好きでもないことを知る上司が、本来は上座にあたる奥の席をたぬきちに勧めてくれた。確かに奥から出てくるつもりもないので鎮座する。
新入社員の女性がテキパキと皆の要望に応えてお酒を作って配ってくれる。まるで、彼女のバーのようだと話すと、
「私、ガールズバーでアルバイトしてたんです」
と眩しい笑顔でカラッと自己開示をする。
その眩しい笑顔を見ながら、たぬきちの頭の中では、
「ガールズバー」のリフレインが始まった。
ニコニコ顔で彼女は続ける
「おじさん達から手を握られたりすることもありましたが、結構平気でした」
そして、年長の女性が続ける。「バーなんて、大体女の子がいるのに、ガールズバーって何が違うんでしょうね」
「本当に!ガールって何歳まで!?」
なんて、女性ばかりの飲み会も話が盛り上がっていた。
そんな中、たぬきちの思考回路は普段呑まないアルコールを摂取したせいでひどく鈍い。
「ガールズバー」
女性の集団の話題はコロコロと変わっていくのに、いつまでも「ガールズバー」に心が引きつけられて止まない。
「ガールズバーってどんな服装で働くんだろ。露出多いんかな」
宴もたけなわで解散してもまだ考えている。
帰りの電車で「ガールズバー 服装」と調べてみた。
ガールズバーの面接を受ける人のための服装を説明したサイトがトップに上がっていた。
際どめの制服があるようなところから、白シャツのような露出がないものまで様々なようだった。
「そりゃそうか」
それにしても、なんでこんなに気になるんだろうか。
40数年生きてきて、たぬきちはひとつの真理に辿り着いている。
事象があって心が動かされる時、原因は自分の中にある。
「ガールズバー」が気になって仕方ない原因は彼女ではなく、自分にある。
「彼女の若さが羨ましい?」
早く年が経って今生を終えたい私には若さはそこまで魅力的ではない。
「美しさが眩しい?」
眩しいのは確かだが、自分の美意識が高くないので、あまり気にならないし、女性の多い職場で美人は見慣れている。
「男性にチヤホヤされていて妬ましい?」
子どものからモテたいと思ったことがない。むしろ好意に対して嫌悪を持つタイプ。。。
ああでもない、こうでもないと散々考えて納得した答えが見つかった。
「自分の若さと美しさを認識して堂々と振る舞っている」
ガールズバーという仕事では、自分の若さと美しさは武器であり、男性から劣情のこもった目を向けられても、跳ね返す健全な精神が必要に違いない。
時給の良さや、酒好きなどの理由もあるだろうが、「自分に自信があり、堂々としている」人でないと務まらないに違いない。
「ガールズバー」というフックで、たぬきちのイジけ心が発動した結果だ。
その日は、そうか。まだイジケてんだな私。なんて思いながらも納得して眠りについた。
そして、迎えた翌朝。午前中、頭の中で呪文のように「ガールズバー」と唱えてはずっと心が沈んでいる。
さらに、その翌日の午前中も、「ガールズバー」と何度も思い起こしては心が沈む。
「今度は何だ?」自分の中の原因を探る。
「ガールズバー」については、納得したはずだ。なのに、なぜ引っかかっている?
よく考えたら、心が沈んでいるのは、午前中。午前と午後で何か違いはあるか?
平日の休みに、溜まった家事をこなしながら、たぬきちの内観は続く。
一つ思い当たる節があった。
「空腹」
たぬきちは、一年程前から16時間断食に挑戦しており、午前中は空腹である。
そういえば、「お腹いっぱい。苦しいー。なんか寂しい」ってならんならん。満腹時は、「満腹だー苦しい」終わり。
でも、空腹時だと、
「お腹空いたな。それに何だか寂しい」そう。これはしっくりくる。
そう思って、ネットの検索窓に、
「空腹 孤独感」
と打ち込んだ。
すると一つの記事に行き当たった。どうやら、空腹時と孤独を感じている時に、脳は同じ反応を示すという研究結果があるようだ。
なるほど。そういうわけか。要するにお腹が空いた時の脳の状態を、心が勝手に「寂しい」に変換して、沈んでいたようだ。
実際、昼食をとって、満腹になる頃には、「ガールズバー」のことはどうでもよくなっていた。「お腹がいっぱいで苦しい」それが全て。
空きっ腹にガールズバー。たぬきちには、混ぜるな危険⚠️であったようだ。
ダイエットされている皆さんも、もしかしたら空腹時にエセ寂しさが襲ってきて心がイジケているやも。
「腹が減ってる時は碌な事を考えない。お腹いっぱい食べて、暖かくして寝ろ!ってのは本当だ」
と実感したというお話でした。
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