春と冬がせめぎあうとき
福寿草に水仙、クロッカス…
寒さが残る早春に咲く花は、明るい黄色が多い気がしませんか。
ともすると縮こまりがちな心も伸びやかにしてくれる、元気な色調ですね。
春の兆しを感じると、自然に思い浮かぶドラマがあります。
昨年11月に亡くなられた脚本家・山田太一さんの『早春スケッチブック』です。
『岸辺のアルバム』に『ふぞろいの林檎たち』、『男たちの旅路』といった辺りが代表作として取り上げられることが多いですが、私にとって山田さんと言えば『早春スケッチブック』一択。
(あえて挙げるならば、次点は『今朝の秋』、これも一択!
笠智衆さん、杉村春子さん、杉浦直樹さん、何れも忘れがたい名演でした)
『早春スケッチブック』については、以前、noteを始める前に書いたブログ(既に閉鎖)の記事(2013年2月13日掲載)があるので、再掲します。
以下、過去ブログより再掲
山田太一脚本の「早春スケッチブック」。
1983年1月から3月にかけて放映されました。
ウィキペディアより、ストーリーを紹介しましょう。
一見普通の4人家族である望月家。
だが、娘・良子(中1)は父・省一の前妻との間の子。
息子・和彦(高3)は母・都が昔の男との間に作った子(結婚はせず)
という、実は複雑な4人家族。
長男の和彦は国立の一流大学を目指すほどの秀才で、
共通一次試験を控えていた。
その和彦の前に突然謎の女が現れ、ある洋館へ無理やり連れていく。
そこに住む謎の男は、和彦の実の父親・元写真家の沢田竜彦であった。
今までそれぞれ悩みを抱えつつも、4人の家族の形を維持してきた望月家。
それがある日突然、竜彦が現れたことにより家族関係にヒビが入る。
収束しようと務める母・都、家族を守ろうと必死の父・省一、
大学受験を控えつつ、竜彦に強烈なショックを与えられる息子・和彦、
そんな3人に気を揉む娘・良子。
そしてその家庭の安泰を壊そうとするかのような竜彦。
しかし竜彦は重い病に冒され、余命幾ばくもなかった。
挑戦的な言動に弱さを秘めたあり方がいかにも
「不治の病に侵されたアーティスト」らしい、竜彦役の山崎努、
かつてはトンガっていたけど今は平凡な家庭を営む都役の岩下志麻、
「小市民」代表といった趣の省一役、河原崎長一郎、
和彦を竜彦に会わせる、竜彦の現在の恋人で
凄絶なまでの美しさが際立っていた、明美役の樋口可南子、
戸惑いながらも竜彦の得体のしれない魅力に惹かれていく
二人の子どもたち、鶴見辰吾と二階堂千寿…
どの俳優さんも役にぴったり。
一人一人の人物造形が粒立っていたドラマでした。
最近NHKで放映された「キルトの家」でも健在だった
「山田太一節」が、この作品ではまさに全開ですっ!!
以上 再掲終わり
山田太一脚本の凄い所は、「お前らは骨の髄までありきたりだ!」と罵声を浴びせる竜彦と、その罵声を浴びる側、それぞれに葛藤する登場人物達を、誰かに肩入れすることなく、時に繊細に、時にラディカルに、ラストに向け過不足なく交錯させて描ききる筆力だと感じます。
印象的なセリフが沢山ありました。
同じく過去のブログ記事(2019年5月19日)で、このドラマに再度言及しています。
以下、過去ブログより再掲
今年の春、BS12チャンネルで山田太一脚本の、昭和の名作ドラマ
「早春スケッチブック」が再放送されました。
https://www.twellv.co.jp/event/soshun/archive.html
改めて全編を見て、時代に左右されない、揺るぎない質の良さがある
傑作だなと再確認する思いでした
(続いて同局で再放送の始まった「想い出づくり」は、正直
設定や表現が少々古くて、入り込めないと感じます)。
岩下志麻さん、山崎努さんをはじめ
主な役どころの俳優さんが皆、役にぴったりで
毎回引き込まれ、見入ってしまいました。
特に私の好きな、山崎努さんのセリフ。
一番はずかしい人間は、くだらないとか言って、
なにに対しても深い関心を持てない人間だ。
そういう人の魂は干からびている。
干からびた人間は、人を愛することも物を愛することも出来ない。
(中略)
好きなものがない、ということはとても恥ずかしいことだ。
なにかを無理にでも好きにならなければいけない。
若いうちは、特に、なにかを好きになる訓練をしなければいけない。
なにかを好きになり、夢中になるというところまで行けるのは、
素晴らしい能力なんだ。
物や人を深く愛せるというのは誰もが持てるというものじゃない、
大切な能力なんだ。
努力しなければ持つことの出来ない能力なんだ。
以上、再掲終わり
今、山田さんのエッセイと語り下ろしインタビューを収録した、河出文庫の『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年』を読んでいます。
この本の中で、山田さんは『早春スケッチブック』を構想した糸口は
「いつかは、自分自身をもはや軽蔑することのできないような、
最も軽蔑すべき人間の時代が来るだろう」
というニーチェの言葉だったと記しています。
成程と思いました。
世界のニュースでも、国内に目を向けても、そんな「最も軽蔑すべき人間」がやたらと跋扈していて暗い気持ちになりますが、そんな自分を省みれば、決して他人のことばかり責められないだろうという有り様。
それでも、座右の銘のひとつとしている「平安の祈り」を唱えては、できることをやっていけばいい、そうしようと、自分に言い聞かせるのでした。
平安の祈り(アメリカの神学者ラインホルト・ニーバー作)
神さま、私にお与えください
変えられないものを受けいれる落ち着きを
変えられるものを変える勇気を
そしてその二つを見分ける賢さを
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