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私が水戸ホーリーホックを応援するようになって 彰往から考来へ その4


茨城大学水戸ホーリーホック応援ネットワーク(茨大ホーリーネット)7年間の歩み


第4章 大学とプロスポーツクラブの連携,その魅力と課題


前章と一部内容が重複するが,ここでは,大学とクラブ,異なる文化での連携が生み出す魅力と,見えてきた課題とを,関わった教員の目線で語ってみる.

11.学生,教職員をスタジアムに


 学生,教職員の,できるだけ多くの方にプロフットボールの楽しさを実感してもらうために,2013 シーズンの連携協定締結から7回オール茨城大学応援デーを開催した.これにはクラブ側に全面的な協力をいただいたわけであるが,大学側からも予算の配分を受け,大学とスタジアムの間の送迎のため,バスを借り上げることで,入学間もないため,アクセスに難のある学生さんにも,参加していただけるようにした.
特筆すべきは,戦績は3勝4分け.茨城大学応援の不敗神話は,いまだ破られていない..
2013/5/19 vs.岐阜 4-1 勝利, (鈴木雄斗,山村佑樹,橋本晃司,尾本敬)
2014/5/18 vs. 京都5-1 勝利, (馬場賢治,三島康平*2,吉田眞紀人,内田航平)
2015/5/17 vs. 大分 1-1 ドロー,(馬場賢治) 
2016/6/12 vs. 町田 2-2 ドロー, (ロメロ・フランク,三島康平)
2017/5/21 vs. 徳島 1-1 ドロー (前田大然)
2018/5/13 vs. 岡山 3-0 雨中の勝利 (田中恵太,伊藤涼太郎*2)
2019/6/22 vs, 横浜FC 1-1 ドロー (細川淳矢)
歴代得点者の名前も,育成の水戸ホーリーホックらしい,なかなか味わい深いものがある.
更に言えば,毎回着実に参加者が増え,ここから毎年何人かは,個人で年パスを購入してスタジアムに通うようになる教職員や,卒業してからも応援を続けるOB,OGが必ずいて,熱心なサポーターとして定着していったことであろう.
水戸よりも先に鹿島アントラーズと連携協定は締結され,応援バスツアーのようなものは行われており,私も参加した経験がある.しかし,学長から学生まで,思い思いのトーンで,しかしホーリーホックを楽しく応援する,と言う,あの牧歌的な雰囲気は,水戸ホーリーホックの持つ選手との距離感の近さが,大きな魅力となっていることは,間違いのないところと考える.
また,大学サークルとクラブとの相互間で行われていたイベントへの協力も,大学との連携を通じ,より有機的に繋がる方向に動いていったと見ることができる.他学部の学生さんに,スタジアムに着いた時,「あ,先生だったんですね!」といわれ,「何だと思っていたの?」と応えると,「いえ,あの,熱心なサポーターさんだと思っていました」「まあ,それは全然外れていないけど,でも,先生でもあるんだよね」そんな逸話も懐かしい.

大学祭のプロスポーツ連携展示に連日来てくださった三村学長(当時)

 私は生来の偏屈な性格も禍して,大学の役職とは最後まで縁のない身であった.そんなこともあり,三村信男学長(当時)とは,それまでほとんど接点もなく,話もしたことはなかった.しかし,このイベントのおかげで,とにかく,やたらホーリーに熱い教授がいて,それは理学部の藤縄というやつらしい,と言う情報が学長の頭の中にインプットされたらしい.それ以来,水戸ホーリーホックとの連携イベントがある度に顔を出してくれ,そして,学長の方から平教授の私にホーリー談義をしてくれるようになった.これは,大学と言う組織の中では意外と珍しいことで,ある意味,学長のお墨付きをもらったようなものである.学内で水戸ホーリーホックの応援をするのに,何も遠慮することはなくなってしまったのである(最もこれがなくとも遠慮はあまりなかったとは思うが).この関係は一緒に退職し,名誉教授称号授与式で談笑するまで,全く変わることはなかった.
 残念ながら,コロナ禍以来,この応援イベントは中断したまま,今日に至っている.まだまだ厳しい状況は続いているが,いつかまた,この文化は絶やすことなく再開,継続していただきたいと強く願っている.


12.選手,スタッフ,そしてサポーターを大学に


 2014年から毎年末,茨城大学図書館で開催されるようになったフットボールカフェ,これは,開かれた大学における一般市民への,大学における研究,教育活動の紹介,普及,と言う位置づけのイベント,その一環として開催されてきた.
第1回は,2014.12 第1部:沼田邦郎社長,第2部:吉田眞紀人,田向泰輝

  https://www.targma.jp/hollyhock/2014/12/30/post9729/

翌年の第2回は,2015.12 第1,2部とも 本間幸司選手が熱心に対応をしてくれた.

そして第3回,一番笑いをとったと思われるこの回は,2016.12 第1部:営業部 渡邊欽也,菊池伸行営業部チーフ,第2部:船谷圭祐,細川淳矢 https://www.targma.jp/hollyhock/2017/01/25/post17414/  参加者約130人

第4回は,最も思い出深いメンバーによる登壇であった.2017.12 第1部:島田祐輝コーチ,第2部:前田大然,内田航平,伊藤涼太郎 https://www.targma.jp/hollyhock/2017/12/26/post20128/  参加者約170人

後片付けのワンシーン.最前列,右に前田大然,左に伊藤涼太郎という豪華メンバー

第5回,これは,私が裏方に急遽まわって,舞台裏から拝見した回であった.2018.12 第1部:営業部渡邊欽也,広報加藤健一 第2部:細川淳矢,黒川淳史  参加者は200人超え,座席に座れきれず,階段に座ってもらっても一杯  https://www.targma.jp/hollyhock/2018/12/25/post23970/

第6回? 2019年は大学と新たに連携協定を結んだBリーグの茨城ロボッツと合同のフットボール,バスケットボールカフェを開催した.サッカーがオフである一方,バスケットはリーグのまっただ中という,時期の難しさと当日の天候も悪さから,会場を講堂へと広くした割に,参加者が少なめであった.水戸ホーリーホックからの出席は,クラブ代表として冨田大介,選手のレジェンドとして本間幸司,そして,イベント企画のプロとしての加藤健一,以上の三氏.
フットボールカフェというイベントは年々サポーター,学生の関心が高まり,5回目では遂に会場が満杯になった.このイベントも2020年以降,中断を余儀なくされている.茨城ロボッツを加えた大きな枝に火を移した途端に水を差された格好になり,私個人的にも退職後,ずっと気になっているイベントでもある.

13.大学を地域文化のハブに


 2012年から始まった大学とスポーツクラブとの連携活動,実質的な日常的連携を継続した,茨大ホーリーネットを中心とした活動は,やがて,2017年頃から茨城ロボッツを応援するグループと協調しながら,より大きな,大学-プロスポーツクラブ間の活動として広がりを見せていくはずであった,まさに,2段目のロケットに点火,噴射が始まろうとした時にコロナ禍がブレーキをかけられてしまった感がある.
 それでも,一人の学生(人文社会科学部:会澤夏美)さんの発案から,2021年には,小島耕社長がスタジアムと大学の構内の2カ所で,クラブの実情と,これからの展望を語り,学生や,一般の参加者と意見交換をする,というイベントが開催された.これも,開催側の準備がコロナ禍のもと,思うに任せず,周知がやや不足した感は否めなかったものの,参加者には思いのほか好評であった.わざわざ都内から「大学がこんな事をするなんて」と,駆けつけてくれた参加者さん,帰りのバス乗り場で,「初めての茨城大学でしたが,来た甲斐がありました」と言ってくださったのには,既に辞めた身ながら,発案から実施まで,傍らで見ていた者としても,素直にうれしさがこみ上げてきた.
こういう地道な事でも,真摯にトライ,継続をすることで,必ずその結果は出てくるし,無駄なことなんてない!そんなことをぜひ,特に若い学生さんには体験をしていただきたい.そういうことができるのが,大学の本来あるべき利点の筈である.今,大学を取り巻く環境は厳しいことは,よく分かっているつもりである.しかし,できない理由を挙げるのは,比較的たやすいこと,それで止めてしまっては,新しい道は絶対に拓けない.一筋縄でいかないのなら,何とかして道を開く方法を工夫し,チャレンジすること,その姿勢をとり続けるこそが,大学人のあるべき姿ではないだろうか.研究,教育が忙しい?そうだろう,しかし,その成果は,とどのつまり,何のため,誰のために役立てようとしているの?まさか,自分の欲とか名誉のためじゃないでしょ?次世代の学生さんや社会の皆さんのより明るい生活のためなら,真剣にプロクラブとの連携の実をあげることも,研究,教育と同じくらい,大学人としても重要なタスクなのではないかな?そうであれば,簡単にできない理由を述べて,終わりなんかにして欲しくない.そう考えることもできるのでは?
どんなに高尚,高邁な研究,教育をしようとしても,受ける側との連携,コミュニケーションがきちっとしてなければ,伝わるものではない!それは今更,釈迦に説法,でしょう?ならば,御しやすい相手を選んで群れを作っていって,それで組織としての機能が果たせているのか? 広く開かれているとすれば,相手とするさまざまな人を,周りの協力者を,信頼で結びつけられた味方にしていく,そういう,いわば「田起こし,耕し」がなくして,実りは得られない.人相手の田起こしは,元来,研究,教育の原点のはず.実際,プロスポーツやそのクラブとの連携では,その「人相手の田起こし」を生で実践している,その場を生で体験できるわけですよ.それを会澤さんのチャレンジは見事に体現している,私にはそう見える.
 先生方の視点で見れば,研究成果をあげるために,目的以外のことを極力省き,スクラップ,犠牲にしていく,というのは,一見合目的的ストイックな行為に見えるが,その成果でも,開かれた対象である市民,街の人たちに(直ぐにとは言わないが)認められるものでなければ,社会との繋がりのない,自己満足を目的化したものになってしまいかねないのでは?大学は常に社会,市民に開かれ,サポーターである茨城を中心とした人たちから信頼を勝ち取っていなければならない存在の筈,そういう意味においても,対人理解,信頼関係の樹立において,地元のプロクラブと共通して学ぶべきタスクはたくさんある,つまり互いに気づき合えるはずのことが,たくさんあると思うのである.

14.ずっと夢追いかけて,光掴むまで


 大学も,フットボールクラブも,プロスポーツクラブ全体としても,コロナ禍からどう未来への展望を再構築していくのかが,厳しく問われているところであろう.ともすると,上部の組織からの指示,ガイドラインに縛られて,自由,闊達な議論やチャレンジがしにくくなっている様子は理解できる.しかし,これを従属的に受け続けたところで,次世代が明るい希望を持てる場が確保できるだろうか? 危機が起こると, 1つの解決策をすべてのものに課そうとするのは,とかく上に立つものの責任の取り方として,一番安全な施策だと,捉えられがちである.
 しかし,上意下達ではなく,個々の事情を熟知し,その課題を洗い出し,それぞれにとってえられる最適解は,実はケースの数だけあり得るのだと思う.一人ひとりが当事者として,小さな責任を全うし,互いを信頼し合って,大きな目的に向かって共に前に進むこと,結局はそうした,「人と人との信頼ネットワークが,各組織に形成できるか否か」そこが問われているのではないだろうか.誰かに引きずられつつも,責任をその人にとってもらおう,と,受動的に生きていれば,最後はお上が何とかしてくれるだろう,そういう他人任せが,実は今のような危機的状況下では,為政者側にも,市民側にとっても,相当にリスキーなことであることを,私たちは歴史の最前面で体験しているのではないだろうか.
そういう見方をすると,大学における,学生,教員職員といった大学構成員も,プロクラブにおける,選手,スタッフ,サポーターも皆,立場,役割は違えど,皆,一人一人が(役割分担をしている)当事者として,主体的にチャレンジをしていくことが重要だと思われる.そして,間違った,失敗をした時の,「ドンマイ」のゆとり,ゆとりがなくなりそうな時こそ,このゆとりが大切なのではないか.ステレオスコピックに,できるだけ客体化した,鳥瞰的な眼で,今の自分や組織の立ち位置を見てみることは,大切なことなのではないだろうか.     (彰往編,おわり)

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