おにぎり

昼の特急列車の中で、おにぎりを食べていた。おにぎりを美味しいと思った。

窓の外は飛ぶように景色が変わっていく。山間の小さな掘立て小屋。昔は人が住んでいたのだろう。トンネルに入ると真っ暗で、窓に自分の顔が映った。

さっきまではスマホでニュースを読みながら、ただ昼のお腹を満たすために食べていたけど、なぜか急に罪悪感にかられておにぎりに感謝したら窓の外の景色が見えるようになった。
電車の右が山側、左が里側、意識することはなかったが、いつも里側の席に座っていたのだなと思った。

休日の昼に出勤は少し気が楽だ。いつもの朝だったら体力を整えるために寝ようとか、今日の仕事の段取りをどうしようとか、そんなことで頭がいっぱいになる。
トンネルを出た、一軒だけオレンジの屋根、またトンネルに入った。

工場への自働化ラインの設置は、課題が次から次に飛び出して遅れに遅れていた。
そのために普段は月曜日の朝1の列車で出勤して1週間を寮で過ごす。

任せっきりにしてしまったことを今更後悔していた。と言っても元々管理することもされることも好きじゃない自分が上手くできるわけがない、と開き直ってもいた。
遅れた責任は自分にある。
「あとは引き受けるよ、次の仕事を頼む」
目の前のたくさんの義務を抱えながらもそうすることがベストだったと今も思ってる。

ラインの構築以外に報告書の作成、何をやってきてどうしてまだ立ち上がらないのかの説明、時間の無駄でしかない周りからの、ありがたいありきたりなアドバイス、そんなことへの対応に追われる。

窓の外を見た。
山は大きい、後ろは青い、手前の鉄塔が大きく見えても山の方がずっと大きいことを知っている。
雨が降っても曇っても、空の青さはその後ろにあって変わらないことを知っている。
すぐ近くをめまぐるしく通り過ぎる葉っぱの一つ一つを見ることは難しいけど、遠くの家はしっかりと見える。

心に余裕ができた。

寮から出勤する道で、考えながら下を向いて歩くくせがついたのか、必ず枝にぶつかる。大きな木から折れた枝が垂れ下がっていて、なぜか毎日顔にあたる。メガネが飛ばされたこともある。邪魔だから取り除こうと思ってもまだ半分くらいくっついていて、おいそれとは取れないからそのままになってる。
でも、しっかり前を向いて、先を見て頑張れと笑いながらいたずらされているのかもしれない。

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