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【連載小説】恋愛 #18

京都東インターを過ぎると、急に道が空いた。
マジカは右車線へ出て、スピードを出した。ベンツもBMWも後を追った。
ぶっちぎろうかなと思ったが、車の性能から止めた。
アミはぐっすり寝ているし、まだ慌てる時ではない。そう言い聞かせて、マジカはまた、左車線に戻った。
 
あっという間に名古屋を過ぎた。
アミが起きた。そして、「トイレに行きたい」と言った。
マジカも、実は一時間も前から尿意を我慢してきた。
リスクはあるが、仕方がない。マジカは上郷SAに入る事にした。
 
 
上郷SAの駐車場では、出来るだけトイレに近いスペースに車を止めた。
まず先に、アミをトイレに行かせる事にした。
マジカはアミに女子トイレの入り口まで付き添い、トイレ前で出てくるのを待った。
アミが出てくると、マジカは自分たちの車までアミと一緒に行き、アミが車に乗り込むとロックをかけ、今度は自分がトイレに向かった。
 
マジカは用を足し終えると、そのままコンビニへ行った。
昼飯のおにぎりやお茶などを買い、コンビニを出た。
マジカは、コンビニを出て駐車場を歩き、自分の車へ向かって歩いている時に、向こうから来る大柄の男とすれ違った。
男がマジカの真横に来た時、マジカは男の手がマジカの右手の指を触ったと思った。
次の瞬間、マジカはアスファルトの道路に一回転して落ちた。
男は何らかの柔術の使い手なんだろう…
しかし、マジカが道路に倒れ込んだ後、男の姿は消えていた。
マジカは、頭は打ってないので意識ははっきりしていたが、ただ道路に打ちつけた右の腰が痛くて、道路の真ん中で暫く動けなかった。
他の通行者が集まり始めた。救急車を呼ぼうと誰かが言った。
ここで救急車で運ばれてしまうと、アミの身に何かが起こる可能性が出てくるとマジカは思ったので、声を掛けてくれる方々に向け「大丈夫です」と何度も言い、ノロノロと立ち上がった。
そして、自分の車へと、痛む右の腰を手でさすりながらゆっくり歩いて行った。集まった人々は散っていった。
車に着いた。アミが「どうしたの?」と訊いてきたので、「やられた」とだけ言い、マジカは後部座席で長く伸びた。
 
暫く待ったが一向に右の腰の痛みは弱まらなかった。どうやら打撲のようだ。
マジカは自分のリュックのポケットを探った。
マジカはとにかく地方遠征の実戦が多いため、移動用のバッグにはメディスンポーチが入れてあった。
その中から湿布を出してきて、アミに貼ってもらった。そして、いつも持ってる腰痛用のコルセットを巻いた。
マジカは「座る仕事」なので、腰痛が定期的に起こるから、いつもコルセットは入れてあるのだ。

それでもう少し待ってみたが、まだ車を運転できそうではなかった。
でも、こんなところでずっと留まっていると、今はいいが、車が少なくなってきたら、相手が色々と仕掛けてくる可能性がある。
それに相手が応援を呼べる可能性も出てくる。今でさえヤツらを撒けないのに、数が増えてしまうと本当に手に負えなくなる。


どうしようか…
マジカは悩んだ。


「マジカさんが運転できないなら、ちょっとだけ私が運転しようか?」とアミが言った。
「えっ?免許持ってるの?」
「うん、ゴールド免許。でも、走り屋だけどね…」
「大丈夫かなあ…まあ、じゃあ最悪次のSAまでという事でアミに運転をお願いしようか」
「分かった。」アミは運転席に移った。
アミは本線に車を出すと、いきなり右車線へ移動し、スピードを上げた。マジカは後部座席で横になっているためにスピードメーターは見えないのだが、きっと大幅なスピード違反状態なのだろう。白いプリウスはかっ飛んでいった。かなり遅れてベンツとBMWは後を追った。


 
マジカは自撮りで、何だかよく分からない攻撃を受け、腰を負傷したと投稿した。すぐに花木から電話が入った。


「マジカ、大丈夫か?」
「今はちょっと痛みが酷いんですが、しばらく休めばまた運転できると思います」
「で、運転はアミさんが?」
「そうです。上手いですよ、彼女」
「そう、それで今はどの辺?」
「愛知県の上郷SAを出たところです」
「じゃあ、もうすぐ静岡県に入るな?」
「そうですね。早けりゃ後一時間以内に静岡県には入れると思います。」
「今さあ、うちの大橋が富士宮で実戦中なんだけど、大橋と次の手をメールのやり取りで検討中なんだよ。その作戦が上手くまとまれば、また電話するから、何とか耐えてくれ」
「分かりました。花木さん…」
「何だ?」
「色々、ありがとうございます。こんな俺のために…」
「バカ野郎、お前のためじゃねえよ。そのお嬢さん、「マジカがやるぞ!マジか?」の大ファンだって言うんだろう?あれはお前と安西の番組だけどな。お前も知っての通り、安西の師匠は俺だからな。だから、番組のファンって言ってくれる人は大事にしないとな。ファンサービスだよ」

マジカは、花木のその言葉に恐縮した。本当に花木は安西の師匠で、安西に言わせれば雲の上の人だそうだ。
マジカも花木とは付き合いが長いが、仕事が違うため、今まではそんな風に見た事がなかった。でも、今は花木も安西も含め、色んな人たちに支えられて自分たちの番組は成立している事をひしひしと実感した。そして、その人たちは今俺とアミの窮地を救ってくれようとしている。だから何とか、これを乗り越えないといけない。マジカはそう思った。
そして、花木に「ありがとうございます!」と言って、電話を切った。
運転席ではアミが涙をこらえながら、車を前に走らせていた。


 
 


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