【VRMMO】ダイバーエリア 第1話 仮想空間
【あらすじ】
2xxx年、機械、人工知能が急成長し多くの人類は娯楽を仮想空間で満たす世界となった。
2人の男女が仮想空間でゲームをしていると、
黒いフードを被った人物はゲームをハッキングしクリアするまでログアウト不可にした。
考える力が衰えた人間達は攻略する事が出来るのか―――!
【補足】
キャッチコピー:命を懸けた仮想空間のゲームを攻略せよ!
一言:実際に笑ったり泣いたりしながら執筆したので、作品に喜怒哀楽の感情が全て入っています。
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【第1話】
———【西暦2xxx年】
日本の機械文明は急成長し人間は人工知能と共に生き、娯楽を仮想空間で満たす生活を送っていた。
人工知能は人間の行動を助言する役割を補う。次第に人間達は《《自分の意思で考える》》能力が衰えAI無しでは、もはや生きる事が難しい状況だ。
とある大学生の青年は賃貸の小さなアパートに住み、戸棚に収納しているカップ麺に手を伸ばす。
「星冬様!この優秀AIであるフェアリー11Rが助言します!最近、カップ麺を食べてばかりですので栄養満点の冷凍お弁当を食べる事を推奨します!」
キラキラと輝く小さな妖精の姿をしたAIは青年の顔面前まで移動し強く話す。
星冬 「自分で優秀って…。わかりましたよ」
フェアリー11Rの助言に星冬は仕方なしに冷凍庫に保存している弁当を手に取ると電子レンジの中に放り込む。
「むか~しに比べるといまの冷凍保存は温めるだけで出来立てほやほのご飯を食べれますしね!カップ麺は昔のまま不健康です!」
星冬 「あのジャンクな味が食いたくなるんだよなぁ」
電子レンジの音がチンっと鳴ると星冬は温まった弁当を取り出しテーブルの上へと運ぶ。
星冬 「いただきます」
手を合わせると箸を握り、ふっくらしたお米にジューシーなチキンステーキ、温野菜、甘い玉子焼きとバランスの良い出来立てほやほやの食事を口の中へ運ぶ。
「今日も仮想空間で遊ぶのですか?」
フェアリー11Rにそう言われ星冬はもぐもぐと食べながら頷く。
「ダイバーエリアで遊ぶのは1日、2時間までが推奨です!」
星冬 「昔の映像に映っていた日本の《《おかん》》みたいな事を言うよな」
「せ・い・と・さ・ま!」
星冬 「へいへい」
星冬は力強く話すAIに頷き、手をヒラヒラと動かす。この場限りはすんなりと頷く星冬だが、AIの意見に聞く耳を立てる事もなく深夜まで遊ぶ気満々だった。
星冬 「ごちそうさまでした」
弁当を空にすると、星冬は仮想空間にダイブする椅子に座り、目の前のデスクに置いてある眼鏡を装着する。
「星冬様!2時間推奨ですからね!」
星冬 「わかったわかった。ダイバーエリアでも適格な助言よろしくな。優秀なフェアリー11R様」
「ふふっ!仕方ないですね~!」
フェアリー11R上手くおだてられ腰に両手を当てる。黒いゲーミングチェアに座ると星冬の眼鏡越しに起動メッセージが表示されアナウンスが流れる。
―――意識をダイバーエリアに移行します。目を閉じて下さい
―――Loding...80%
―――プレイヤーの身体が安全か確認。異常なし。
―――プレイヤーの瞼を閉じているかの確認。異常なし。
―――Loding..100%
―――意識をダイバーエリアに移行します。
Loadingが100%になると人々がガヤガヤと騒ぐ声が響き渡る。
―――意識移行、完了。目を開けて下さい。ダイバーエリアで楽しいひと時を。
星冬は瞼を開くと夜を迎えた広場に移動していた。イルミネーションのように色鮮やかな灯りが幾つも輝き、穏やかな水の流れる音のする大きな噴水。
広場のプレイヤーはアニメに出てくるピンク色の髪でツインテールに結びフリルな服装や、高身長で俳優のように整ったスタイルと美貌。
ダイバーエリアでは自分がなりたい理想の姿になる事が可能だ。
全てが実物では無いのかと錯覚してしまう世界にダイブした仮想空間は皆、ダイバーエリアと口にするVR空間だ。
星冬は手を伸ばすと目の前に空間のモニターを映し出す。右上に自分のプレイヤー名、Seitoと表示されたモニターでフレンドのログイン状況をタップする。
ちなみにダイバーエリアでSeitoの姿は現実世界と一緒の背丈ではあるが、アッシュ色をした短髪で容姿は当然の如く整っている。
Seito 「Seikaはまだログインしていない…か」
肩を落としそう呟くと現実世界と全く一緒の姿をしたフェアリー11RがSeitoの顔前まで移動する。
「ふふっ!Seito様~…気になる方がログインしましたよ~~?」
フェアリー11Rが茶化すように笑うと『Seikaがログインしました』と通知とアナウンスが流れる。ログインしたSeikaはSeitoの前へ急に姿を現す。
ピンク色の髪を赤いリボンでポニーテールで結ぶSeika。誰の目から見ても愛らしい姿だ。
Seika 「やっほー!Seito!」
Seito 「おー。Seikaも今、ログインしたか」
ログインしているか気になっていたSeitoだが、本人の前ではクールを装い答える。
数か月前に始めたばかりの2人だが名前が似ていると話すようになり次第にはゲーム仲間となっていた。
Seika 「今日も一緒にスピファンやるよね?」
Seito 「レベル上げでもするか」
スピリットファンタジー、略してスピファン。神の宝を探し出せばゲームクリアとなる。
広大なエリアで幾つもの宝箱は配置しているが闇雲に開けると大半は中は空なんて事はざらにある。運が悪ければトラップに引っかかり戦闘不能。
探し出すのに近道はレベルを上げ、そして四大精霊の試練に挑み、全ての精霊の恩恵を得た時に神の宝を特定できるようなゲームだ。
Seika 「ゲームエリアにあるスピファンに向かお!」
Seito 「おう」
2人の意見が一致すると、ダイバーエリア内にあるゲームエリアにワープしスピリットファンタジーのゲートをくぐり抜ける。
くぐり抜けるとスピファンの安全地帯である広場へ移動し2人は辺りを見渡す。
甲冑装備で大きな盾を持つ者、大剣を背中に背負う者、大きな杖を持ちローブを着用する者。
そんなファンタジーの世界に移動したSeitoとSeikaは片手剣を得意とし腰に装着している。
Seika 「今日はオークがいる所でレベル上げをしようよ!」
Seito 「あそこか。んじゃ移動するか」
2人は空間でモニターでマップを出すとタップしワープをする。狩場に辿り着くと他のプレイヤー達は4人パーティを組みオークを狩っていた。
1人は盾役になり、もう1人はヒーラー役になり、そして攻撃をするアタッカーなど…。
AIに攻撃パターンを助言された事を鵜呑みにしプレイヤー達は動く。傍目から見たら、まるでAIに操られているかのようだ。
Seito 「2人だと効率悪いし、一緒に戦闘するAIプレイヤーを呼ぼう」
Seika 「おっけー!」
Seitoがそう話すとモニターから戦闘型であるAIを呼び出す。AIはプレイヤーと見分けがつくよう妖精のマークが背中に縫い込まれている白い服を着用している。
2人は腰につけている剣を抜くと白銀の色をした髪と目の姿をしたAIと共にオークに襲い掛かる。
「Seito様!オークが強力の技を溜めています!」
「Seika様。すぐに後方に下がる事を推奨します」
フェアリーに助言をされる2人だが、聞く耳を立てる事は無くSeitoは剣を振るい、Seikaは火の魔法を詠唱し戦い続ける。
「も~~~~!Seito様ったら本当に話しを聞かない!」
「Seika様もです…」
フェアリー型のAIに呆れられるとHPが残り僅かの所でオークは溜め技を発動する。
Seito 「おっと」
Seika 「なんとな~くタイミング分かるしね!」
突進するオークに2人は軽々と横に回避するとトドメの一撃を与えノーダメージのまま倒す。
その後、襲いかかるオークを一掃しレベルがみるみると上げていく。
次第に取得する経験値が少なくなり効率が悪くなると2人は狩る事を辞め広場へと戻る。
Seito 「結構、レベル上がったな」
Seika 「この前、火と水の精霊の試練をクリアしたからそろそろ風でも行っとく?」
Seito 「そうだな」
「Seito様!運営からの情報ですが日をまたぐ0時からスピファン1周年記念でイベントがあるみたいです!」
「もしかするとイベント限定のアイテムがゲットできるかもしれませんね!Seika様も参加されてみてはいかがでしょうか?」
フェアリー11RとSeikaのフェアリー11Kは取得した情報を伝えると2人は時刻を確認する。
Seito 「今の時刻は23時…か。Seika、どうする?」
Seika 「イベントでしかゲットできないアイテム…欲しい!0時まで待とう!」
意見が一致し2人は0時になるまで広場で待機する。時刻が0時に迫れば迫る程、人が増え時刻は0時になる前の23時59分となる。
Seika 「1周年記念だから花火がバーンっと沢山、打ち上げられるのかな~!」
イベントの演出にSeikaは今か今かと待ちわびていると広場に大きなモニターからカウントダウンの合図が流れる。
広場に集まるプレイヤー達は一斉に5!4!3!2!1!と口にし0時になった瞬間、花火が打ち上がる事もなくモニターがプツンッと音が鳴り真っ暗となる。
Seito 「何だ…?」
Seika 「えっ?イベントじゃないの?画面真っ暗だ…」
広場に集まるプレイヤー達が騒めくと、真っ黒なフードを被った人物がモニターに映し出され全員が直視する。
「やぁやぁ。プレイヤーの諸君。元気かな?君たちにはとっておきのイベントを用意しているよ」
背丈や声を聞いた限り、少年であろう人物の言葉に周りのプレイヤー達は顔を合わせ、首を傾げる。
「このゲームはリリースしてから1周年も経つのに…クリアする気配が無くてねぇ…。だから!君たちにはこれからスピリットファンタジーをクリアするまでログアウト出来ないようにハッキングしたんだ!」
黒いフードを被った少年は楽しげに話すと手を叩く。
「あ!ちなみに戦闘不能になったら、現実の身体とダイバーエリアにリンクしている脳が遮断されて植物人間になっちゃうから!そこだけは気を付けてねー!それに、すぐAIに頼るのもクリアしたって言わないからねぇ、AIも使用禁止にするよ!んじゃ、クリア出来る事を祈るよ!じゃあね!」
モニターからプツンっと音が鳴ると真っ黒になる。人が集う広場は地獄絵図のように叫び、涙を流し、膝から崩れ落ちていた。
Seito 「Seika…なのか?」
Seika 「Seito……?」
黒髪の短髪のSeitoと黒髪のボブヘアーのSeika。互いに見つめ合うと現実世界の容姿になり2人は黙り込む。
Seika 「―――っっ!!」
Seito 「あっ!Seika!!」
頬から涙が溢れると手で顔を覆いワープし消え去るSeikaにSeitoは手を伸ばす。
Seito 「フェアリー11R!Seikaの位置は!?」
問いかけるSeitoだが反応が無くキラキラと輝くフェアリー11Rの姿を探すように辺りを見渡す。
Seito 「11R…?」
姿が見当たらずSeitoはメニュー画面を開く。システムをタップすると、AI設定、ログアウトの文字色が薄っすらと灰色になっている。
Seito 「本当に…AIもログアウトも出来ないのか!?」
灰色になった文字を何度もタップするが"Error"と警告で赤い文字で大きく表示されSeitoは髪をクシャクシャにし頭を抱える。
Seito 「くそっ!!Seikaを追いかけないと!どこだ…どこにいったんだ…」
SeitoはSeikaに関するあらゆる情報を短時間で思い返す。名前が似ているから一緒にゲームをし始めた頃。
同じ大学生の20歳と年ごろが近いと更に距離が縮まった頃。そして……AIに助言されても自分の意思が強く自ら考え動く事。
力を合わせレベルを上げ、精霊の試練に挑むのも、アイテムやお金を稼ぐ時も常に一緒だった事を思い返す。
Seito 「そういえば最近…2人でお金をコツコツ溜めて家を買ったんだ!絶対にあそこだ!」
モニターを映し出すと操作しMAPを展開する。がむしゃらに操作していくと家を購入した場所をタップし瞬座にワープする。
緑色の葉が香る場所にワープする。風がサァーっと吹くと葉がユラユラと揺れる音が鳴り、満月の灯りが建物の屋根を照らしている。
建物の中は外から見ても薄っすらと灯りが照らされてる事が確認でき、Seitoは確信する。
Seito 「中の灯りが点いている…。やっぱりSeikaがいるんだ」
息を深く吸い、ゆっくり吐くとSeitoは頷き建物の中へと向かう。玄関口まで辿り着くとドアを軽くコンコンっとノックの音を鳴らす。
Seito 「Seika。入るよ?」
ドアを引くとギィと鈍い音が鳴り中へと足を踏み込む。建物の中は人気を感じない程に静かだった。
Seito 「Seika?」
声を出すSeitoだが反応は全く無く廊下を歩き出す。ウロウロと見渡すとリビングからシクシクと女性の泣く声が聞こえ耳をすませる。
Seito (泣いている…?)
廊下から顔だけ出すとSeikaはテーブルの上に肘を置き両手で顔を覆っていた。
Seito 「Seika…泣かないで」
頬を通しテーブルの上にポタポタと落ちる涙は止まる事が無く流れている。
涙を見せるSeikaにSeitoはいても立ってもいられず歩み寄る。
Seika 「絶対…嫌われた…」
震えた声で呟くSeikaの背中をなだめるようにSeitoは優しく撫でる。
Seito 「嫌われた?」
Seika 「私っ!!全然可愛くないから!Seitoに嫌われた!」
広いリビングにSeikaの大きな声が響く。Seitoは涙を流すSeikaの顔を見つめたまま目を丸くする。
Seito 「Seikaは…可愛いよ」
Seika 「えっ…?」
Seitoの言葉にSeikaは拍子の抜けた声を出す。
Seito 「それに、俺は元々Seikaの性格が―――好きだし」
顔を赤らめながら話すSeitoの言葉にSeikaはドキッとし頬を赤らめる。
Seika 「ごめん。感情的になって…」
涙を拭うSeikaにSeitoは首を横に振ると、隣の椅子に座る。
Seito 「無理もないよ。あんな出来事が起こったんだから」
Seika 「うん…」
現実世界の姿になり、互いに改めて見ると2人は恥ずかしい気持ちになりぎこちない様子を見せる。
リビングで沈黙の間が経つとSeikaは気持ちを落ち着かせるよう深呼吸をし隣に座るSeitoの顔を見つめる。
Seika 「ねぇ、Seito」
Seito 「ん?」
Seika 「もし、このゲームをクリアした時には…その…」
言葉に詰まるSeikaは頬を赤らめながら手を組んだり緩んだりする。
Seika 「仮想空間の中じゃなくて、実際に逢いたいな」
真剣な表情で話すSeikaだがSeitoはプフッと吹き出し笑う。
Seito 「あははっ!」
Seika 「もう急に笑って何!?」
吹き出し笑うSeitoにSeikaは眉を寄せる。
Seito 「いや。もう俺ら現実世界の姿だから逢ってるのに等しいかなって」
Seika 「そ、そうだけど…。うちらって案外、近いところに住んでるし…実際に触れてみたい…し…」
顔を赤くしながらもぽつりぽつり話すSeikaの言葉に、Seitoは思わず顔がニヤけてしまいそうになるほど気持ちが高まる。
紳士に対応したいSeitoは気持ちを何とか落ち着かせ隣に座るSeikaの手を握る。
Seito 「俺とSeikaが住んでいる間の並木道で必ず逢おう。その時に、俺から真面目な話をするよ」
Seika 「真面目な話?こんな状況なんだし攻略の事なら今、してよ!」
Seikaの鈍さにSeitoはガクッと肩を落とす。
Seito 「いや、その真面目じゃなくて…。大事な話があるから。俺達2人の事だよ」
Seika 「む~~。気になるな~~」
腕を組み頬をプクーと膨らませるSeikaに、Seitoは再び吹き出し笑う。
Seito 「はは!お楽しみに。本当にSeikaは面白いな」
Seika 「私はお笑いの人じゃないのに!」
ハッキングされ、一時は重い空気が漂うリビングだったが、賑やかな声が響き渡る。
Seito 「絶対にクリアしよう。Seika」
Seika 「うん。絶対に大事な話を聞かないと!」
Seito 「命じゃなくて、そっちか…」
話が路線しているが2人はゲームの攻略の道へと真剣に進む事となった。
―――【数日後】
Seito 「Lenさん!オークの溜め技がくるから下がって!」
Len 「わかった!Seito!」
Seika 「Shinさん!危ないっっ!!」
Shin 「っっ!!」
Seikaは火の鋭い剣を出すと、棍棒を持ったオークの攻撃を弾く。大きな棍棒はオークの手から離れるとSeitoはつかさず水の槍で身体を突き刺す。
「グウアァァアっ!!」
Seitoの水の槍に突き刺されたオークのHPは0となり倒れ込むと小さな粒子となって消えていく。
Shin 「Seito、Seika!助かったよ」
Len 「うちの弟を助けてありがとうな!」
2人はゲームの攻略を本格的に考え、ギルドに入会した。
ハッキングされ戦闘特化のAIも使用が出来なくなり、効率を考えるとやはり、人数は多い方が良いだろうと決断し入会の希望をした。
Seito 「何事も無くてよかった」
Seika 「うんうん。そろそろレベルも上がった事だし、そろそろ精霊の試練を挑まない?」
金髪で如何にもチャラそうなギルドマスターのLenと、黒髪で容姿が整った美形のShinは顔を合わせる。
Shin 「何だか僕達に合わせて貰って悪いなぁ」
Len 「SeitoとSeikaは火と水の試練はクリアしているんだよね?火の剣と水の槍かっこいいよな~!」
Seitoの手に持つ水の槍とSeikaが持つ火の剣を交互に見つめながら興奮気味で話す。
Seito 「俺達なら経験者だしすぐにクリアできるよ」
Seika 「そそっ!シュバババって一瞬でね!」
Seikaは手馴れた手付きで火の剣をくるくるとバトンのように回すと顔の前で縦一直線に構える。
Seito 「Seikaさん…。コウモリの魔物を知らずに斬ってますよ」
Seikaが足元に目線を落とすと小さなコウモリの魔物はメラメラと燃えながら倒れていた。次第に粒子となり徐々に消えていく。
Seika 「あっ…。さっき火の剣を回している時に斬っちゃったんだ…」
目を丸くし互いに見合う4人だが、次第に顔が緩み大笑いする。
SeitoとSeikaの判断力の早さのお陰でLenと弟のShinはレベルが一気に上がり帰宅する。
SeitoとSeikaが住む家からそう遠くのないLenの家に帰宅し4人は中へと入る。
「皆!お帰り!」
Len 「Anzu。只今」
Anzu 「さぁさぁ!ご飯できてるから早く上がってよ!」
Lenの幼馴染であるAnzuはアッシュ色の髪をポニーテールに結び、エプロンを装着した姿で4人を出迎える。
Anzuを筆頭に4人はリビングへと向かうと肉の焼いた香ばしい匂いが漂い食欲がより一層増すと4人はお腹を抑える。
Anzu 「じゃじゃーん!今日はステーキ丼を作ってみました!」
リビングの真ん中に設置された大きなテーブルの上にステーキ丼と赤と緑色の鮮やかなサラダが5つ、並べられている。
Shin 「Anzu姉は料理上手だよね。お父さんとお母さんが仕事でいない時、気にかけて料理を作ってくれたよね」
Len 「Anzuのから揚げがたまに食いたくなるんだよなぁ~」
LenとShinはお腹を摩りながら席につく。
Anzu 「今度作るよ!さぁ、SeitoとSeikaも座って一緒に食べよう?」
Seito 「はい!」
Seika 「Anzuさんの料理だ~!」
全員が席に着席するとステーキ丼の入った器に手を伸ばし箸で掴む。口の中に運んだ瞬間、5人の顔は輝き笑顔で食事を楽しむ。
Seito 「仮想空間なのにハッキングされてから味覚や嗅覚が感じられて驚いたよ」
Seika 「夜になったら眠たくなるしね~」
Len 「確かに現実世界のように食欲、睡眠欲も満たせてるな」
Shin 「物を触った時にも触覚を感じられるよね。何だか不思議」
Anzu 「仮想空間でこんな生活が出来るのも楽しいよね。何だか夢の中にいるみたい」
食事をモグモグと食べているとSeikaは急にモニターを出し操作し始める。
Seika 「ねぇねぇ!食事済ませた後、花火しない?」
操作していたモニターが消えるとSeikaの手に5本の線香花火が瞬座に現れる。
食事を楽しんでいたが皆揃って、Seikaが握る線香花火を見つめると箸の手がピタリと止まる。
Seito 「それ雑貨屋で買ったやつか。俺も何かあったような…」
Len 「ふふっ…。こんな事もあろうかと俺は打ち上げ花火10発セットを買ってあるんだ!」
Shin 「ハッキングされる前…レベルが上がる度に打ってたうるさいやつ…。買いだめしてたんだ」
Anzu 「私もハートの形にある打ち上げ花火があるんだ~!後でやろ!」
意見が揃うと5人はステーキ丼とサラダの器を綺麗に平らげ早々に庭へと出る。
皆が持っている花火をLenは回収すると、こだわりがあるのか打ち上げ花火を綺麗に整列し火の魔法で着火する。
勢いよく真っ暗な空に光の線が放たれた瞬間、大きな花火が打ち上がる。
Seito 「でっかー!!」
Seika 「わ~~~!現実世界の花火大会みたいー!」
Len 「ふふ。これは序章!ここからが本番ですよ?」
Shin 「兄ちゃん…。何者になってるんだ?」
Anzu 「花火職人になった気でもいるんでしょ。Lenー!早くー!」
腕を組みニヤついているLenはAnzuに対し頷くと3列に設置した花火を順々に着火していく。
花火の音は5連続でバンバンッ!と大きな音が鳴ると空に白い大きな花火、ピンク糸の花の形をした花火、そして―――赤いハートの形をした花火が打ち上がる。
Seito 「すっげぇ~~」
Seika 「きゃーー!綺麗ーーー!」
Shin 「ロマンチックだね」
Anzu 「やっぱり花火は良いね」
Len 「おっ!いい具合に綺麗だな!」
5人は輝いた瞳で花火に見惚れていた。その後は手持ちの花火で円を描くように回ったり、残っていた打ち上げ花火を5連続で打ち上げたりと5人の綺麗な花火のお陰で心が満たされる。
そして、最後は線香花火を手に持ち着火するとパチパチッと音が鳴り、5人はオレンジ色に光る丸い点を静かに見つめる。
Seika 「ねぇ。現実世界に戻ったら、皆で絶対に花火、しようね」
Len 「うん。絶対に」
Shin 「皆で力を合わせて」
Anzu 「私は皆が元気になるように美味しいご飯を作って…」
Seito 「絶対にこのゲームをクリアしよう」
小さな灯りを保っていた線香花火はゆっくりと地面に落ちていき、辺りは真っ暗となる。5人は本格的にゲームクリアを決意した日だった。
第2話
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