ご当地ヒーローヒナタ


イラスト:ciel

俺は正義の味方ヒナタ。担当しているのは九州の宮崎。俺以外にも各都道府県にご当地ヒーローは存在していて、みんな自分の生まれ育った町の平和を守っている。俺の必殺技は今のところ『チキン南蛮キック』と『ハニワパンチ』ちなみに、このネーミングは、ヒーロー協会から指示されて名付けたもので、断っておくが俺のセンスではない。
『コケッ、コケーッ』
そう言っている間に今日も出動命令がきた。
「こちらヒナタ。エッ?中央公園でピーマン怪獣が暴れてる??分りました!すぐに出動します!」
プールルルッ♪プールルルッ♪
「へ〜んしん!!」
俺はいつものようにひょっとこのリズムに合わせて体を華麗にくねくね動かしながら変身した。見よ!この色鮮やかなスーツを!これは宮崎の太陽を表している。そして、俺は目が眩むほどまぶしいこのスーツをかなり気にいっているんだ!
 
公園に到着すると、全身緑色の艶やかな巨大ピーマンが暴れ回っていた。
「おい、そこのピーマン怪獣!お前なんかもう二度と悪さができないように僕が輪切りにして美味しく炒めてやるぜっ!」
「お前こそ、ピーマンの肉詰めにぴったりの食材だな!!ヒャッヒャッヒャッヒャッ!」
そう言って、奴は俺めがけて一目散に駆け出してきやがった。
「これでもくらえ!ピーマン怪獣!」
俺は拳に目一杯力を込めてハニワパンチを奴のお腹にお見舞いしてやった。
「なんだ〜このへなちょこパンチは!?」
すると、奴は鮮やかなボディーをクルクル回転させながら器用にパンチを避けたのだった。
「クソっ、これならどうだ!」
俺は最近覚えたてのチキン南蛮キックを披露してみせた。こうして…こうやって…⁈
「ギャハハハハ…お前、ひょっとこでも踊ってんのか?」
「ば、馬鹿にすんなぁ〜!俺は馬鹿にされるとパワーアップするっちゃが〜!」
いかんいかん…宮崎弁が…。
力強い蹴りは敵の反撃を見事に封じ込めた。そして、極めつけはいつものハニワポーズ。あんなに巨大だったピーマン怪獣はみるみるうちに小さくなり、何の変哲もないただのピーマンに戻った。
 
今日もかっこよく決まった・・なんて、俺がヒーロー気分に酔いしれていると、
「ププッ、何だよあのポーズ?!」
「ダッセー!」
そう、助けたにもかかわらず、そこにいる誰かが吹き出しながら俺のことを馬鹿にするのがいつものパターンだ・・・。ガックシ。俺がいつものようにモヤモヤした気持ちを抑えながらヒーローチャリで家に戻ろうとした時だった。
「あ、あの・・。」
振り返ってみると、そこには可憐な女の子が花束を持って立っていた。
「な、なにか〜?」
あまりの可愛さに緊張から声が裏返りそうになるのを必死で抑えた。俺が平静を装っているのを横目に、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながら手に持った花束を僕に渡してこう言った。
「あ、あの〜、福岡のアジアンとはお知り合いですか?」
「アッ、アジ・・アジアン⁈」
確か、福岡地区の担当でかなりのイケメンといわれるアジアンには全国にファンクラブがあるという噂だ。
「ア、アジアンには会ったことがないっちゃわ〜!」
い、いかん!ヒーロー協会の規約でヒーローに変身している間は方便が禁止されているのにぃ〜!!俺としたことが、あまりの緊張とジェラシーで約束を破ってしまった・・。また減点だ・・ハァ〜。実は、俺の所属しているヒーロー協会ではミッションを達成するごとにポイントが貰える。ポイントが貯まると昇給できるし、貯まったポイントでヒーローグッズやレベルアップ研修などに使うことができるのだ。そう、カッコいいヒーローになるためには、このポイントを地道に貯めることが重要なのだ。ただ、俺の場合、減点されてばかりで理想とするヒーローには程遠い・・・。僕がぼう然と立ちつくしていると、さっきのかわいい女の子がまた話しかけてきた。
「あの〜、ヒナタさんが戦っている姿もカッコよかったですよ!よかったら、その花貰って下さい!!」
そう言って、彼女は風のようにフワッと去っていった。
「ワオッ、ワオッ、ワオッ!!」
カッコいい⁈この俺がぁ〜⁈嬉しすぎるぅ〜!!
『コケッ、コケッ、コケコッコ〜!!』
チッ、せっかくいい気分だったのに〜!なんだよ・・・。
「ハイ。こちらヒナタ。任務無事に完了致しました!!」
「任務ご苦労であった。今回の戦いぶりには成長を感じたぞ!」
「あっ、ありがとうございます!」
「しかしだ。ヒーロースーツを着用している間はヒーローらしく振る舞うように!浮かれている暇はないぞ!!」
さすが会長!!全てお見通しのようだ。
「あ、あの〜、今回、ポイントは貰えるのでしょうか⁈」
「もちろん・・・」
「もちろん・・・⁈」
「色々やらかしてたから、今回はマイナスだ!」
いつになったら俺はかっこいいヒーローになれるんだよ〜!
 
あれからと言うもの、俺の頭の中はアジアンのことで一杯だ。そりゃ、子ども達に散々馬鹿にされた挙句、花束を持った素敵な女の子が実はアジアンのファンだったら落ち込むに決まってる!アジアンよりモテたい!・・いや違う、みんなを見返すような立派なヒーローになりたい!!絶対アジアンを超えるようなヒーローになってやる!!
 
とりあえず、俺がアジアンよりもかっこよくなることが先決だ!そこで、俺はヒーローヒナタに革命を起こすことにした。今後を左右するとても大きな出来事になるに違いないと予感した俺は、このヒナタ革命を「ヒナタレボリューション」と名付けた。まず、ヒナタレボリューションの第一歩として、俺はスーツのコーディネートを見直すことから始めてみた。参考書は毎月届く「月刊ヒーロー列伝」だ。この日からしばらくの間は参考書片手に町の平和を守る日々が続いた。全国の仲間たちの戦闘服はどれもスタイリッシュで魅力的だった。中でも、アジアンは特別輝いて見えた。というわけで、俺は貯めていたポイントを使ってヒーローベルトとヒーローブーツを買ってみた。もちろん、いつもぞやのヒーロー列伝に載っていたアジアンとお揃いのブランドだ。だけど、ライバルと全く一緒のコーデにするのに少し抵抗があった僕は、小物でアレンジを加えながらその日の気分でヒーローコーデを決め込んでみた。それだけじゃない!変身のひょっとこリズムをカッコいいロック調にしたり、決めポーズもテレビで見た戦隊ヒーローのを真似たりしてヒーローヒナタをレベルアップさせたのだ。すると、どうでしょう。あれだけ少なかった見物客が徐々に増えていったではありませんか。しかも、努力の甲斐あって、ヒナタはファッションリーダーとして地方紙にまで取り上げられたのだ。
「やっと、俺のよさがみんなに伝わったんだ・・・。」
この時、俺が歓喜の雄叫びをあげたのは言うまでもない。
「コケッ、コケッ」
俺の功績が会長の耳にも届いたようだな。
「ハイ、こちらヒナタ。」
「ヒナタ君・・・」
「は、はい・・・!?」
「・・新聞みたよ!」
「あっ、ありがとうございます♡」
これはお褒めの言葉がくるパターンだな、俺は久しぶりに胸が高鳴るのを感じた。
「お馬鹿さん!お前さんはいつからファッションリーダーになったんだ!少しは北海道支部のミライ君を見習いたまえ!」
褒められると思いきやいきなりのキツイお叱りに俺は言葉を失った・・。ミライ・・。北海道といという広大な大地をたった1人で守っているという凄腕のヒーロー。確か、ヒーロー列伝でも特集が組まれていたような・・・。俺は本棚やクローゼットにしまい込んである過去のヒーロー列伝を引っ張り出して、かたっぱしから読み直してみた。
「あっ、これだ!!やっと見つけたぁ・・・。」
ヒーロー列伝に載っているミライを見た俺は絶句した。小柄な割にかなり鍛え上げられた美しい肉体…。小さな巨人ってまさにミライのようなヒーローのことを言うんだろうな・・俺は改めてミライの凄さを感じた。その時、俺はまたビビッと閃いてしまった。そ、そうか!会長は僕にもこんな風にムッキムキになれって言いたかったんだな!!うん、うん、うん、絶対そうに違いない!
 
この日から俺のマッスルトレーニングが始まった。筋トレ、プロテイン、筋トレ、プロテイン、筋トレ、プロテイン・・この繰り返しが俺をますます強く、そして、たくましく鍛え上げていくのだった。と同時に、この変化がまた周りをざわつかせたのは言うまでもない。鍛え上げられた肉体を彩るヒーローファッション、これがまたより一層ヒーローヒナタの輝きを引き立てるのだった。
「か・ん・ぺ・き!」
俺は思わずそう呟いた。
「コケッ、コケッ、コケコッコ〜!」
今回の着信音はニワトリの鳴き声がひときわ美しく聞こえるぞ。今度こそお褒めの言葉を頂けるに違いない。
「はい!!こちらヒナタ。」
「ヒナタ君、君の頭は相当湧いとるようだな・・・!何をどう勘違いしてそ〜なったんだね?」
「と、申しますと・・?」
ムムムッ!?どうも流れがおかしい・・。
「ヒナタ君、君は今一度ヒーローの原点に立ち返る必要がありそうだな!」
「・・・。」
その後、1週間もしないうちにヒーロー協会から分厚い封書が届いたのは言うまでもない。どうやら、俺が名だたるヒーローへ弟子入りし性根を叩き直す研修が始まるようだ。しかも、今回協会が指名しているヒーローは一部を除いて癖が強いことでも知られているツワモノばかり・・・。
 
俺が一体何をしたって言うんだ・・・。いや、こんなことでめげている暇はないはずだ!!一人前のヒーローになるまでヒナタの戦いは続くんだ!だって、俺は天国に旅立ったおじいちゃんと約束したんだから!!
「ヒナタ、本当に強いヒーローってのは常に弱いものの立場に立ち、誰に対しても優しく寛大で、つらい時も笑顔を忘れない者のことを言うんだ。ヒナタにならなれるさ!!みんなを幸せにできるヒーローにな!!」
おじいちゃんは初代ヒナタだった。強くてカッコいいおじいちゃんは俺の自慢で、いつかおじいちゃんみたいな偉大なヒーローになることが俺の夢なんだ。だから、こんなことで立ち止まるわけにはいかない・・・。
「コケッ、コケッ、コケコッコ〜!」
「ハイ!こちらヒナタ。」
「一つ言い忘れたことがあってね!」
「ハイ⁈」
「あの、アジアンの真似してポイント交換したベルトとブーツだけどね、没取ね!!」
「ハヒィ・・。そうれすか・・。」
ヒナタがおじいちゃんのような立派なヒーローになれるまでの道のりはまだまだ遠いようだ…。ヒナタが日本一のヒーローになれる日までがんばれヒナタ!負けるなヒナタ!!
 
第2話

第3話

第4話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?