WW2ドイツの戦車砲


第一次世界大戦~小口径砲(3.7cm砲以下)

ドイツの近代的な対戦車砲は1930年代中期に開発された3.7cm PaK36に遡ります。それ以前にも第一次世界大戦時代の戦車砲や、対空砲を戦車砲に改造した2cm戦車砲が存在しました。3.7cm PaK36は洗練された設計で、1930年代においては十分な性能を有していましたが、第二次世界大戦の時代になると急速に性能不足が表面化し、3.7cm PaK36の設計を拡大する形で設計された5cm PaK38に更新されていきました。

マキシム・ノルデンフェルト26口径5.7cm砲


イギリスのマキシム・ノルデンフェルト社製の57mm砲で、第一次世界大戦中に製造されたドイツで最初の戦車であるA7V戦車に搭載されました。この砲はもともとベルギーが第一次世界大戦前にマキシム・ノルデンフェルト社から購入したもので、第一次世界大戦の初期にベルギーが敗走した際にドイツ軍によってまとまった数が鹵獲され、以降死蔵されていたものを戦車砲に転用した。という風変わりな経緯をもつ戦車砲です。
弾量2.7kg、初速401m/s 8.51kJ/cm^2。第二次世界大戦基準ではかなりの低初速・低エネルギーの火砲ですが、戦車の装甲がまだ薄かった第一次世界大戦当時は対戦車戦闘にも有効だったようで、イギリスの菱型戦車(装甲20mm以下)を撃破した記録も残っています。

2cm機関砲KwK30

対空機関砲に起源をもち、2号戦車に搭載された機関砲です。弾量0.148kg 初速780m/s エネルギー密度14.34kJ/cm^2。イタリアのブレダ機関砲も同じ弾薬を使用しており、原則として同じ性能を持ちます。

46口径3.7cm対戦車砲 PaK36

弾量0.685kg 初速745m/s17.7kJ/cm^2。1930年代にラインメタル社が開発した対戦車砲です。独ソ戦においてはT-34やKV-1などの強力な戦車に全く歯が立たず、一線から引き上げられました。T-34の弱点である車体側面下部の垂直に立った45mmの装甲を至近距離から垂直に撃っても貫通できなかったことが記録されています。

PaK36はソ連でも同じ設計のものが 37mm 1-Kという名前で生産されています。これはPaK36の開発にソ連が協力した見返りとして設計データの提供を受けたためです。ベルサイユ条約を逃れて火砲の開発を行いたいというドイツに対してソ連は秘密の試験場を貸し出しました。

46口径3.7cm砲 KwK36



3.7cm PaK36対戦車砲を車載仕様にしたもので、KwKは「KampfwagenKanone=戦闘車両砲」という意味です弾量0.685kg 初速745m/s17.7kJ/cm^2。薬莢長249mm。弾薬や性能は原型のPaK36と同じです。KwK36は3号戦車の初期型で使用されましたが、性能不足だったため3号戦車の中期以降は5cm砲(KwK38やKwK39)に強化されました

3.7cmKwK34  (t)

ナチスドイツは1938年にチェコスロバキアを併合し、多くの兵器を接収します。その中にはシュコダ社で製造されていたLT-35やLT-38軽戦車もありあしたこれらは35 (t) や38 (t) 戦車の名でドイツ軍に利用されることになります。このうち 35 (t)戦車が主砲として使用していたのが3.7cm UV vz.34戦車砲で、これが接収後のドイツ式の名称で 3.7cm KwK34 (t)となりました。KwK34 (t)はKwK36と同じく対戦車砲を原型とする戦車砲でした。KwK36/PaK36と比べると重量の大きい砲弾を使用する代わりに初速が低いため運動エネルギーの面ではほぼ同じでした。弾量0.815kg 初速675m/s 17.3kJ/cm²。薬莢長268mm。同じ性能を持つ対戦車砲型も存在しました。

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3.7cm KwK38 (t)

ナチスドイツは1938年にチェコスロバキアを併合し、多くの兵器を接収します。その中にはシュコダ社で製造されていたLT-35やLT-38軽戦車もありあしたこれらは35 (t) や38 (t) 戦車の名でドイツ軍に利用されることになります。このうち 38 (t)戦車が主砲として使用していたのが3.7cmUV vz.38戦車砲で、これが接収後のドイツ式の名称で 3.7cm KwK38 (t)となりました。3号戦車が搭載していたKwK36や35(t)戦車のKwK34 (t)よりも少し強力でした。薬莢長は268mmで UV vz34と同じでした。弾量0.815kg 初速750m/s 21.3kJ/cm²

4.7~5cm砲

3.7cm PaK36は軽量で運搬性に優れていましたが、その口径の小ささゆえに急速な戦車の装甲強化の流れに付いていけませんでした。PaK36のデータを基に1930年以降に独自に37mm 1-K対戦車砲を製造していたソ連でも、製造開始直後から37mm砲では威力不足と考え、はやくも1932年には独自に口径を45mmに拡大した19-K 45mm対戦車砲の生産を開始していました。1930年代前半は対戦車砲のスタンダードは37mmクラスで、「37mm砲クラスの対戦車砲に対する防御」というのが戦車設計の念頭に置かれるようになりました。30年代後半になると、これらの戦車に優位に立つべく45-50mmクラスの対戦車砲が次々と開発され、対戦車砲のスタンダードとなりました。このような情勢からドイツでも3.7cm PaK36は早晩能力不足になると考えられ、3.7 cmPaK36を拡大したような設計の5cm PaK38が開発されましたが、3.7cm PaK36より重量が大きく扱いにくかったため配備はあまり進んでいませんでした。PaK36の性能の限界はフランス侵攻(1940年5月-)で露呈し始めましたが、ソ連侵攻(1941年6月-)が始まると、3.7cm PaK36はソ連のT-34中戦車にほぼ全く無効であることが判明し、5cm PaKでもなお十分な性能とは言えない状況に直面しました。このためさらに大口径化した7.5cm PaK40の開発・配備が進められることになります。しかし独ソ戦開始時点ではまだ3.7cm PaKがから5cm PaKへの更新も途中という段階で、戦力不足は深刻でした。1938年にはナチスドイツはチェコを併合し多くの兵器を接収していました。その中にはドイツの5cmPaK38に近い性能を持ったシュコダ社製の4.7cm対戦車砲も含まれていました。これらは戦力不足を補うために対戦車部隊に配備され、独ソ戦の初期において3.7cm PaK36の代役として使用されることになります。

将来の主力戦車として開発された3号戦車は当初は3.7cm PaK36を車載向けに改設計した3.7cmKwK36戦砲を主砲としていましたが、将来的には5cm砲に強化可能なように余裕を持たせて設計されており、実際に途中の型から5cm砲が搭載されるようになりました。

60口径5cm対戦車砲 PaK38


3.7cm PaK36の拡大強化型で、1930年代末にPaK36の性能不足が露呈するとこちらが配備されるようになります。弾量2.06kg、初速835m/s 36.6kJ/cm^2。口径が拡大されたことに加え初速もかなり高くなっており、貫通力はPaK36の2倍に向上し好条件下ではT-34に有効打を与えられるようになりましたが、KV-1にはまだ貴重なタングステン弾芯弾を使わない限り歯が立たず、より強力な7.5cm PaK40が配備されていくことになります。

42口径5cm砲 KwK38


5cm PaK38の車載型です。ただし砲身が原型の60口径から42口径に短縮され、発射薬の少ない短い薬莢(薬莢の寸法規格が原型の50x419mmに対し50×289mm)を使用しているため、初速や貫通力は原型より大幅に低下し、貫通力は3.7cm砲からあまり向上していませんでした。T-34に対抗するにはまだ不十分でした。弾量2.06kg、初速685m/s、24.6kJ/cm^2。

60口径5cm砲 KwK39

5cm PaK38の車載型です。KwK36では車載化にあたり短砲身化・弱装化をしていたのですが、KwK39では原型のPaK38と同じ砲身長・弾薬になり、初速が150m/sも向上しています。貫通力はKwK38の1.5倍に向上しています。弾量2.06kg、初速835m/s 36.6kJ/cm^2。対戦車砲型のPaK38と同じ性能。

43.4口径4.7cm砲 PaK(t)


ドイツがチェコ併合時に接収し運用したシュコダ社製の47mm対戦車砲です。独ソ戦の初期にドイツの標準装備だった3.7cmPaK36がT-34やKV-1に対してまるで役に立たなかった一方で5cmPaK38が不足していたため応急的に配備され、急造対戦車自走砲にも使用されました。PaK38には若干劣るものの、PaK36よりはるかに強力でした。砲身長と口径は42口径5cm砲に似ていますが、こちらの方が高エネルギーで42口径のKwK38と60口径のKwK39の中間程度の威力がありました。
弾量1.65kg 782m/s, 29.1kJ/cm^2

7.5cm砲

24口径7.5cm砲 KwK37

歩兵支援用の短砲身の榴弾砲で、発射薬の少ない弾薬(薬莢寸法75x243mm)を使用し初速が非常に低い(385m/s)ため対戦車能力は貧弱でした。弾量6.8kg、初速385m/s、11.41kJ/cm^2。成形炸薬弾を使用した場合100mm弱の装甲を貫通できましたが低初速なので移動目標に対する命中率には難がありました。通常の徹甲弾を使用した場合の装甲貫徹力については37mm砲以下の水準でした。4号戦車の初期型や3号突撃砲の初期型が装備していました。突撃砲用のモデルはStuK37と称されます。

46口径 7.5cm対戦車砲 PaK40

後に登場する43/48口径75cm砲のKwK40と似ていますが、使用する弾薬が異なり(薬莢寸法75x714mm)こちらの方が高初速でした。PaK40の薬莢はKwK40やKwK42よりも長い寸法を持ちますが径は小さめでKwK40弾薬と比べて容積はそこまで大きな差はありませんでした。この細長い形状の薬莢のため弾薬の全長が長くなり、狭い戦闘車両内でそのまま使用するには問題がありました。発射薬を弾量6.8kg  初速790m/s 48.1kJ/cm²KwK40の原形になりましたが車載化にあたって薬莢が短くボトルネック形状で本体が太いものに弾薬規格が変更されたためPaK40とKwK40で弾薬の互換性はありませんでした。


43口径7.5cm砲 KwK40/L43


基本的には7.5cm PaK40の車載化ですが、PaK40そのままでは使用弾薬の薬莢が長すぎて車内での取り回しが困難と考えられたため、発射薬が少なく薬莢の短い別タイプの弾薬(薬莢寸法75x495mm)に変更されています。このため原型と比べて初速や貫通力がは低下していました。4号戦車長砲身型の当初の主砲です。改良型の48口径型がすぐに登場したためごく短期間使用されたにとどまりました。弾量6.8kg 初速730m/s 41.0kJ/cm^2。突撃砲仕様のものは7.5cm StuK40 L/43の名で呼ばれました。

48口径7.5cm KwK40/L48


4号戦車長砲身型の初期を除いて主砲として使用されました初期に使用されていた43口径砲と比べて砲身が少し延長されました。弾薬は43口径型と同じでした。43口径型よりもわずかに初速・貫通力が向上していました弾量6.8kg 初速740m/s 42.2kJ/cm^2。。突撃砲仕様のものは7.5cm StuK40 L/48の名で呼ばれました。4号駆逐戦車やヘッツァーに搭載されたものもKwK40の派生型でmこれらは7.5cm PaK39と呼ばれました。PaK39は 7.5cm PaK40に似ていますがKwK40の派生型であるため弾薬に互換性はありません。

70口径7.5cm砲 KwK42


パンターや4号駆逐戦車の主砲として使用された長砲身の75mm砲です
弾量6.8kg 初速925m/s 65.9kJ/cm^2。75mmクラスの戦車砲としては最も高性能かつ大重量のものでした。連合国の戦車砲としては17ポンド砲が比較に上ります。弾薬は薬莢長さ640mmの発射薬の多いものになり、PaK40やKwK40と互換性はありません。この弾薬は薬莢の長さだけ見ればPaK408薬莢長714mm)より短くなっていますが、KwK42用の薬莢はPaK40より径が太いボトルネック形状で内容積は上回っており、多量の発射薬を充填することができました。

8.8cm砲以上

56口径8.8cm砲 KwK36


高射砲に起源を持つ戦車砲で、ティーガーIの主砲として有名です。弾量10.2kg 初速810m/s  55.0kJ/cm²。7.5cmKwK42と比べると大口径ですが貫通力は劣っており、エネルギー面密度は7.5cm KwK40とKwK42の中間でした。原型となった8.8cm Flakは第二次世界大戦初期に対戦車砲として活躍したことが有名ですが、これは当時他に有力な対戦車砲が無かったことによるもので、第二次世界大戦後期には性能的に陳腐化していました。貫通力はパンターなどが搭載した長砲身の7.5cm砲 KwK42に劣っており、ティーガーI以外には使用されませんでした。

砲弾断面積当たりの運動エネルギー(貫通力の目安。単位:kJ/cm²)の比較。

71口径8.8cm砲 KwK43

ティーガーIIなどに搭載された長砲身の88mm砲です。第二次世界大戦で使用された各国の戦車砲の中でも最も大きな貫通力を持つものの1つで、20cm以上の装甲を貫通できました。弾量10.4kg 初速1000m/s 85.5kJ/cm²

55口径12.8cm砲 KwK44

マウス超重戦車やヤクトティーガー駆逐戦車、そのほか少数の自走砲で使用された巨大な戦車砲です。8.8cm KwK43を上回る貫通力を持ち、ほぼ全ての敵戦車を射距離を問わずに撃破できました。弾量28.3kg初速950m/s 99.3kJ/cm²




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