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地獄花 〔小説〕

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女に生まれたことは幸せなのか 不幸なのか ひとりの女の物語 〔癖強めのお話です〕
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地獄花 【死】

地獄花 【死】

蝉の声が降り注ぎ
地面から陽炎が立ち上る暑い夏の日
房は
産み月を迎えた

砕けそうな痛みの中
息んでも息んでも
産まれない

何故
この子は出てこぬのか

まだ
柔らかい爪を
子袋に突き立て
何故
しがみついているのか

気が
遠くなる

この子は
産まれてくる処が地獄だと
知っているのか

初めての難産だった

地獄花 【惨】

降るような蝉の鳴き声
熱気を孕んだ空気
ひび割れた土
萎れた作物

房の腹だけが張りつめ
膨らんでいた
八十吉の種が
房の胎内で丈夫に育っている

あたしが畑だったら
飢えない程度に作物が採れるかもしれない
そんな
下らないことを思いながら
八十吉の
痩せて骨の浮いた背中を見つめる

今年の夏は

やたら暑い

  地獄花  【弐】

  地獄花  【弐】

最近
何だか体が怠い
畑仕事も億劫だ
また
子が出来たのかもしれん

かがんで草を毟っている八十吉の
肉の削げた背中を見つめる

男はええのう
種を蒔くだけで
女は
腹ん中で己の養分吸い取られ
腹が大きゅうなったら
死ぬ思いして子を産まなならん

割に合わんのう

女は
子の器なのかもしれん

  地獄花 【壱】

  地獄花 【壱】

八十吉は酒臭い息を吐きながら
房を抱く
房の乳に縋り腰を動かす八十吉に
愛しさは無いが
惰性に似た情けはある

身体を揺すぶられながら思う

子はもう面倒じゃのう

八十吉が低いうめき声と
緊張した尻の筋肉と共に
房の中に熱い精を放つ

八十吉の汗が
房の顔に落ちる

子はもう面倒じゃのう