マルス戦記・本編

〇卜部研究所・紅の格納庫
   警報音が鳴り響いている。
アナウンス「B-8地区にカルデモ襲来!直ちに現場へ向かってください。
 繰り返します、B-8地区にカルデモ襲来…」
   水落レン(25)が人型機動兵器・マルスに乗り込む兵士たちを誘導して
   いる。
レン「お前ら生きて帰って来いよ!」
兵士「いってきます!」
   兵士とハイタッチするレン。
   マルスが複数出撃していく。

〇同・管制室
   卜部スミカ(25)とレンがモニターを見ている。

〇B-8地区・都市部
   カルデモと名付けられた謎の巨大生物が街を襲っている。
   カルデモ、激しい咆哮。
   マルスで攻撃をしかけるが苦戦を強いられる。

〇卜部研究所・管制室
   モニターに被害状況。被害甚大。
レン「くそ…辛勝って奴かよ」
スミカ「やっぱり紅しかないわ」

〇同・紅の格納庫
   T・翌日
   紅のコクピットにパイロット候補者の兵士が乗っている。
   全身が紅とコードで繋がりコードを通して激しい電撃を受けている。
兵士「うわぁぁぁ」
   兵士、悲鳴。
   レンとスミカ、その様子を見ている。
   コクピットから弾き飛ばされ、床に倒れる兵士。
研究員A「大丈夫か!」
研究員B「医務室へ運んでやれ!」
   目を回した兵士が運ばれていく。
   スミカ、資料に大きくバツを書く。
スミカ「またダメか…」
レン「一体どんな人間なら認めるんだろうなぁ、紅ちゃんは」
スミカ「レン、誰でも乗れるように調整できないの?」
レン「無理言うなよ。意思のあるAIを開発したのはお前だろ」
スミカ「こんなに人を選ぶなんて思わないじゃない」
レン「ったく、拒絶の仕方が乱暴すぎんだよ…」
   スミカ、タブレットでニュース動画を見る。
   各地でカルデモが破壊行為を行っているというニュース。
スミカ「このまま人類がやられっぱなしでたまるもんですか…」
   スミカの強い目。

〇街
   レンのバイクがエンストを起こしている。
レン「こんなとこで故障とかマジついてないわ」
   エンジン部を開き中を覗き込む。
レン「えーと…あぁくそ、だから旧式って嫌なんだよ」
   レン、悪戦苦闘。
   その様子をマユリ(15)が見ている。
   レンの背後に近づき、エンジンの一部を指す。
マユリ「ここが調子悪いんだって」
レン「えっ」
   レンが顔を上げるとマユリと目が合う。
マユリ「ここの奥。線が焼けちゃってるって言ってるよ」
   レン、言われて覗き込む。
レン「ほんとだ。なんでわかったんだ?」
   マユリ、微笑む。
マユリ「この子が言ってたよ」
   レン、目を見開く。
 
〇卜部研究所・紅の格納庫
   マユリ、紅を見て笑顔。
マユリ「うわぁカッコイイ!」
レン「紅っていうんだ」
   マユリ、はしゃいで紅に近づく。
レン「我が卜部研究所がカルデモ対策の切り札として開発した『生きたA
 I』を搭載した最新式のマルスで、そのスペックは現行の兵器を遙かに凌
 駕した…っておい!危ないぞ!」
   マユリ、レンの話を聞かず紅のコクピットに乗り込もうとしている。
マユリ「え?」
レン「そいつは気難しくて、まだ誰も認めないんだ。下手に座ったら激しい
 電撃の上に吹き飛ばされて」
   マユリがコクピットに座るとコードが勝手に伸びてきて接続される。
   起動する紅。
レン「…え」
マユリ「ふふ、そっか。君は甘えんぼさんなんだね」
   マユリ、微笑んで紅のコントロールパネルを撫でる。
レン「起動…したのか…?」
マユリ「この子まだ赤ちゃんだからお兄さんたちが怖かったみたい」
   スミカが慌ててやってくる。
スミカ「レン!今紅の起動信号が出たけど…」
   スミカ、マユリを見て驚く。
   マユリ、笑顔でスミカに手を振る。
マユリ「どーも初めまして!マユリです」
スミカ「は…はじめまして…」
スミカ「ど、どういうことなの?レン」
レン「いやなんか機械は友達って言うから紅見せたらなんかわかるんじゃな
 いかな~とかちょっと軽い気持ちで…」
スミカ「彼女…紅と会話してる…」
   格納庫に警報音が鳴り響く。
アナウンス「C-3地区にカルデモ襲来!直ちに現場へ向かってください。
 繰り返します…」
スミカ「!ちょうどいいわ」
レン「おいまさか戦わせるのか?」
スミカ「当然でしょやっと紅が動くのよ」
レン「でもあの子は何の訓練も…」
スミカ「マユリちゃん!」
   マユリ、振り返る。

〇街・C-3地区
   カルデモが暴れている。
   高い塔を手でなぎ倒す。
マユリの声「そこまでっ!」
   紅が降り立つ。
   カルデモ、紅を見て首を傾げる。

〇紅のコクピット内
   マユリ、笑顔でポーズを決める。
マユリ「街を破壊する悪い子は許しません!このマユリちゃんと紅がお仕置
 きするからね」

〇街・C-3地区
   カルデモ、唸り声をあげて襲い掛かってくる。

〇紅のコクピット内
   マユリ、操縦桿を握る。
マユリ「行こう、紅!よろしくね!」
   コントロールパネルが発光する。

〇街・C-3地区
   紅とカルデモ、激しい衝突。
マユリの声「たくさんの人の命を奪った罪、絶対に許さないんだから!」
   カルデモと互角に渡り合う紅。

〇卜部研究所・研究室
   モニターで戦いを見ているスミカ、レン、その他研究員たち。
レン「戦えてる…」
スミカ「これはいけるかもしれないわ」
   モニターの向こう、紅がカルデモを殴り飛ばす。

〇卜部研究所・格納庫
   紅からマユリが降りてくる。
スミカ「マユリ!」
   スミカ、マユリに抱き着く。
スミカ「一人でカルデモを倒すなんてすごいわ!これで一つの町が救われた
 わ!」
マユリ「えへへ」
スミカ「ねえ、このまま紅のパイロットになってくれない?あなたしか動か
 せないの」
レン「おいスミカ、急にそんなこと」
マユリ「いいよ」
レン「いいのか!?」
マユリ「うん。紅とは仲良くなれたし、あいつらにこれ以上苦しめられる人
 をなくしたいもん」
   マユリ、笑顔。

〇テレビ画面
   アナウンサーがカルデモと紅の戦闘風景をバックにニュースを読ん
   でいる。
アナウンサー「かねてからロールアウトが待ち望まれていた、卜部研究所が
 開発したマルス最新型の紅がついに起動しました。
 意思を持つAIという特殊な技術を用いた紅は戦場でも驚異的な力を発揮
 し…」

〇海
   カルデモが現れ、紅と戦う。
   マユリ、元気に戦っている。

〇街
   テレビや新聞で紅の活躍を喜ぶ人々。

〇卜部研究所・格納庫
   レン、紅のコクピットをメンテしている。
レン「最近大活躍じゃんお前」
   コントロールパネルが発光する。
レン「少しは俺にも心開いてくれたか」
   レン、笑顔でパネルを叩く。

〇山
   カルデモと戦う紅。
   紅を援護するマルスが数体。
   連写攻撃を浴びて怯むカルデモ。
兵士「今ですマユリさん!」
マユリ「オッケー!」
   紅、カルデモに斬りかかる。
   カルデモが倒れる。
マユリ・兵士「勝利!」
   マユリ、モニターに映るレンに向かってVサイン。
   レンも笑顔で返す。

〇卜部研究所・格納庫
   T・数日後
   レンが紅をメンテしている。
   コクピットに座っているマユリ。
   ボーっとしている。
   少し目が虚ろ。
   レン、マユリを見る。

〇同・研究所
   スミカが戦闘データを見ている。
スミカ「マユリがおかしい?」
レン「最近ボーっとしてることが多いんだ。前はあんなに元気だったのに」
スミカ「変わったところはないように見えるけど」
レン「戦闘時じゃなくてもっと普段のこと」
スミカ「普段ねぇ」
   スミカ、パソコンを操作しマユリの脳波データを開く。
スミカ「え…ちょっと、これ」
   レンも覗き込む。
レン「これ…どういうことだよ」

〇同・格納庫
   マユリが紅のコクピットに乗っている。
   紅と接続し、ホッとした表情。
マユリ「紅といるとホッとするなぁ…」
   コントロールパネルが点滅する。
マユリ「うん、ずっと一緒にいれたらいいね」
レンの声「マユリ!」
   マユリ、目を開き下を見る。
   レンとスミカがいる。
マユリ「どうしたの、レンさん」
レン「マユリ、戦闘以外でまで紅と繋がってるのは良くないんじゃないか」
マユリ「平気だよ。むしろもっと仲良くなれてイイ感じだし」
   マユリ、目が虚ろな笑顔。
レン「でも」
   警報音が鳴り響く。
アナウンス「A-1地区にカルデモ襲来!直ちに現場へ向かってください。
 繰り返します…」
レン「こんな時に…」
マユリ「お仕事の時間だね」
   マユリ、紅を起動する。
マユリ「いってきます」
   紅、出撃する。
   レンとスミカ、不安げに見送る。

〇街
   カルデモと紅の激しい戦い。
レンの声「それからも戦いは続いた」
レンの声「戦うたびにマユリの目から生気が失われているように見えた」
   カルデモが倒れる。
   マユリ、無表情。
マユリ「びくとりー」

〇卜部研究所・格納庫
   警報音が響く。
アナウンス「A-4地区にカルデモ襲来!直ちに現場へ向かってください。
 繰り返します…」
   レンが走って入ってくる。
レン「マユリ!」
   マユリがフラフラと紅に向かっていく。
   レンの目の前、マユリが白目をむいて倒れる。
レン「!」
   レン、マユリを支える。

〇同・医務室
   ベッドに横たわるマユリ。
   診察する医師。
医師「想定以上に脳への負荷が大きかったようです。命があるだけまだマシ
 といったところか…」
レン「もう目覚めないということですか」
医師「その可能性が高いでしょう」
スミカ「そんな」
   スミカ、涙目でマユリの手を握る。
   レン、歯を食いしばると部屋を出ていく。
スミカ「レン!?どこ行くの」
レン「カルデモが出てるんだ。俺が代わりに出る!」
スミカ「代わりにって」

〇同・格納庫
   警報が鳴り響いている。
   レン、コクピットに座る。
   紅からコードが伸びてきて全身に繋がった瞬間、激しい電流が流れ
   る。
レン「ぐわああっ」
   シートがバウンドしてコクピットから出そうとする。
   レン、操縦桿を握り締めて抵抗する。
レン「誰が出ていくかよ…意地でも俺と出撃してもらうぞ、紅」
   より強くなる電撃。
レン「くっ…俺だってなぁ、お前みたいなワガママで気難しいガキなんざ相
 手にしたくねぇんだよ!なんでこんなことになってると思ってんだよ!」
   スミカが入ってくる。
スミカ「レンやめて!死ぬわよ!?」
レン「マユリが壊れかかってんだよ!てめぇがマユリにばっかり依存したせ
 いでその負担が…!
 …いや、依存してたのは俺たちもか。
 結局戦闘はお前たち任せ、俺たちは遠くから見ているだけだったもんな。
 あいつを壊したのは俺たちも同罪か」
   レン、操縦桿を握る。
レン「なあ紅、マユリが好きか?俺は好きだ。だからこれ以上あいつに負担
 をかけたくない。お前だってマユリを傷つけたいわけじゃないだろう
 俺たちで好きな女守ろうぜ。それが男だろ。
 お前もいい加減大人になりやがれ」
   突然電撃が治まり、紅が起動する。
レン「!」
スミカ「起動した…!」
レン「わかってくれたか、紅!」
   コントロールパネルが発光する。
   レン、ニヤリと笑って操縦桿を握り直す。
レン「よし、じゃあ行こうぜ相棒!」
   紅、出撃する。
スミカ「レン…!」

〇街
   カルデモが暴れている。
   他の機動兵器が応戦しているが敵わない。
   紅が着陸する。
兵士「マユリさん!」
レン「待たせたな皆!このレン様がこんな奴蹴散らしてやるぜ!」
   紅がカルデモに飛びかかっていく。
兵士「へ?レンさん…!?」
   紅、激しい戦いを見せる。
   カルデモが倒れる。
レン「よっしゃあ!」

〇卜部研究所・医務室
   眠るマユリの傍でモニターを見ているスミカ。
   スミカ、笑顔で涙ぐむ。
スミカ「レン…!」

〇モニター・コクピット内
   レン、満面の笑顔。

〇卜部研究所・医務室
   眠るマユリの髪を撫でるレン。
レン「これからは俺が戦う。戦いながら…マユリを治す方法を探す。
 紅もきっと協力してくれる」
スミカ「私ももっと研究を続けるわ」
   レンとスミカ、笑いあう。

〇紅のコクピット
   コントロールパネルが発光している。
   画面に「MAYURI」の文字が浮かぶ。   

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