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ヴァージンの花束よ。

僕は今年で27歳になる。
この歳になると未来よりも、過去を想う。

あの時の選択、あの時の後悔。
全てを振り返り、今の自分を見つめるのだ。
後悔のある選択を含め、それが正解だったかを答え合わせし、自分自身を肯定したり、慰めたりする。
それが今の僕なのだ。

そんな僕がずっと大切にしてきた言葉がある。
それは、間違えてきたからこそ選べる正解があるというものだ。
その言葉は僕のような過去を引きずってしまうような人間にとって、間違えてきた過去、そして正解かどうかわからない今が、いつかの自分に繋がってくれるのだと、人生を肯定してくれるような魔法の言葉なのだ。


半年間同棲していた彼との時間は、過去に執着する僕の性質が無いかのように楽だった。
一緒に居て嫌な事もたくさんあったけれど、それでも嬉しい事や楽しい事も数えきれない程たくさんあった。
一時とはいえ過去の傷を忘れられたり、もうどうでも良いかと思えたりもした。
それは彼が居たからで、僕一人では到底たどり着く事の出来ない場所だった。
知らなかった。過去の事全てがどうでも良くなるくらいの幸せなんて。
辛かった恋愛の事、上手くいかなかった仕事の事。
それらの苦しい記憶が無ければ彼の事はきっと魅力的に思えなかっただろう。
以前の僕と同じように、苦しい事があっても目標に向かってもがく彼だったからこそ、僕は彼を彼を好きになって、愛することが出来た。
彼を好きになった事そのものが、今までの苦しみが報われた事の証明だ。
その事実が今、僕にとってたまらなく嬉しいのだ。

彼と別れて実家に戻り、彼のいない生活をする。
毎日一人分の食器を洗い、隣に彼のいないベッドで眠り、服の匂いもすっかり変わってしまった。
最後の別れ方が最悪な事もあり、僕はずっと「一体何のために同棲した半年間だったのだろう」と思っていた。
それはきっと別れた悲しさや、彼にとって僕の存在がどれ程大事か分からなくなる終わり方だったから、そんな疑問に囚われてしまった。

毎日毎日考えてしまう。
友人はそんな僕に対し、そう考える事が出来ている事に意味があると、少なくとも以前のタロちゃんならそこまで考える事は出来なかったはずと言った。
彼は別れ話の時、僕に対して「タロちゃんは出会った時から成長した」と言った。
最近までそれらの言葉に実感は無かったが、なるほど確かに、友人の言った通りここまで人との別れを深く考え、意味を見出そうともがいている今を考えると、成長したのかもしれない。

そして今、何となく彼との別れに自分なりの答えを見出すことが出来ているように思う。

最近ある人が僕に「優しくしてくれてありがとう」と言った。
その時、僕は心の底から「出来る事はなるべくしてあげたいな」と思った。
その気持ちはその人に対してはもちろん、他の友達や両親、姉にもそう思える。
それはきっと、僕が彼から”優しさ”を貰ったからなのではないだろうかと思う。


優しい人になりたい。
彼にしてもらった事を、誰かに出来る人でありたい。


僕は彼との別れを経て、純粋にそう思えるのだ。
付き合ってる時は嫌な事もたくさんあった。別れ方も最悪だった。
でも、恨んでなんかいない。
別れた事に後悔もないし、僕にできない『別れを切り出す事』をしてくれた彼の勇気に感謝もしている。
でも、別れた事に後悔が無い分、出逢った事にも付き合った事にも後悔はない。
彼との出来事は誰にも否定させない。そんな強い想いがある。

離れて暮らす彼。もう逢えない彼。
ねぇ、君は今どんな顔をしているのかな。
少し寂しい。君もそう思っていてくれると嬉しい。
そういえば……行きたいと言っていた水族館も結局二人で行けずじまいだったな。
来年の春には二人で桜を見ようと言っていた事もあった。
二人で花火を見ながら手を引かれた時、君を好きだと確信した事はよく憶えている。絶対に忘れない。
付き合う前、君の部屋で手を取り音楽に乗って、ふざけて踊った事もあったね。
映画を観ている時、君はいつも内容を茶化していて、そんなところが実は楽しみだったりもした。
僕が作るご飯に辛口な意見を言う事もあったけど、食べる前に君はいつも写真を撮ってくれていたね。
一緒にお風呂で二人歌ったりもしたし、マリカを一緒にして負ける僕を見てよく笑っていたね。
誕生日にはユニバに連れて行ってくれて、その後に連れて行ってくれた創作寿司のお店も凄く美味しかった。
帰った時に「ただいま」って言ってくれる事、本当に本当に嬉しかったよ。

たくさんの色々な事、僕にしてくれてありがとう。

もう忘れても良いよ。
嫌いになっても良いよ。
けど二人通じ合った日がある事、何があっても変わらないよ。
日常の隙間で思い出す事、どんどん少なくなっていくけれど、それでも無くなったりしないよ。
もう逢えないけど、どこからでも応援しているよ。
声援なんて送ってやらないけど、何があっても絶対に味方だよ。

どれもどれも、僕にとっては初めての経験で、初めての気持ちばかりだった。
もう好きじゃないけど、ずっと想っているよ。
いつかこの想いを、正しかったと確信できる日まで。


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