悪夢 本読み編

時刻は8時過ぎ。
若干の汗と、身体中の力みを感じ目を覚ました。
見慣れた自室の天井を確認した途端、崩れるように脱力した。なぜかぐちゃぐちゃになった心を、ため息か深呼吸のどちらかを繰り返し、落ち着かせた。

悪夢を見たのだ。
それも相当ひどいやつだ。
普段夢は見ない、目を覚ますと忘れてしまうことが殆どだからだ。
そんな僕に、冷や汗をかかせるほど強烈で鮮明な
夢を見た。そんな強烈な悪夢の覚えている限りをここに残そうと思う。

気がつくと、大規模企画演劇の顔合わせ&本読み会場にいた。無機質な一室。皆が向かい合えるよう、正方形に椅子とテーブルが並べられいる。
着々と俳優陣が到着し、最後に演出家が会場に現れ、顔合わせと本読みはスタートした。
始めに、一人一人自己紹介をしていった。
「〇〇役の菊池銀河です、精一杯頑張ります!」
役名と本名、+1言がセオリーだ。一通り挨拶が終わると、最後に演出家が立ち上がり、自己紹介を始めた。見覚えのある顔だ。どこかで見た顔だ。懐かしい顔だ。これ、青砥洋(さん)だ!!

わからない方のために説明しますと、青砥洋先生は、僕が幼稚園の頃から所属していた児童劇団の主催で最高責任者で演出家で俳優の方だ。
昔から、稽古場先生が現れると異様な空気感に包まれる。それは、決して心地が良いものではなく、重力が何倍にもなって体に降りかかる感覚だ。
演出家を青砥洋先生と認識してから、胃がキリキリ痛い。お腹痛い、なんなら、うんこしたい。
そんな状態で、本読みはスタートした。

俳優陣がセリフを読み上げ、物語が進んでいく。
それに合わせて、台本のページをめくる。
15分くらいたったけれど、内容が難しすぎて頭に入らない。そもそも、こんな台本読んだことない。漢字も難しすぎて読めない。
パニック状態で迎えた、自身のセリフ、、。
しかも長ゼリフ。
もたもたと口を開き、とりあえず大きな声で読んだ。読んだ。読んだ。読めない!
やっぱり漢字難しい。
わからない感じのところを、適当に発音し誤魔化しながらセリフを読み続ける。
共演者たちが、くすくす笑う。それは、僕を見下す笑い方だった。笑い声が徐々に大きくなる。
横目で青砥洋先生を見る。怒ってる。絶対怒ってる。眉間に皺が寄りすぎてる。

僕は長ゼリフの途中で、読むのをやめた。
もーだめだと放棄した。
共演者、スタッフはまだ、僕をコケにして笑っている。もーみんな包み隠さず、ゲラゲラ笑っている。笑い声がここまで恐ろしく感じたのは初めてだ。また、青砥洋先生を横目で見た。
もー僕を見ていない。それは、拒絶を通り越して、僕の存在を無かったことにしていたのだと思う。人から認識されない事が、一番傷つくのだと知った。

ここで夢は終わった。
6時間ぐらい睡眠していたが、寝た気がしなかった。そのまま、二度寝した。夢は見なかった。
ただ、その悪夢に引っ張られて午前は家から外に出られなかった。午後3時になってようやく、外に出かけた。
怖かった。
本当に怖かった。
夢でよかった。


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