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(掌編)夢、多い(1989年 元旦)

 おせち料理ってどうしてこんなものを食べるんだろう。大きな3段の黒い箱を開けても、なんだかよくわからないものばかりが詰まっていて、どれもあんまり美味しいと感じなかった。
 玉子焼きみたいなものと、ハム、栗の甘いのは美味しかったので、そればっかり食べてたらお父さんに笑われた。
 お雑煮のお餅を2つも食べたので僕はお腹がいっぱいで、こたつに座ってテレビを見ていた。ハデな舞台で漫才をする芸人とにぎやかな笑い声が流れてくる。いつも見ているバラエティ番組では全く見たことがない人だったけど、ボケの人が相手の言うことを全く聞いてないのが面白くて、僕もゲラゲラと笑った。
 そうやっていると、お父さんが新聞と白い袋の束を持ってやってきた。
「よし、誠一《せいいち》。そろそろ宝くじを見るか」
「やった! 見る!」
 僕の家のお正月の楽しみは、お年玉と宝くじだ。お年玉は朝ごはんの前にもう貰っていたので、お父さんが買ってきた宝くじを見るのが待ち遠しかったのだ。
 お父さんはこたつに座ると、紙の袋を2つ僕に渡してくれた。お父さんが3つ。1つの袋に宝くじは10枚入ってるから、全部で50枚だ。
 この20枚を見るのは僕のかかりだ。裏返して、ゆっくりと袋の口をペリペリと剥がしていると、びり、ばり、びり、と音がしてお父さんのはもう3つとも開いていた。
「1番いいのはいくらが当たるの?」
「6千万円だ。当たったら家を買おうな」
「僕、部屋にベッドが欲しい! ファミコンも」
「ああ、いいぞいいぞ。当たったらな」
 お父さんが新聞を広げて、僕の方に向けて置いたので、一枚ずつ確認していく。
181715いちはちいちなないちごー1247いちにーよんなな……違う、17098いちななぜろきゅーはち……」
 1等は5個あるので、まずはそこから順番に番号を見る。なかったので、次は2等、そして3等と確認していく。
 お父さんもじっと番号と宝くじを見比べている。
 なかなか当たらない。僕は棒アイスも一度も当たったことがないので、だんだん当たらないような気がしてきていた。
 そうやって何枚目かの確認をしていると、
「57……57! あったよ、お父さん! 当たった」
 手に持った宝くじの番号と、当せん番号が一緒だった。下2ケタだから、いちばん最後がいっしょなら良いってことだから、これは当たりだ!
「おお! なん等だ?」
「6等! 3000円だって!」
 お父さんに当たりの宝くじを見せると、にっこり笑ってガシガシと頭をなでてくれた。
「そうか、やったな!」
「誠一、当たったの?」
 ご飯の後片付けをしていたお母さんがやってきて嬉しそうに聞いてきた。
「うん! 6等だよ!」
 僕はそう言って当たりくじをお母さんに見せびらかした。

 了

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