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(掌編)早朝のジョギング

「あ、ごめん。起こした?」
 ぼんやりと寒さを感じて布団を引き上げ身体を丸めると、浩介くんの声がした。うっすら目を開けると、まだ部屋は暗く夜は明けていない。カーテンの隙間から差し込んでいる明かりはマンションの廊下の常夜灯のものなのだろう。
「ん? ああ、行くの?」
「うん、起こしてごめんね」
 浩介くんはちょうどベッドを抜け出そうとしていたところだった。
 「運動不足が気になって」と言い出したのは夏頃だ。緩んできたお腹を摘んで、ちょっと眉を下げながら言うので思わず笑ってしまった。すると浩介くんは、「いずれ腹筋をバキバキに割ってみせるからな」と言ってまた私を笑わせてくれたのだった。
 それ以来、土日の早朝はジョギング、あとはこまめに筋トレをしている。
「この時期はお昼とかに走ったら?」
 早朝にしたのは、始めた頃は日中走るのは暑すぎたからだった。出る時間は同じだけど、冬になった今だとまだ暗い中を走ることになる。寒さも相当だろうに。
「なんか朝走ると気持ちよくて。美沙を起こしちゃうので申し訳ないけど」
「まぁ私のことはいいよ」
 あれから雨の日以外は続けているので、それはすごいことだと思って応援していたのだった。
「浩介くん」
 私は彼を呼び止めて布団の中で手を伸ばす。ちょっと届かなかったので、身体を起こして浩介くんのお腹に触れる。布団から出た肩が寒かったので、すぐにまた潜り込んだ。
「何さ?」
「ううん、いってらっしゃい」
 少し不思議そうにしながら、浩介くんは「いってきます」と寝室を出て行った。私は少しでも暖まるように、また身体を丸める。
 やがて玄関から物音が微かに聴こえて来てドアが閉まる音が響いた。そして鍵の音を最後に静寂がやってきた。私はまだ少しポヨンとしたお腹の感触を思い出しながら、もう一眠りさせていただくことにした。

 了

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