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夏めくすずめの羽ばたき


東北の四季は情緒豊かに表情を変えていく。

私は宮城県仙台市に移り住んで10年以上が経ち、そのうちMリーグを知り、Mリーグ以外にも興味を持ちだした。

仙台に最高位戦日本プロ麻雀協会の支部ができたのが2022年3月。何かのきっかけで同協会の北畠美智代プロのことを知り、ファンになっていた。


北畠プロの出身は福島県。東京本部から東北支部に移籍し、今は仙台を拠点に活動されている。

44期入会ということは(現在48期)比較的最近の話。なかなか試合自体を見る機会がなかった私に、思わぬ朗報が目に入る。

麻雀最強戦 2024出場枠争奪戦に北畠プロが出場する。その試合はyoutubeで配信され、しかも実況は日吉プロ、解説は園田プロという豪華布陣とのこと。

東北を主戦場にする彼女が全国的な投票で7位に入るというのは、相当難しいことと思う。これは彼女が「雑誌を買ってでも投票しよう」という東北を中心とした個人ファンを掘り起こしたということで、ある意味ちょっとした奇蹟にも感じた。

私は北畠プロに投票した皆さまに感謝しながら、対局をyoutubeで見守った。


北畠選手が登場したB卓はいきなり松田彩花選手のダブリーからスタートした。

そしてなんと松田選手はこのダブルリーチを一発ツモで決めるという離れ業を見せる。

一方、西家スタートの北畠選手は試合開始後から厳しい配牌とツモが続く。それはさながら、仙台に吹き付ける冷たい北風だった。

あまり知られていない話ですが、仙台市は全国でも有数の「晴天が少ない地域」。そしてめっぽう風が強い。蔵王山脈と泉ヶ岳から吹き下ろされる風で、冬場の仙台市民は基本的に冷たい風にさらされる。(道路の凍結により車はけっこうスリップする)

泉ヶ岳

北畠選手の手牌にも冷たい風が吹き続けたが、ガマンを続けて2着の大月プロ(今さらですがこの試合は2着まで勝ち抜けです)に大きく離されることはなく東場を終了した。

南場に入ってからは、足木優選手が親番で3連続で上がり、かなり勝ち抜けに近づく。

そしてようやく北畠プロの出番がやってきた。

南1局3本場で北畠選手はピンフを仕上げてリーチをかける。会場は牌の音だけがひびく。しかし、どこからかすずめ踊りの囃子が鳴らす、祭りの音色が聞こえてきたそうだった。

冬をのりこえた仙台は木々が青々としてくる。そして、季節が変わることを知らせてくれるのが青葉まつり。

人々がこのリズムを聴くと「あぁ、冬が終わったんだなぁ」と夏の訪れを感じるのがすずめ踊りの音色である。


その局は惜しくもツモれず流局するものの、一人テンパイの収入を得て南2局、北畠プロの親番へ。

その南2局でも北畠選手はリーチを入れる。その後松田選手とのめくり合いとなり、両者ともツモれずに流局。なかなか上がれない北畠選手に、実況席の日吉プロと園田プロから「ツモらせてあげてよぉ」と悲鳴が上がる。(枚数は圧倒的に北畠プロであったのだが)

だが、すずめ踊りが終われば、仙台に夏がやってくる。

8月の上旬、仙台駅前のアーケードにはおよそ3000本の巨大な七夕飾りが飾られ、街が彩られる。


南2局1本場。北畠選手は8sをツモって浮き牌の7sにくっつける。

このとき形の上では一向聴にできたが、一向聴にはとらなかった。最後の親番、一刻も早くテンパイしたい局面でもある。しかし、北畠選手は好形のテンパイを目指し、2切れの1m対子を落としていった。


そしてリャンメン5・8pの形に辿り着き、満を持してリーチを打った。これを見事に高めでツモって6000オールを決める。この一発でトップが見える2番手に浮上した。

「ガマンにガマンを載せて、煮込んで抽出したら6000オール!」

ようやく成就した北畠選手の上がりに実況の日吉プロが彩りを添える。

続く2本場でも北畠プロは4000オールの大物手を決め、ついに足木プロを捉えてトップに立つ。オーラスも見事に差し込みを決めて、1位で決勝卓に駒を進めた。



仙台の夏は「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」でいったん区切りを迎え、その後秋めいて、また冬となる。


決勝卓の北畠プロの手牌も秋の気配が漂い、そしてふたたび北風が吹いた。北畠選手は健闘したが、総合4位でこの大会を終えることとなった。


優勝チケットは原えりか選手が獲得。彼女には自らの大量票というやり方に対し、一部のファンからは批判もあった。(後に彼女が主催者側に、事前に確認していたことが明らかになっている。以下、無料部分だけでも読むことを推奨します)

それにもめげず、この試合の開催を機に勉強を重ね、見事にチャンスを掴んだ。

兵庫県出身の彼女もまた冬を乗り越えていた一人でもあった。

ちなみに、兵庫県は京都・大阪とともに関西三都の一角で、港町である神戸が有名ですが、県内にスキー場がいくつもあるように北側に豪雪地帯を抱えています。瀬戸内海に面する温暖な地域もありますが、地域と気象状況によって厳しい冬もあるようです。




さて、北畠プロに話を戻しますが、私が北畠選手を応援する中で、印象に残ったシーンをひとつ紹介します。

2試合目 南2局1本場

4着目の北畠選手。手牌はメン・ピン・ドラ・ドラのチャンス手。10巡目でリャンメン・リャンメンの好形一向聴。供託も3000点。喉から手が出るほど上がりがほしい局面。

足木選手の当たり牌4pを掴んでいったん回った北畠選手。しかし、ツモが効いて12巡目で手の中で一盃口も完成。

これは流石に勝負にいくか?

と思う局面でした。とはいえ浮き牌の4pは当たり牌。どうするのか?と思いましたが、北畠選手は惑わされることなく、ソーズのターツを崩して降りを選択。

「止めれないよ すごいなぁ」

日吉プロの声が漏れる。

プロであればその選択は普通なのかもしれません。しかし、北畠プロの人柄からでしょうか、私はその一打から感じたのは、彼女の厳然たる「理性」。

惜しくも敗れはしたものの、光るプレーでした。



秋を越え、冬の佳境に入ろうとする仙台は「光のページェント」で荘厳に照らし出されます。


今回の戦いの最後で見ることができなかった、そのまばゆい輝き、次の試合ではきっと見せてくれるでしょう。

冬の空に舞い上がっていくすずめとともに。





少し追記

私は試合後に北畠プロを何か地元のものに例えるなら何だろうと、勝手ながら考えを巡らせました。いろいろ考えましたが、仙台銘菓「白松がモナカ」にイメージが重なりました。

えっ?それ何?

と思う人もいると思いますが、仙台では知らない人はいない銘菓なのです。

全国的に知られている仙台銘菓として出てくるのは「萩の月」。

しかし、そのキャッチーな風貌はどことなく連盟東北支部の菊田政俊プロをイメージさせます。(個人的イメージです)

また、今や全国区で人気の高く、勢いを感じるのは喜久水庵の喜久福。

この銘菓の全国的な広がり、その勢いを例えるなら連盟の石井良樹プロしかいません。(石井プロは山形出身ではありますが)


何にせよ、かしこまった訪問や目上の人に贈るなら、白松がモナカは最適。見た目はフォーマルだけど、歯応えはサックリし、皮は中のしっとりした餡となじみがよい。どこに出しても間違いがない銘菓なのです。

もしデパートで東北や仙台物産展が開かれ、そこにこれらの銘菓があったらぜひご賞味いただきたいと思います。



★最後までお読みいただき ありがとうございました★



文:のりべん
絵:さぬきち


トップの絵は写真家中野さとるさんの作品を参照させていただきました。


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