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Mリーグ2021レギュラーシーズンを戦国時代風に一話で振り返ってみる


甲斐の大男


「殿、そろそろ開幕でございます」

桜の御旗の元に、信濃を本拠とする内川家の当主、内川幸太郎は庭で鯉に餌をやっていた。

声をかけたのは、領内一の容姿と呼び声の高い紗佳姫であった。

「うむ。そろそろ開幕か・・」

2020の季節に2番目に戦の勝利数が多かったこの男は、泰然自若としてシーズン開幕を迎えた。


2021の季節、初旬に全国に聞こえ伝わったのは、甲斐に現れた豪傑についてであった。

その男は髪全体が逆立ち、その髪の半分が青いという。江戸の渋谷と言う流行りの地でよく見かけそうな頭髪が極めて目立つ大男だった。その男はなぎなたを振り回し、各地の戦士を返り討ちにして戦の勝利を荒稼ぎしているらしい。(しかしこの男、城に戻ると炊事場で繊細な飯を作って、当主の亜樹姫を喜ばしているという噂もあった)


甲斐の国と信濃の国は国境を接しているため、戦になるのは時間の問題であったが、神無月の上旬、信濃と甲斐の国境付近で戦となり、内川と甲斐の大男(松ヶ瀬という)は剣を交えた。

この戦いでも大男はなぎなたを振り回し、東の時の終わりに銅鑼を4つものせた豪快な剣を振りかざした。しかし、この一撃を内川は涼しい顔で交わし、大男の攻撃を空振りに終わらせる。

南の時が2つ目の時を知らせたとき、筒の模様で彩られた一太刀を内川が放つ。(内川は一部で「手順の巨匠」ともささやかれている)この一撃で内川は大男とほぼ互角になった。

しかし、ここまで防戦一方であった関東の海賊団で「黒の電脳」と呼ばれる兵士石橋が瀕死の状態から一矢報いて合戦が終了。

合戦に勝利した大男はその手に大量の戦利品(点棒)を抱えて、高笑いしながら姫の元に帰っていった。

「今日のところは、ここまでにしておきますか」

桜の当主内川はあくまで爽やかに戦場を立ち去った。


播磨の髭の浪人


その男は「立直」(りっち)という掛け声で並みいる兵士をばったばったと倒してきた。髭がトレードマークの播磨国の武士、村上である。

2019の季節は全国2位、2020の季節は全国8位の手柄をものにして2021の季節を迎えた。

だが、この神無月の村上、りっちの声は高らかだったが、肝心の剣は空を切るばかりであった。

「親方、村上が大けがをして還ってまいりました」

声をかけたのは、気立てがいいと評判の町娘、奏子(一部ではそのメガネの形から「まる子」とも呼ばれていた)であった。

声をかけられたのは播磨国の武士集団の当主園田であった。園田は武士である一方、商も営んでおり、弁が立つ男だった。

「まぁ、仕方ないよねぇ。あの流れではねぇ。でもあの3筒が・・・」

当主は弁もたつが話好きだった。とはいえ、村上が大けがをして帰ってくるのはこれで4回目。播磨国の兵糧もかなり少なくなってきている。

「おい。そろそろ行ってくれるか?」

園田が声をかけると、長屋の奥で酒をかっくらっていた男がぎろりとこちらを向いた。その眼光は当主の園田でさえもひりつく鋭さがあった。さすらいの浪人たろう。その男であった。

男はガタリと立ち上がると、何も言わずに長屋を出ていった。無口な男だ。

「おぉ~い、待ってくれ。拙者も参戦するでござる」

園田も江戸に向かった。

霜月の上旬の戦。

たろうとともに江戸での戦いに挑んだ園田は桜の国の陰陽師こと沢崎、越後の旗本近藤を「変則一盃口の術」でけむに巻いて鮮やかに討ち取った。

続く合戦では、浪人たろうが越後の戦士りお姫に顔面をうっすら切られながら、閃光一戦、一度捨てた四の竹を再度引き入れて相手をなぎ倒した。

刀を肩にポンと置き、爪楊枝をくわえたたろうは戦場を見下ろすと、くるっと踵を返し、何も言わずに戦場を後にした。

しかし、当主園田は江戸は曙橋のたもとで町娘”かよ”から戦いの感想を問われ「いやねぇ・・」と懇切丁寧に答え出したが話が止まらず、かよは「お・・お元気そうで良かったです」と話を切り上げたそうである。

この一連の戦いで播磨国の兵糧はやや回復し、越後の石高にやや近づいた。(越後は侑未姫の国である)


その男 湯治を好む


越後の旗本近藤は神無月、霜月と戦にはせ参じるもこれといった成果を残せずにいた。

しかし、本人はいたって気にする様子はなかった。

「近藤殿はまた湯治に行ったのですか?」

越後の姫、侑未は半ば諦めたような声を出した。

「は、左様にございます。ところで姫、我が国の兵糧が残り少なくなっております。次の戦はどうしますか?」

仕えの、りお姫が問うた。

「近藤よ」

姫は答えた。

近藤のことを最も信頼しているのも侑未姫であった。

霜月の中旬。戦の場には湯治から帰ってきた近藤の姿があった。近藤はその眼鏡の奥から鋭い眼差しを見せる。

越後では”昼行燈”として知られている近藤だが、それはあくまで表の顔。合戦の場では全く違う一面を見せる。

この日、東の時には中張の剣さばきを見せ、南の時には白い銅鑼を3枚も使った鋭い一撃で相手を討ち取った。この時海賊団の兵士石橋も参戦していたが、またも切られてしまった。

「やっぱりやったわね。あの男」

越後は引き続き厳しい財政事情を抱えたまま冬を迎えることとなったが、旗本の戦いぶりに少し安堵した侑未姫であった。


相模の熱血漢


「舐めんじゃねぇ」

雷の旗に集う相模の武将萩原は名うての熱血漢である。相模では霜月に入り兵糧を大きく減らしていたが、萩原は気概を失っていなかった。

相模国は霜月の上旬に”竜巻”と異名をとる熊こと瀬戸熊が戦勝を得たが、その後戦での負けが続き、財政は困窮していた。

「親方、このままでは国が・・」

そう言うのは、新入りの兵、本田であった。

「やかましいわ。俺が何とかする」

この義理に厚い男のせいか、財政は苦しくても領民の支持率は圧倒的であった。

「俺と咲でな」

武将萩原は仕事人咲に白羽の矢を立てた。咲は昼間は商人として働いているが、夜は仕事人として暗躍する裏の顔を持つ。決して証拠を残さずにきれいに相手を仕留めるその腕に、相模の熱血漢は一目置いていた。

東の時2の刻

「ぅおらぁ!」

萩原の剣が鋭い閃光を放つ。竹の五を4つ、全て銅鑼にしての中張の型で一気に討ち取った。

「四千・八千!」

武将の背後に必勝の気配が漂う。領民ヘの勝利報告だけを願う男だ。この戦は意地でもモノにする覚悟だ。

しかし、その背後。四角く細長い眼鏡の奥から虎視眈々と隙を伺っていたのが黄金国の浪人松本であった。

松本は長身であり、不敵に顎にひげを蓄えるが、剣さばきにミスが少ないことで知られている。その眼鏡の奥からにらまれたら命をやられる、と言われる名うての剣術人だ。

松本は合戦の最後の最後に現れて立直・平和・ツモの型でスパッと切り捨てた。切られた銅鑼表示牌の奥が見える。

「乗るんじゃねぇ!」

この日頭を丸めていた熱血漢は叫んだ。

しかし、松本の手の”萬の三”をドラにする萬の二が現れた。

見事な跳ねの一撃となり、萩原は紙一重でこの暗殺者に斬られてしまった。

だが惜しくも負けはしたものの、熱血漢は少なくない宝を獲得した。

一方、長身の暗殺者だが、このところ甲斐の軍師に命を狙われ、何度か重傷のケガを負っていた。しかし、今日は会心の一撃を決めることができ、ひっそりと安堵の表情を見せた。そして町娘かよに親指と人差し指で何らかの型を作って微笑んだ。


二試合目は咲が紙一重で播磨の剣士、園田を交わし、大きな勝利報告を持って国に還った。熱血漢ともども領民から喝さいを浴びたことは言うまでもない。

相模国の兵糧は回復し、播磨国との差は二百万石程度に近づいた。

(しかし、この後相模国は急速に衰退していくこととなる)


朱き女戦士


天下統一に向けてひた走る風林火山の御旗に集う甲斐国の座を虎視眈々と狙うのが”格闘”を一意とする陸奥国であった。

陸奥国には佐々木という全国に知れ渡る絶対的君主が存在したが、今年の陸奥国にはとんでもない女戦士が現れていた。朱い甲冑に身をまとった朱里紗姫だ。

普段は町人としてその美声を活かした生業を営むが、ひとたび戦場に足を踏み入れるとその戦闘力は凄まじかった。

霜月の下旬、その戦闘力がさく裂した。

南の三の刻

ばったばったと相手を斬りまくった。全・四千、四千、九千六百、二千、全・六千、全四千と一方的に斬りつづけ、相手の戦意を喪失させるほどの損傷を与えた。途中で甲斐の軍師と越後の侑未姫が一矢報いようとするが、問答無用とばかりにその攻撃をはねのけ、日付が変わるまで斬り続けた。

連戦連勝で臨んだ甲斐の軍師であったが、この日は命を二つ分失うほどの大ダメージを受けたと言われている。


ハレの日


2021の季は当初から越後国の財政がひっ迫していた。それを見かねた侑未姫は意を決する。

「四着だけは避けようぞ」

と家臣を集めて訓示を説いていた。

結果的に、年末を迎えた段階で越後の財政状況は見事に回復し、石高も全国平均レベルにまで回復していた。(睦月に入りこの訓示を最初に破ってしまったのは残念ながら旗本であった)


その侑未姫が2021年最後の合戦に指名したのがりお姫である。

日本は古来、年末年始や祭りなど日本人にとって重要な日をハレの日と呼んでいるが、このような日に力を発揮するのが、りお姫であった。

師走の最終合戦。りお姫は運を味方につけ見事に打ち勝った。一般的に勝つのは難しいと言われる”愚の型”を用いて見事に相手を討ち取っている。

最終試合を勝利で終えたりお姫だったが、年明け、めでたい初日の合戦にも参戦し、やはり勝利を飾った。

合戦開始早々に黄金国の藍子姫に一太刀を浴びるが致命傷には至らず

「お主の力はその程度か」

と言うや否か、三千・六千、一万二千、五千二百、二千、三千・六千、次々に次々に斬り続け、圧勝してしまった。


当初、侑未姫が城に迎えたこのりお姫の実力を疑う声も聞かれたそうだが、次々に戦に勝って宝を持ち帰るりお姫に「りお姫は完璧」という声が多く聞かれるようになっていった。


戦うがよい


「殿。私はこのままここにお世話になっていて良いのでしょうか」

信濃の紗佳姫は戦の負けが続きすっかり弱気になっていた。

当主の内川は答えた。

「何を言っておる」


内川は庭に目を向けた。

睦月も中旬の信濃国の庭の池は氷が張り、凍てつく寒さを感じさせる。

視線は紗佳姫に戻される。

「昨年までの貴殿の戦いを拙者は存じておる。案ずることなく、戦うがよい」

「明日の合戦は・・」



当主の目に力が入った。

「お主に任せたぞ」


「はいっ」

紗佳姫は即座に頭を下げたが、その胸中には期するものがあった。


合戦の場には甲斐の大男がいた。この大男には何度か苦汁を味わされている。そして、紗佳姫は苦戦に陥っていた。

東の時に刀が折れ、命(点棒)もほとんどを失いかけていた。

南の時の二の刻

紗佳姫は残された短い護身用の短刀を両手に握っていた。それを見た大男

「そんなもんで俺を倒せると思っているのか?」

と腹をかかえて笑い、周りの仲間に”やれやれ”と言った表情を見せた時だ。

その一瞬を紗佳姫は見逃さなかった。

短刀を両手に握ったまま、大男に突進したのだ。紗佳姫は大男の懐に飛び込んだ。

「そんな小さな剣が俺に通用すると思って・・・?」

確かに中張・立直のみの突進だったが、その短刀には銅鑼銅鑼という毒が塗ってあった。二の太刀も加えた紗佳姫は大男との戦況を逆転させてしまう。


だが、最後の最後で大男はその本領を発揮する。その大きな薙刀を大上段に構える。発・中鳴きの型から”大三元”という大ダメージを与えうる攻撃の構えだ。

紗佳姫は生来勝ち気な娘である。2021の季節は紗佳姫にしてはおとなしすぎたのだ。

「案ずることなく、戦うがよい」

当主内川の言葉が脳裏をよぎった。

そして、意を決して手元にある白という名の剣を振り下ろす。それを見た大男の薙刀が振り落とされるか・・と思われた。しかし、紗佳姫の気迫に押されたか、大男はいったんたじろいだ。

姫の気迫が大男を制した。そして、この合戦で紗佳姫が勝利を飾った。



「殿、今回はありがとうございました」

国に戻った紗佳姫は当主内川に感謝の念を伝えていた。

「なに、お主の力があったまでのこと」

と当主は涼やかな笑顔を見せた。


信濃の陰陽師


信濃国は沢崎という陰陽師を擁していた。戦場において戦法を立てるにあたり、陰陽師の力は大きかった。

睦月の下旬、黄金の国との合戦の際だ。

南の時三の刻

黄金国で絶対的君主として君臨する多井が相手の裏をかいて、川岸に鉄砲隊を敷いた。鉄砲隊は相手には絶対的に不要となる白の巨岩に狙いに定めていた。

信濃国は合戦を有利に進めていたが、この局面では白い巨岩がある川岸に兵を構えようとしていた。しかし、右手の人差し指で眼鏡を押し上げた陰陽師沢崎が難しい顔をした。

陰陽師は白は危険だと察知したか、川岸の白い巨岩と距離を置いた。

しかし、戦況も進み、周囲の危険度も益々増加。これは、いよいよ白方向に進まざるを得ない状況となる。戦況を見守っていた遊軍の武将、浩翔公が「これは白を選ぶしかない」とつぶやいたほどだ。

沢崎はまたも右手の人差し指で眼鏡を持ち上げ、鋭い眼光で戦況を見渡した。

なんと、安全に見えた川岸の白い巨岩方面から兵を撤退させてしまう。そして南に進路を取った。”完璧”と思われた黄金国の計算は完全に狂ってしまった。

そしてこの戦いは信濃国が勝利を挙げることになる。

国に戻った陰陽師沢崎は当主内川に報告した

「今回も、天運に恵まれました」

当主が答える。

「いやいや、あなたの神通力には本当に助けられています」

陰陽師の働きにより、桜の御旗に集う騎士団の財政は今日も安泰であった。


姿を現した女海賊


睦月に入り海賊団は戦に勝ち続け、全国制覇に近づいていた。海賊団の船長小林が九回の戦に加わり三回の勝ちを得ていたが、影ながら海賊団を引っ張っていたのが女海賊の瑞原であった。

睦月の最終戦で女海賊の攻撃力があらわになった。

この戦に参戦していた信濃の当主内川から二回の八千を討ち取り、東の時の中盤では力を溜めてからの一刀両断で全員に四千のダメージを与え、再度の内川公との直接立直対決では切れ味鋭く一万八千の直撃で切り捨て勝負を決めた。

2021の季節が始まったころは”悩む姿が愛らしい”などの声もよく上がっていたが、その強さと破壊力が明らかになった今、その腕の確かさが町の評判の主流になっていた。(とはいえ、その容姿にほれ込む男子諸君は引き続き多かったが)

祭りの終わり


師走の中旬には、播磨の国では祭りが開催された。南の時、四の刻から祭囃子が聞こえ始め、播磨の国の当主園田は無双状態となり祭りも最高潮へ。そして、銅鑼・銅鑼・赤の一万二千など次々討ち取った。

睦月上旬にはケガから回復した村上とたろうの連勝。睦月下旬にはたろうと奏子の連勝などで大いに盛り上がり、その合戦後には播磨国の負債はほぼなくなるまで回復し、領民は大いに沸いた。

しかし、その後播磨で祭りが開催されることはなかった。

睦月以降、播磨国は財政難に陥り、商人でもある園田であっても立て直すことはできなかった。

時は流れた。

2021の季節を閉じようとしている播磨の町娘奏子は元気に茶店で働いていた。

「さぁ、さぁ、元気出さないとだめだよ!」

店先にたたずんでいた浪人たろうを元気づける奏子。この町娘とともに、播磨国が復興する時がいつか来るだろう。


曙橋の戦い


女海賊瑞原と陰陽師沢崎は戦果を重ね、季節の最後の最後。ついに雌雄を決する時が来た。

桜の騎士団の策士で”森の字”と呼ばれる男が最終日の前日、曙橋のたもとに札を建てた。

札には大きくこう書かれていた。

「弥生の十一日。第二の合戦に女海賊を待つ」

この札に江戸は大いに沸き、当日は見物人でごった返した。

そして、その日の曙橋。ついに女海賊が現れたのである。かくして、陰陽師と女海賊の一騎打ちは江戸中、いや日本中が注目する中、決行された。

だが、この日の陰陽師は調子が出ない。その表情にも苦しさが窺える。

一方、女海賊はこの大一番においても見事に力を発揮し、合戦開始早々から縦横無尽に戦場を駆け巡った。

追いつめられた陰陽師はついに負けを認めた。


かくして女海賊は2021の季に最も戦果を挙げた者として称号を得ることになり、海賊団もこの季の平時における全国制覇を果たしたのであった。







「殿。申し訳ございませんでした。」

国に戻った陰陽師が当主内川に接見していた。


「どうでしたか?決戦は」

当主は陰陽師に問うた。


「いや、相手が強かった。すっかりやられました」


「・・・」

当主はもの思いに窓の外の庭に視線を移す。


陽の光は、ささやかながら温かみを感じさせる。信濃の長い冬も終わりを告げようとしていた。

梅の木はつぼみを蓄えている。





「私の目はごまかされませんよ」

当主が答えた。


「全て見抜かれていましたか。」

陰陽師は外連味のない表情を見せた。



静寂な時間が流れた。



カタンと、庭の鹿威しが静かに音を立てる。



当主は、静かに視線を戻した。




「まずは、しっかり養生してください。全てはそれからです」



陰陽師は静かに頷いた。




そのやりとりに襖の向こうで聞き耳を立てるものがいた。

静かに微笑む紗佳姫がそこにあった。

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