見出し画像

第52回、ゾンビ、時々酸性雨

20XX年。世界に謎のウイルスが蔓延して、パンデミックに陥ってから数年。
緊急事態宣言が発令され、自宅待機をするようになってから、自分は政府の
命令に、今も忠実に従って生きている。

あの後、世界はどうなったのだろうか?
毎日の様に発表されていた感染者数のサイトも、今は更新されなくなった。
更新をする人間も、既にいなくなってしまったのだろうか?

雨の日は落ち着く。
酸性雨の降り注ぐ外界に、自宅にいる理由ができるからだ。
雨に強い酸が混ざっているのは、サイバーパンクの世界では常識の知識だ。

晴れの日は憂鬱。
穴の開いたオゾン層から、紫外線いっぱいの光が降り注いでいるのだ。
こんな日に外出をするなんて、自〇行為に等しいだろう。

曇りの日はざわめく。
今なら外出をしても大丈夫なんじゃないか?心の中の何かが、ざわめく。
いや早まるな。世界は既に大量のゾンビが蔓延しているかもしれないのだ。
自分の中の緊急事態宣言は、今もまだ警報を鳴らし続けている。

蓄えていた食糧も、まもなく底をつく。
自分は仕方がなく、深夜のコンビニへ買い出しに行く。
途中でゾンビに遭遇しないように、最大限の注意を払いながら。

コンビニに行くと、そこには数人の店員と客がいた。
良かった。世界はまだ、ゾンビに感染しきっていないようだ。
自分と同じく、生き残りの人間が、ここにはまだいたのだ。
しかしここに長くとどまっているわけにはいかない。
ここもいつゾンビが現れるか、わからないのだ。

自分がコンビニを出るのと入れ替えに、リア充系パリピゾンビがコンビニになだれ込んできた。
危なかった。もう少し長くあそこにいたら、自分の命がない所だった。
被害にあわれたであろう、コンビニの店員さんと客に心の中で一礼をして、自分は急ぎ足で自宅に向かう。

自分には不治の病がある。
それは中二病と呼ばれるものだ。
一度発病したら、どんな医者にも治す事ができない、恐ろしい病だ。
感染の経緯ははっきりとは覚えていないが、確かエヴァンなんとかとかいうウイルスだったと思う。
それから自分の心はずっと、14歳の中二のままなのだ。

風呂に浸かり、いつ収録されたのかわからない、世界が平和だった時の映像を見ながら、買ったばかりのコンビニ弁当を口にする。
おもむろにテレビを消すと、真っ暗なモニターには、半裸の状態で、青白い肌と充血した真っ赤な目をして弁当を食べる、自分の姿が映り込んでいた。

ああそうだ、自分は随分前から、既にゾンビも同然だったのだ。
いつの間にか降ってきた、酸性雨の降り注ぐ音を耳にしながら、自分は再び
心の中の緊急事態宣言を鳴り響かす。
あの懐かしい、パンデミックに包まれていた、終末の世界に思いを寄せて。


※この物語はフィクションであり、ひきこもりや新型コロナウイルスの被害にあわれた人達を、嘲笑するものではありません。
コロナ禍もあけ、世界が以前の状態に戻りつつある中で、取り残されていく
自分の心の焦燥感を表したものとなっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?