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第282回、転機予報


若者は、世界で最もヒットしたアプリを開発した会社に転職した所だった。
生年月日を入力すると、その人の人生の転機を教えてくれる「転機予報」というアプリで、その人の今の転機率を数値で表示してくれるのだ。

このアプリの効果、的中率は、占い系アプリの中でも最高レベルとの評判があり、実際このアプリを様々なビジネスに用いている人も数多くいた。

「転職したての所で申し訳ないが、君には転機予報のヴァージョンアップの手伝いをして欲しいんだ。君はとても優秀なプログラマーだと聞いてね」

「いえそんな事は、光栄です。このアプリは物凄いです。自分もこのアプリのおかげで、この会社に転職をする事を決意したんですっ!」

若者は興奮が抑えられなかった。世界で最も優秀なAIを搭載しているとまで言われているアプリのソースコードを、自分の目で見る事が出来るのだ。
一部の人達に「神様のお告げ」とまで言われている、コードのアルゴリズムとは、一体如何なる物なのか?


「これは‥」

若者は、そのアプリのコードプログラムを見て驚愕した。若者には、自分が今見ている物が真実であるとは、俄かには信じられなかったのだ。

「先輩、これって‥ このアプリのアルゴリズムって‥」

淹れたてのコーヒーを手に持ち、先輩は静かにほほ笑んだ。

「ただの乱数ですよね? ただ無秩序に、0~100の数字が表示をされているだけですよね?」

「やはり君には、わかってしまったか。そうさ、このアプリは乱数によってランダムに数字が表示されているに過ぎないんだ。
そもそも生年月日だけで、70億人いる人間全ての転機が図れるはずもない。
完全に適当なのさ。
なのになぜこのアプリが、占い系の中で、最も的中率が高いと言われているかわかるかい?それはこのアプリを使う人達が、行動をする事を既に自分で決めているからなんだよ。
転機を待つ人は、後はただその行動を起こすきっかけが欲しいだけなんだ。
だからこのアプリによって、行動を起こすきっかけ、今が転機のタイミングなのだと、背中を押して貰いたがっているのさ。

行動をした結果、成功すれば転機アプリのお告げのおかげ。失敗をしても、今回は転機率が足りなかったのだと、次のタイミングを待つだけなんだ。

もちろん運やユーザー自身の能力等も関係をするから、全ての行動が転機の成功に繋がる訳ではないが、2~3回の失敗は、ユーザーが勝手に許容をしてくれるのだから、総じて見れば、かなりの確率でこのアプリの転機予測は、当たる事になるのさ」

手に持ったコーヒーを机に置くと、先輩は若者に顔を近づける。

「君は、このアプリが詐欺だと思うかい?君だって、このアプリのおかげで転職を決めたのだろう?という事は、既に自分で転職をする事を決めていたんだ。自分の望みが叶ったというのに、そのアルゴリズムが、乱数だったというだけで詐欺だと思うのは、いささかお門違いだと思うけどね。
それとも何かい?
そのアルゴリズムが自分の理解を超えた物ならば、満足とでもいうのかな?君は一体、何に背中を押して貰いたかったのかな?
人知を超えたAIにかい?それともそれこそ、神様にでも転機のタイミングをお願いしていたつもりなのかな?」

若者の顔に鼻が付くのではないかと思う程、先輩はさらに顔を近づける。

「それに全くの適当という訳でもないんだよ。君は先程、0~100の数値だと言ったが、0と100はランダムの数値の中に含まれていないんだ。だって0の数値の時に行動を起こして成功したり、100の数値の時に失敗でもされたらそれこそアプリの信用性が失われてしまうからね。
数値は常に、40~80%の間でしか表示されない様になっているんだ。
つまりどの数値の時に行動を起こしても、ユーザーが都合のいい方に、自己解釈をしてくれる様になっているんだ。
自分達だって、ユーザーを満足させる為に、様々な工夫をしているのさ。

この話を聞いて、君はどうするのかな? 真実に失望をして会社を辞める?
事実を公表して、会社を倒産に追い込む? 君は何をしたくて、この会社に転職してきたのかい? 後は、君のしたい様に行動をすればいいさ」


若者は、このアプリのヴァージョンアップに関わる事にした。
アプリの事実がどうであれ、自分は自分のしたい様に行動を起こして、自分の願いを叶えたのだ。自分はこのアプリの様に、悩める人達の手助けをしたくて、背中を後押ししたくて、この会社に転職をしたのだ。

正しい事だけが、必ずしも人を幸せにする訳ではない。
という事は、正しくない事が必ずしも人の幸せにならない訳でもないのだ。

今回自分の希望に合う画像が得られなかったので、前回の未使用画像を用いる事にしました。
横に三台並ぶパソコンのモニターがその痕跡です。

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