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No.4 彼女が相思相愛を目指したもの

(※以下、映画「別れる決心」のネタバレ含みます!)
パク・チャヌクの「別れる決心」を観た。ちゃんと映画館で。残酷さと紙一重に連なるフェティッシュな場面の畳み掛けで、私の脳ミソがうわんうわん震えた。今でも山頂や霧のなか、勾配な町並み、食事のシーンなどを思い出そうとすると脳ミソのどこかが落ち着きなく小刻みに震える。
とりとめのない感想になるけど、吐き出さないと震えも止まりそうもない。

極私的主観でモノを申すと、これはソン・ソレが自分の目指す世界(=幸せ?)を創造しようとして頑張って(この表現がしっくりくる気がする)、でもにっちもさっちもいかなくなって最後、とある場所で全てに別れる決心をしてそれをやり遂げてしまうまでの映画だったな…とエンドロールをぼんやり眺めながら思った。
中国出身である彼女の表情は冒頭からずーっと最後まで豊かで、「お喋り」で赤裸々な表情だった。言葉の壁がそうさせるのかもしれない。伝わらない、伝えたいから機微なニュアンスが言葉の代わりに顔に出る。目は口ほどに物を言うとは良い得て妙で、黒でも白でも無い難しい感情をヘジュンに向けるソレの顔が今でも甦る。
夫殺しの疑いがかけられた取調室の中でもそれは顕著で、コケットに笑ったりしていた。
それをヘジュンが呆気にとられているのか、それとも見惚れているのかをはっきりさせたいソレの撒き散らす駆引きに終始ドキドキして、気付けばヘジュンみたいに私もソレの顔から色んな意図を読み取りたくて、見つめ続けた。

ソレは最後、砂浜で青いバケツを抱えなが迫り来る波を満足そうに見ていた。こんな結末になったけど、最後までヘジュンはソレを追いかけて追いかけて、ずーっとソレの名前を呼び続けて。ソレも多分どっかでその声を聞いていたんじゃないかな。
そしてソレが見つかったらきっと彼はソレの希望するかたちで一生ソレを忘れられなくなる。ソレはこうしてヘジュンの心を手に入れる。とても悲しいやり方で。
陳腐な言い方になるけれどもここまで「映画的」なラスト、久々に浴びた。まるでフランス映画だよ、こんなのフランス映画すぎる(語弊もすぎる)。
でも恋愛映画なんて破滅してなんぼ!だと思っている派なのでかなりグッときた。
これはサスペンスに見せかけた恋愛映画。マリオン・コティヤールの「世界でいちばん不運で幸せなわたし」とか

ずいぶんと昔に観たため、ほとんど忘れてしまったのに記憶の輪郭が燃えカスになって私の心に軽い火傷を追わせたどうしようもない映画、「ポーラX」(たまに後遺症のように断片的なシーンがフラッシュバックする)を彷彿とさせる。
「別れる決心」もそんな映画と同じで、この先どれだけたくさん映画を観ても忘れたくない、埋もれさせたくない作品だと思った。劇中、ヘジュンがソレに渡す防水の絆創膏のようなものを貼って、この私のポンコツなシナプスからどうにか記憶を守りたい。そのためなのか何なのか、気付けば後部座席で手錠に繋がれながらこっそりやり取りする二人や吹雪の中で散骨する場面など、頭が勝手に思い出させる。
途中、独特なコミカルな場面があるのもまたたまらなくって、この映画を愛すべきものにしてる。
時折「霧」をiTunesでひっぱりだして、かっこつけてひとりぼっちで聴きながら、ヘジュンとソレに頭の中で会いにいきたい。

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