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縁と円。

 自分の都合より相手の都合を優先すること。相手が喜ぶ姿を自分の喜びとすること。「店はお客様のためにある」「我損の道を行く」須田泰三先生の教えです。

 縁とは人と人とのめぐり逢いです。めぐり逢いは偶然なものでなく、あらかじめ生まれる前に自分がプログラムされていると言います。出会う人すべて、敵も味方もソウルメイトなのです。

 ところが、社会的地位を得て、十分な所得が得られるようになると、人と会うのが億劫になります。「オレは分刻みのスケジュールをこなし、1時間にウン十万円稼ぐ人間だ。メリットのない人間とは会わない」と嘯(うそぶ)くとトタンに縁から遠ざかりツキに見放されます。縁がツキを招くのです。

 「角さん」こと故田中角栄元首相は、毎朝自宅で400人に上る個人や団体関係者の陳情を1時間余りでさばいたそうです。「できる」「できない」を必ずその場で判断していた角さんが1件にかける時間はおよそ5分。陳情者の目の前で担当の役人に電話して叱ってくれることもあるというので、陳情者は心酔したそうです。そして400件の陳情が終わると、最後に角さん自らが並び順を決めて記念撮影をしていたといいます。

 「世の中は白と黒ばかりではない。敵と味方ばかりでもない。真ん中にグレーゾーンがあり、そこが一番広い。天下というものは、このグレーゾーンを味方につけなければ決して取れないのだ」と角さんは口にしていたと言います。

 我々の商売も同じです。お客はどの店で買ったっていいのです。固定客なんて一人もいない。今日買ってくれても満足しなかったら次はないのです。すべてのお客は浮動客、グレーゾーンなのです。

 そのためには、毎朝襟を正し、今日買いに来てくれたお客に心からお礼を述べなければなりません。客数が数十人だったらそれもできるかもしれませんが、数百人、千人となると物理的に無理です。だからこそ、感謝の気持ちを見えるように形にしなければならないのです。これが「ご来店感謝品」です。

 50円で仕入れたキャベツを10円で売る、同じく1匹30円で仕入れたサンマを10円で売る、kg300円で仕入れた若鶏モモ肉を100g10円で売る。この行為は縁を頂いたお礼、一方的なものです。「損して得取れ」では決してないのです。

 だから、「ご来店感謝品」来店客数分用意します。万が一、途中で品切れることがあったら、代替品を用意するか、後日その値段で購入できる「引換券」を配れと須田先生は説きました。

 よく、「先着50名様」とか、「(特売品以外)2,000円以上お買上げのお客様、お人家族様1点限り」と制限をつける店があります。須田先生はそのような店を見つけると「あの店すぐ潰れるよ」と寂しげですがキッパリと断言しました。

 なぜ潰れるのか。そこにはウソがあるからです。「先着50名」ならちょっと遅れてきたお客には、店がホントに売ったかどうかわかりません。「2,000円以上お買い上げ」とすれば、欲しくもない商品を2,000円も買わなくてならないからです。お客は店のウソを一発で見抜きます。

 感謝の証(あかし)として「奉仕」します。よく「滅私奉公」と言います。「滅私奉公」とは、私を滅し、公に奉ずることを意味する故事です。政治家は国や国民に「滅私奉公」しますが、商人はお客に「滅私奉公」するのです。

 ポテトフライを1個10円で売る惣菜店や「蛸めし」など混ぜごはんを1パック100円で売る店があり、マスコミでたびたび取り上げられます。お刺身を1パック198円で売る店もあります。

 10円のポテトフライも、100円の混ぜごはんも、198円のお刺身も原材料費だけでも赤字かも知れません。人件費やその他の経費を入れれば大赤字です。紛れもない「滅私奉公」なのです。ポテトフライだけ買って帰るお客も相当いると思います。混ぜごはんだけ買うお客ももちろんです。

 それでも、見返りを求めないお店の姿勢にお客は心を打たれるのです。オーケーの「3/103(3%相当額)割引」も同様です。オーケーでは、会員・現金払いには、3/103(3%相当額)を割引されます。これは1989年(平成元年)に消費税が3%で導入された際に、オーケーでは3%分をオーケーが負担する政策を採用しました。その後、消費税 は1997 年 ( 平成 9 年 )から5%の 税率に、2014 年 ( 平成 26 年 )から8%の 税率 、2019 年 ( 令和元年 )から10%に 変 わりました。その間ずっと「3/103(3%相当額)割引」は継続されているのです。

 よく、うちはポイント5倍還元だ、10倍還元だと言う店がありますが、スタートとなる店頭売価が比べ物にならないほど高いのですから、還元率はあてにならないのです。そこにウソがあることをお客は一瞬に見抜いているのです。

 繁盛店は、お客との縁を切らさないように「滅私奉公」するのです。感謝のカタチが、キャベツ10円であったり、サンマ1尾10円であったり、ポテトフライ10円、混ぜごはん100円、お刺身1パック198円、「3/103(3%相当)割引」であるのです。

 この見返りを求めない行為がツキを呼び、「円」を呼び寄せるのです。

 一方で、縁より円を先にすると、一瞬でお客はお店のウソを見抜くのです。「先着50名」「2,000円以上お買い上げ」「ポイント5倍・10倍」やればやるだけ醜態を晒し続けます。それを礼賛するマスコミや識者は漫画としか言いようがありません。

 もっとアホなのが、縁を大切にしようとするお店を「不当廉売だ」「安く売るより従業員の給料を上げよ」と非難する人です。批判するばかりで、実態を知らず、強いものに尻尾を振る態度を多くの人は「かわいそうな人だ」と憐れんでいるのです。

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