見出し画像

商売より「誠」売

 リモートワーク、キャッシュレス、無人店舗・・・。3年半にわたるコロナ禍で決定された事項はすべて無効になると思います。一部IT企業では、オフィスに社員を呼び戻すよう動き出しています。ルーチンワークだけならば退屈です。顔合わせることで、新しいアイディアが生まれ、それに没頭することで、仕事が楽しくなります。仕事が楽しくなると大きな成果が出るのです。

 男性なら気持ちがわかると思いますが、オフィスにマドンナがいるから、マドンナの気を引こうと仕事に対してやる気が出るのです。休憩スペースや食堂で雑談をするから、人や仕事への興味も深まり、結果としてチームワークが高まるのです。

 キャッシュレスは便利かもしれませんが、事業者も個人も失うものも大きいのです。天災やテロなどで万が一、通信障害が起きたときどうするのでしょうか。現金で支払うとおつりが出ないバス会社もあります。ぼったくりです。個人情報が漏洩するならまだしも、思想や行動が一部機関に監視され続けるかもしれません。

 商売は「誠」売です。真心を売ることです。真心とは、相手の喜びを自分の喜びとすることです。無人店舗に真心はありません。儲かれば、相手が満足しなくても後は知ったことではない、「エゴ」があるだけです。

 出生急減、2022年80万人割れへ 人口1億人未満早まると観測されます。就農者人口も激減しています。農業就業人口のうち、自営農業である「基幹的農業従事者」の人数は、2010年が約205万人だったのに対して、2019年は約140万人でした。毎年、10~50万人減っています。円安やエネルギーコストの高騰、転職サイトの興隆により労働市場の流動化など企業を取り巻く環境は激変しています。

 一方で、企業は拡大路線を見直そうとしません。スーパーマーケットなら、売上げ規模を増やすために、新規出店だけでなく、同業他社のM&Aが活発しています。コストを削減するために、外国人研修生の活用や自動発注、無人レジが続々導入されています。

 10日に亡くなったヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊氏は、自書「商いの道 経営の原点を考える」の中で、「成長にこだわり過ぎると、人は貪欲になり無理がたたり長続きしない。一方、生存を意識すれば、基本に忠実な姿勢を貫き、結果信頼を勝ち得る」と言っています。

 時流を考慮しない成長路線は、企業の歪を生みます。歪みが臨界点に達したとき、突如として、お客から見放されるのです。

 コロナ禍前でしたら、カップラーメンやドリンク、スナック菓子など「すぐ食べられる」商品がよく売れました。コロナ禍の自粛生活で料理する時間が増えるとともに、地上波放送ではなく、ネットを利用して自分で情報の真偽を調べる人が増えました。グルテン、MGS、果糖ブドウ糖液、ショートニングなどの健康に及ぼす影響について深く考えるようになったのです。

 店頭における売れ筋も、「すぐ食べられる」商品から、「料理がしたくなる」商品へトレンドが変わっています。一般食品は、「ドレッシング」「焼肉のたれ」「天然だし」「プロが使う乾物」「100%果樹飲料」「天然水」が人気です。菓子は、地元の食材を昔ながらの製法で作ったご当地メーカーの懐かしのベストセラー商品が人気です。

 そして、コロナ禍後では、「お金」よりも大切な人と過ごす「時間」を大切にします。「節分」や「ひな祭り」「土用の丑」「七五三」「クリスマス」「年越し」などのイベントには高額な「ハレ」の商品が売れます。また、普段の日でも、鮪は、キハダ、ビンチョウ、バチは売れず、本鮪だけが売れます。牛丼用の切落しでも、「松阪牛入り」切落しが人気なのです。

 先日「ひな祭り」の際には、国産ハマグリが高騰しました。仕入れ値は例年の3倍です。相場高を避け、「台湾産」やサイズを落として「小」を売ったお店は、業績が振るいませんでした。一方で、相場高と言っても、大切な娘、孫娘の成長を願うのだからと言って、なかなか市場に出回らない「三重県桑名産はまぐり(特大サイズ)」を並べ、千葉産地はまぐりを大サイズ、中サイズ、小サイズと各種そろえたお店は大人気でした。

 前者は、時流の変化にアンテナを張らず、売上げ予算、粗利益予算など目先の数字に縛られて、お客の望まない商品を扱っていたのです。消極的な売場にお客をときめかす“華”はありません。後者は、取引先に情報を発信し、取引先が一肌も二肌も脱ぎ、商品を集めてくれたのです。従業員は「高くても売れる!」と信じて、商品づくり、売り場づくり、売り込みに励みます。売れると信じることで自信と迫力が生まれるのです。

 成長を志向すると、過去の成功体験を捨てることができません。その商品が、その品揃えが、その仕入れ方が、その売り方が時流に合っていないと分かっていても、どうすることもできなくなるのです。

 2006年、外食大手で東証一部に上場していた「すかいらーく」は経営陣が自社の株を買い取るMBOにより株式を市場で売り買いできない「非公開」にしました。MBOの狙いは一般的には、市場からの評価を遮断して経営改革をしやすくするためです。

 「すかいらーく」は2000年代に入り不況の波を正面からかぶり、コンビニなどの「中食」やファストフード店に押されて採算割れの店が続出。経営改革を余儀なくされました。

 そこで手をつけたのが、業態の転換。1人あたりの単価が千円程度と割高感のあった「すかいらーく」から、もう少し安めの金額で利用できる「ガスト」に主力店舗の軸足を移して行き、店舗としての「すかいらーく」は消滅しました。

 ネット通販の台頭、ドラッグストアの生鮮品の取り扱い、コンビニの出店飽和化を受け、食品マーケットの熾烈なシェア争いが起きています。もはや、「普段のおかず」を売る伝統的なスーパーマーケットは用をなさないのです。かといって、百貨店の「ハレ」の日の商品、専門店の奥行きのある品揃えを一朝一夕にものにするのは現実的ではありません。

 こんな情勢下だからこそ、成長を封印して、何に重きを置くのか明確にするのです。「成長」なのか「生存」なのか。「生存」を選ぶなら、店舗数が数店舗の地方スーパーにとって生き残り策はただ一つ。生鮮の専門店化とグロッサリーはキラリと光る商品の導入です。そして、価格の安さで商品を売るのではなく、「付加価値」で商品を売るのです。「付加価値」とは、驚きと感動です。

 世の中はものすごい勢いで変化しています。その変化に対応するために進むべき道は、成長か生存か。選択肢は2つに一つです。どちらの道を選ぶべきか。その道を選び、勧めと責任を取って号令をかけるのがトップの責任です。

 ところが、現在、企業のトップは、99%はサラリーマン経営者です。サラリーマン経営者の人気は、1期か2期です。2年や4年では長期的視点をもつことは困難です。できるなら波風を立てず、既存の路線を継承しようとします。人を育てるより使い倒す。資産を築くのではなく、食いつぶすのです。大企業であれば、株主の言いなりです。不採算部門を売却して、1株当たりの利益を増やせと言い割れたら、祖業の売却も厭いません。会社を守るより、自分の地位や立場を守ることに忙しいのです。

 時流の変化を見て見ぬふりをします。歪みが臨界点を超えると、崖から転げ落ちるように業績は急降下します。そうならないためにも、変化に対して対応しているモデルを見つけ出し、自らの事業に適応できないかと、仮説を立てて、小さな実験を繰り返すのです。未来の成長のための種まきをして、芽が出るのを辛抱強く待たねばならないのです。

 未来に対する投資を怠った代償は想像以上に大きいのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?