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読書#6「直線は最短か?」著:阪原淳

どんな本?

弁証法って何?

異質な二つの要素を結合させる

直線は最短か?

 タイトルからはいまいち想像できないが、この本ではヘーゲルの弁証法を用いて世の中の問題を解決しようという話をしている。とはいっても、正確な弁証法なのかはわからない。著者の阪原さんの解釈がなされている気がしているけれど、そこまで違わないだろうと信じて紹介する。

 そもそも弁証法というものを聞いたことがあっただろうか? 私はない。知っている人には退屈なものになるかもしれない。弁証法とは、問題を解決するための思考法を形式化したものだ。

 弁証法とは、テーゼとアンチテーゼをアウフヘーベンさせてジンテーゼにするものである。

 は?

 意味わからんという声が聞こえてくる。そういう方はぜひこの本を読んでほしいが、面倒という方向けに、私の理解も交えてこの弁証法を説明しようと思う。


1+1=3

 弁証法とは、1+1を3にする思考法だ。いや、1+1=2でしょ、何? +の演算子を定義し直すって話? と首を傾げた方はもう少し頭を空っぽにして聞いてほしい。

 この本ではカレーうどんの例をあげている。カレーがテーゼ、うどんがアンチテーゼだ。そして、ジンテーゼがカレーうどんということになる。

 つまり、あるもの(テーゼ)に対して、別のもの(アンチテーゼ)を掛け合わせる(アウフヘーベン)ことで、新しい価値を付加したもの(ジンテーゼ)を作り出すということだ。

 何か、ざっくりとしてない?

 私もそう思ったが、この本で紹介されている弁証法は、本当にこのくらい緩い定義の思考法だ。

 大事なことは、ただの足し合わせになっていないということ。「うどん+大盛り=大盛りうどん」では、ただ麺を増やしただけで価値が増えていない。1+1=2となっている。一方で「カレー+うどん=カレーうどん」は、カレーとうどんを別々に食べたのとまったく別の新しい食感を想像している。つまり1+1=3なのだ。

 ここでいうアンチテーゼは、テーゼではないものというかなり広い意味で使われている。結局、いろんなものを組み合わせて新しい価値を作ろうぜいという思考法である。

ロジカルシンキングとの違い

 この本では、論理的思考法などのことを構造主義と述べている。これらと弁証法は、プロセスが異なるという。

 異なるというより、この本を読む限りでは逆なのだと思われる。

 弁証法は、AとBからCという新たな価値を創造するという考えだが、論理的思考法は、CというものはAとBによって生み出されると考える。Cを生み出すために思考する弁証法と、Cを説明するために思考する論理的思考は、どちらがいいということはなく、用途が違いのだろう。

たくさんのアンチテーゼを用意せよ

 この思考法をうまく活用するためには、アンチテーゼを何にするかが肝となる。ということは、アンチテーゼとしての選択肢を増やしておかなくてはならない。

 そのために、この本では、たくさんの経験をせよと述べている。

 よく言われる定型文である。だが、この弁証法の形式を見れば、どうしてたくさんの経験をしなくてはならないかがわかる。タイトルに戻るのだ。

「直線は最短か?」

 このタイトルから弁証法にどうつながるのか最初わからなかった。けれども読んだ後はわかる。直線とはテーゼのことなのだ。それでは目的(ジンテーゼ)にはたどり着けない。目的を達成するためには回り道(アンチテーゼ)が必要なのだ。それも一本ではだめ。たくさんの挑戦をして、いくつもの経路を試した者だけが、目的地に辿り着ける。

気づき 

タイトルを見ていらっとした人達へ

 この本の内容とは関係ないのだけど、私はタイトルを見て、少しイラっとした。「直線は最短か?」と聞かれたら、最短に決まってんだろ、幾何学なめんな、と思う。たぶん玄人になると、直線は無限に続くから長いとか短いとかないよ、とか言ってくるだろうけど、まぁ、そういういらつきだ。

 そのほか、テーゼが「飛行機のない世界」で、アンチテーゼが「飛行機」でジンテーゼが「飛行機のある世界」とか、次元の異なる組み合わせだったり、弁証法の比較対象が~法ではなく構造主義だったり、何かいろいろイラっとするのだ。

 これは、この本が不完全だからだろうか? いや、違う。苛々するのは、たいてい、私がこの本に押しつけがましい期待をしていて、それが裏切られたからイラっとしているのだ。

先入観を捨てよう

 まず、直線は最短か? というタイトルから数学的な話を想像していた。だから、脳みそがその姿勢で待ち構えていたのである。それなのに話は概念的で、次元の異なる足し合わせが発生したり、等式が成り立たなかったりとするから、期待と異なり、イラっとした。

 素直に反省。

 先入観を取っ払ってみれば、弁証法という思考法について、とてもわかりやすく書かれている。こんな考え方、普通じゃんと思うかもしれないが、ちゃんと名前をつけて形式化することは理解の促進に効果的だ。

小池百合子はアウフヘーベンしたのか?

 知らん。

 アウフヘーベンってどっかで聞いたなと思ったら、そういえば小池百合子都知事がそんなことを言ってブームになっていた。

 彼女は何と何をアウフヘーベンさせるつもりだったのだろうか。ちょっと探してみたが、どんな文脈で述べたのかわからなかった。この本の中でも書かれているが、アウフヘーベンだの弁証法だのはただの道具だ。それ自体に意味はなく何を為すか、何を生み出すかが大事。

 果たして、小池百合子都知事は、どんな新しい価値を創造したのか。

 私は知らないけれど、きっと何かすばらしいジンテーゼを生み出しているに違いない。そうであってほしいと切に願う。

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