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読書#7「地名崩壊」著:今尾恵介

どんな本?

先祖から受け継がれてきた「良い町」があるとすれば、それは「良い町」のままで子孫へと引き継ぐ

地名崩壊

キラキラネームは嫌い 

 なかなかセンセーショナルなタイトルだ。このタイトルを読んで、おそらく読者は、ニュータウンとかゲートウェイとか、そういった昨今のカタカナ地名がよくない、もっと昔ながらの地名を尊重せよ、という内容が書かれているのだろうと思ったに違いない。

 その通りである。

 この本では、日本の地名の成り立ちをまず語ってから、区画整理や合併の際にいろんな地名がどのように変わっていったのかを述べている。私の印象にはなるが、本の中ではそこまでヘイトな書き方はしていない。節々に出てはいるが、一応、ひらがな地名、かたかな地名、下などの印象のわるい部分の削除などの背景を冷静に分析している。

 ただ、冒頭の引用にあるとおり、筆者の思想としては、好印象はもっていないようで、利便性やブランドのために伝統ある地名が消失することを嘆いている。

 同じ思想を持つ者には刺さるのではないだろうか。

圧倒的な具体例の多さ

 この本を読んですばらしいと思ったのは、圧倒的な具体例の多さだ。地名という実際に存在するものについて語っているので当然かもしれないが、いろんな地名を紹介して、その由来や変節を記載している。

 いわれてみれば、土地の特徴を反映した地名が多い。窪であったり、川であったり、山であったり。その上や下、北や南といった形で場所を指示する。こういった場所の他に、神社仏閣由来の地名もある。私鉄の駅名に多いというのはなかなか興味深かった。ここで記載するのはとてもたいへんなので書かないが、ずらっと例が記載されている。つまり、机上の空論ではないというところがいい。

 地図好き、もしくは鉄道好きの方には、かなりよくまとめられた本だと思う。

気づきは?

地名とは何か

地名とはそもそも何であるかというと、要するに二人以上の人の間に共同に使用せらるる符号である。

地名崩壊

 そりゃそうだろと思うかもしれないが、誰もが納得する定義というものをつくるのは存外難しい。私は、地名の定義として、これはなかなかにわかりやすい定義だと思う。

 私が1人だけだったら名前なんてものは何をつけてもいい。犬のことをフランソワーズとなずけてもいい。しかし、10人集まった時、犬のことをフランソワーズと名付けて納得するかどうかである。正直、この例だと納得することもあるんじゃないかと思うが、もしかするともっと素朴な名前の方がいいんじゃないという人の方が多いかもしれない。

新は新幹線が最初ではない

 え? そうなの?

 新横浜とか新大阪とか、新幹線の駅名って新ってのがつくよねって思っていたけど、別に新は新幹線の新ではないらしい。まぁ、名古屋は新名古屋じゃないしね。

新のつく理由は主に既存駅と違う別会社または別路線の駅ながら、駅の役割としては既存駅に競合・拮抗するもの、またはその意気込みを有するものが多い

地名崩壊

 つまり、既に駅名があるときに、違うよっていうことを示すために新をつけるらしい。意気込みを有するもの、というのがおもしろい。読者のまわりに新のつく地名はあるだろうか。その新は、どういう意味での新なのか調べてみるとおもしろいかもしれない。

キラキラ駅名「高輪ゲートウェイ」

 東海道線の新たな駅だ。ニュースで一時期ぼろくそに言われていたのを見たことはないだろうか。ずいぶんと昔な気がするけれど、2018年ごろだったらしい。

 何でも、駅名は公募してアンケートもしたらしい。その結果、第1位だったのは高輪駅。うん、普通だ。そんな奇を衒うこともないだろうという住民の声が聞こえる。一方で高輪ゲートウェイは130位。JR東日本は「多数決で決めるわけではない」と述べたようだが、ここに反骨精神を持ち込む必要はあっただろうか。

 もちろん、この本でもぼろくそに言っている。筆者は、最終決定をくだしたのは「おじさんたち」と言い放ち、彼らが必死に新しい造語をつくろうとした姿勢を、ナウなヤングのフィーリングに追いつこうとする姿だと切り捨てている。ちなみに、ナウなヤングのフィーリング、という皮肉がそもそもわからないという方もいるだろう。察してくれ。あれだよ。必死になってエモいって言葉をつかうおっさん? みたいな? この例えも5年後に読んだらわからないかもだけど。

古い地名は新しい地名よりすばらしいか?

 まず、前提として私は筆者の意見とは異なる。すべて古い地名に戻したらいいとは思わない。ひらがな地名もいいし、カタカナ地名もいいだろう。

 むしろ、今と過去が混在している状態の方が趣があると私は思う。

 この本で最初に紹介している話で、福岡県宗像市の須恵の話がある。これは古墳時代に須恵器を作っていた場所で、そこが由来らしい。その横に、くりえいとという地名がある。正直、すげぇ地名だなと思ったが、まぁ、いいだろう。私はその際の筆者の例えが好きだ。

弥生人とキラキラネームの現代っ子が隣どうしで暮らしているようなもの

地名崩壊

 筆者は皮肉のつもりで言っているのかもしれないが、私はまさにそうだなと思った。日本という国が脈々と続いてきたという歴史が、今、圧縮して地名に現れている。それがとても素敵だ。

 ここは考え方の違いなので、様々あると思う。そういった考え方のぶつかった末、地名がどのように分布していくのかを見守るのは楽しそうだ。

 また、一つ楽しみを増やしてくれる。そんな本だった。

 


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