GENJO〜げんじょう〜2

【はじめに】
この物語は遥か未来、しかしそう遠くない時代に起こりうるであろう架空の話であるが、本当に起こらないとは限らない・・・。

【あらすじ】
時は西暦2027年。
そして舞台は日本・第三新横浜臨海森公園前総合病院。
そこに勤める「石崎 裕(いしざき・ゆう)」はこの物語の主人公で、まだまだ新米の医師である。
前回、Dr.ユウの診察室に(泉谷さえこ)という女性が訪れる。
彼女は現在妊娠3ヶ月。そしてSTI(性感染症)の可能性があるとして紹介状を持って診察に来たのだった。
過去に覚醒剤の使用歴があり、性感染症の可能性が大いにあった。だが、STIのテストをしてもいずれかの病気に該当するものは検出されなかった。藁にもすがる思いで物語の舞台となるこの総合病院へと来たのだがそれでもまだ分からず、Dr.ユウは性感染症や他の病院で同じ様な患者が出てないかを調べるのであったー・・・。

【第2幕】
西暦2027年4月4日。さえこの検査結果が出るまで4日必要なので今日を入れてあと3日必要だった。それまでどんなに待っても正確な結果は出ないのでDr.ユウは本来の仕事に専念する事にするのだった。

医学の教科書、患者さんとの関わり、これまでして来た事をこの不明な病の正体を明かす医療現場(通称:げんじょう)で起こる推理劇で活かそうと先ずは第3者の客観的な視点からこの病が何なのかを考えてもらおうと試みた。

同僚のA医師は、「STIの初期では症状が隠れている事もあり、症状が出て病院に来た時にはある程度進行が進んでいる。」「発熱、倦怠感、発疹や斑点などの皮膚上に現れる症状、その人がいつ、何処で、誰と出会い、何をどうのように、何をしたのか…即ち"5W1H"が解決への道だと思う」とする。

一方で同僚B医師は、「その患者が嘘をついていないという保証が無い。患者が医者に恥ずかしくて隠している事もある。流石に刑事の調書とはいかないが、最悪のケースを防ぐ為に多少は荒っぽくてもその人が症状や隠していないかも聞くという事も時には必要だと思う」と話した。

何処の界隈でもある"依頼者は嘘をつく"という事は、やはりいつの時代でも起こりうることでDr.ユウは、カプセタル(カプセルホスピタル)の中で休んでいるさえこに「あなたはこれまでの問診中に虚偽の発言は無かったか?」と尋ねるのだった。

(これではまるで刑事ではないか・・・。)
今日では、何気ないたった一つの行動、発言だけで相手から通報されたり訴訟される事がある危険性がある。しかし、Dr.ユウは迷わず聞いた。

自分の保身、他人を助けるかー・・・。
一人の医師として"仁"の名の下に他人を優先するのは人としての当然の務めだとDr.ユウは強く思い、辛抱強く彼女の真意を聞き出すのだった。

初めのうちは黙秘していたさえこだったが、観念したのか重い口を開き話し出すのだった。

彼女の泉谷さえこと言う名は実は偽名で、本名はミランダ・永美(エイミ)。日本人男性でのタツミ(旧姓:根谷)と、アーティストとして活動していたアメリカ人女性芸術家のクレアとの間に生まれた日系アメリカ人女性で、2歳の頃に父親の仕事の関係でアメリカから日本へ移住。

永美が6歳の頃、彼女の両親がとある事件に巻き込まれる。

その時に運び込まれたのはー・・・なんと、この第三新横浜臨海森公園前総合病院であった。

第三新横浜臨海森公園前総合病院の「宮藤均(くどう・ひとし)」外科部長らの手術により一命を取り留めた。

しかしその2日後、タツミ&クレア夫妻の容態が急変しそのまま帰らぬ人となった。肺炎になったとの記録がある。

夫妻に持病も、目立った大病の罹患歴も家族に遺伝性の病気があったという情報は無かった。

Dr.工藤均は現在でもこの病院内で医師を続けていたので、彼から話を伺うことにするのだった。

Dr.クドウは当時の事が書かれてあった手術記録を元に夫妻がどのような経緯で亡くなったかも話してくれた。

要約するとこうである。

西暦2021年1月9日午後1時13分頃、横浜臨海森公園前にて男女が車に撥ねられるとの通報を受け二人を乗せた救急車は一番近かった横浜臨海森公園前総合病院に運び込まれ外科医の工藤均とその助手数名が手術を行う。なお当時の患者の容態は燦々たるもので、二名とも内蔵を強く打ち、頭部にも重度の脳損傷外傷を負っていた。

大量の輸血を使い、手術中に一度心肺停止となったが懸命の処置の末に一命を取り留めた夫妻はその後、入院をしていた。

なおその間、至って障害を発症をした形跡は無く順調に治癒していった…と分かった。

それならば何故肺炎を発症したか?何処かで感染したのか?術後の経過で何か肝心な事を見逃しているのだろうかと思い何度もデータをDr.ユウは見返したのだった。

だが何度見ても結果は変わる筈もない。
だが、閲覧中に不自然なデータが見つかった。

「輸血」の出所が書かれたデータがその日(手術した日付)だけ記録が抜けていたのだった。

何故ここだけが!?もしやー・・・。

不審に思い、医療ミスを隠蔽する為にデータを改竄したのかと睨んだDr.ユウは亡くなった夫妻の司法解剖をしたゴウダと呼ばれる男の元を訪れる。

ゴウダは3年前に医療の現場から離れており、現在は人里離れた別荘地で隠居生活を送っていた。

ゴウダは解剖学の権威でもあったが、そんな彼が何故人の目を憚る様に隠居生活など送り出したのか?その真偽を確かめるべくDr.ユウは彼に話せるところまで話してくださいと頼むのでした。

「ゴウダ先生。このデータ(手術とその後の経過、並びに自身が行なった司法解剖の詳細)を閲覧しました。あなたは何かを隠しておりますね?率直に聞きますが、Dr.クドウから医療ミスを隠蔽するのに協力しろと頼まれていますね?」

そう聞くとゴウダは黙って首を縦に振った。

「医学を志した者として恥ずかしくはないのですか!?とにかく、この事は院長にも話さなければ・・・」Dr.ユウは横浜臨海森公園前総合病院の院長である外川謙三(Dr.トガワ)に報告せねばと思っていると、ゴウダがすぐさま止めに入った。

「止めておけ。"彼"がそれを指示していたのだからな」と話し、病院ぐるみでの医療ミス隠蔽工作を企てた事を彼は続け様に吐くのだった。

「残された患者には申し訳無い…だが、腐った所に患者を入院させるのは如何なものか。悪党だと言われようとも、悪事を隠す事が必ずしも許される事では無い…」やりきれない思いであのミランダ・永美さんが私の前に訪れたのは何かの因果が関係していたのかもしれない。

そう思い、彼女に事実を確認しようとしていたその矢先、自分宛に病院から連絡が入る。

「永美さんが危篤状態」

彼女が身体が弱っていた訳でも無い。強いて言えば妊娠だった事。妊娠中毒症か!?様々な憶測を交えながらDr.ユウはすぐさま病院の元へと急ぐのだった。

続く