ライターズブロックを考える/過去を振り返る・2

(承前)「人間は…どうせ全員…死ぬ…!(飛んでいく生首! 破裂する地球!)」

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そんなわけで僕はデビュー直後、さっぱり小説を書けなくなった。

当時はほんと、思いつめちゃって。
期待にこたえられなかった不甲斐なさとか、せっかく商業でやっていくチャンスだったのにとか、そもそも趣味であろうと小説自体、このまま書けなくなっちゃうんじゃないか、とか。

そんなときに、他社でべつの担当さんがついた。
いろんな意味で、デビューした方の担当さんとは、真逆タイプの人。

どう真逆だったかというと。

その担当さん、まず、読者層の傾向とか、データの積み重ねとか、ほぼ考えないタイプだったのです。

僕はそれまで、「とりあえず最低100冊読め。そして読者が何を求めているか、ヒット作の傾向を把握するんだーッ」っていわれていた身なので、そういう方向で話をしようとすると、いやな顔をする。
ていうかよくよく話していると、他社で売れてる本はもちろん、自社で出してる受賞作すら読んでねえぞこの人ォォ…!
僕はもう、ぽかんですよ。

代わりに飲みに誘ってくれて、ざっくばらんに雑談をした。
そのなかで、自分はこういうのとか好きです、この作品を観たときにこういう感想を持った、最近はこういう映画を観てこういうところがいいと思った、この作品面白いけど知ってますか? ……と、自分の「好き」と「物の見方」の感覚を開示してくれた。
読者が何を求めてるかの話も、ヒット作の傾向の話も、ぜんぜん、出てこなくて。


あ、これ、アプローチのやり方がぜんぜん違うんだ。

…カルチャーショックだった記憶がある。

「針とらさんはどういうのが好きですか」「僕はこういうのが好きで、こういうのは正直よくわかんない。これは挑戦してみたけどもうやりたくない」「針とらさんが好きなそれは、自分はわからないな。こういうのは好きだけど」「あ、それは自分も好き」「こういうところがいいっすよね」みたいな。
で、「じゃあ、このジャンルでやってみましょうか。企画テキトーにいくつか考えてみてください」。


なんというかな。
シンプルに、「好きベース」だったんだよな。
いまこの場にいる「自分」と「あなた」の好きなものと、それが重なる部分はどこか。
それ以外のいろんなものを、極力に廃した打ち合わせというか、雑談というか。(もちろん、編集さんの中では商業的な選別もしていたとは思うんだが)

僕、そのころ、こういうの楽しいよなっていうパッション、死んでたんだけど。
そういう話をしているうちに、「そうだ、自分はこういうのを楽しいと思ってたんだった」とか、「こういうの好きなんだった」っていう感覚が、ちょっとずつもどってきたんだよな。

なんだ、けっこういろんな好きがあるじゃん。
書きたいって気持ち、ちょっと湧いてきた。(単純)

たぶんこれ、小説というよりマンガ、特に週刊系出身の編集さんのアプローチなんだよな。ジャンプの血だ。
で、デビュー作の担当さんは、ラノベのアプローチだったんだ。(あっちはマーケティング目線が強いんだよね)
そう考えていくと、純文出身の編集さんはそういうアプローチだったし、ミステリ出身の編集さんはそういう読み方をしていたなーと気づいて。

僕がけっこう担当編集者に合わせるスタンスをとってるのは、新人のときのこの経験が大きい。
目の前の人とどうやっていくかがすべてで、なにか統一された基準とか、常識とか、まったくねえよな! って。


で、じゃあ、それであとはぜんぜん制約なく、好きだけでやれるかっていうと、そういうわけでもない。

覚えているのは……ってこれ、出したら怒られそうだけど……まぁいいか。

プロットの打ち合わせをしてるときに、担当さんが、テーマがお母さんなの、すごくいいですねっていって。
理由を訊いたら、「編集長がお母さんなので、企画がとおりやすくなるはずなので…!」。

もうね。
サラリーマンだな!!! って。
僕、めっちゃ面白くなってしまって。

それまで何人か編集さんたちと接してきたけど、みんな、だいたいいうこと、カッコよかったんです。
で、カッコいいなと思うほど、いっしょに仕事をするには、萎縮しちゃうんだよね。背筋がビシッ! と伸びちゃうというか。

担当さんの言葉は大変にカッコ悪かったんだけど、とおすために考えてくれているんだな、という心意気は伝わった。
であれば、僕もそこは考える必要があるな、と。
僕もサラリーマンだったし。そりゃあ社内で意見をとおすときには、相応の根回しや材料、建前が必要だよな、と(腕力でとおす人もいるけどね)。
組織の外の人間がどうしたら、中で動きやすいかの感覚を考える。
で、「この部分は大切にしたいから変えたくない」、「こっちは特にこだわりないから、編集さんが動きやすいようにどうとでも変形する」って判断してたら、作品のなかのこだわるべき部分とそうでない部分に、強弱をつけやすくなったかな。そうして割り切った方が結果的に面白くなったりすることもままあるしね。
個人的には、売れセンや類書があるものならともかく、そこからはずれたものをやろうと思ったら、この視点は必要だよなと思っている。


そんなこんなで提出した企画の1つにOKがでて、ラフにして、打ち合わせでプロットを打っていく。
やっぱり、基本は自分たちが面白いと思うかどうか、熱を持てるかどうかだけ。(編集さんがあまりに気にしないから、むしろ僕の方が市場目線を考えたわけだが)
そしたら、あ、これいけるな……っていうのができた。

プロットしあげて、編集長チェック。
OK。テーマがお母さんだったためかどうかは謎です。(違うだろうな!)
個人的には、担当が本気だったら通して、迷いがあったら通さない、って感じだったんじゃないかなと思ってるんだけども。

さあ、書こうか。……書けるかな……?(続く)

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