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コーヒー生豆の精製方法


コーヒー生豆とは、コーヒーの果実の種子の中身

コーヒーの木や果実を見たことありますか?
日本ではコーヒー栽培は難しく、沖縄か温室内で栽培されているだけなので、ほとんどの人が見たことがないと思います。
コーヒー生豆というのは、アカネ科のコーヒーの木の果実の中の種子の硬い殻を取り除いた「胚乳」「胚芽」の部分をいいます。
(「の」が続きました〜!)
梅干しの種を割って中から出てくる『天神様』の部分、と私は説明しているのですが、この話で理解してくれる人が少なくて淋しいです…。
(あの部分を『天神様』と呼んでいるのは私の出身地方だけなのか〜。)

ちなみに、「コーヒー豆」と呼ぶと焙煎したあの黒い豆と混同しがちなので、種子から取り出したものは「コーヒー生豆」と呼ぶことにしています。

花が咲き
実が付いて
熟すと真っ赤になります

熟したコーヒーの実は果実らしい甘〜い香りがして、実も美味しく食べられるそうですが、私はまだ食べたことがありません…。
赤いコーヒーの実は「コーヒーチェリー」と呼ばれます。

このコーヒーチェリー、果肉部分を取り除くと、種子の周りには「ミューシレージ」と言われるヌルヌルした部分があります。さくらんぼを食べたときに”チュルンッ”と種子の周りに残る部分と同じものです。
この部分が取りにくくて大変なのですよね。

色々な精製方法

そこで、ミューシレージを上手に取り除きつつ種子の中からコーヒー生豆を取り出す「精製方法」が色々と生み出されてきました。
この「精製方法」によって、同じコーヒーチェリーを原料としていてもコーヒーの風味が違ってくる、という面白さがあります。

私たちがインドネシアで行っている精製方法を4つ簡単にご紹介します。
(本などで調べても精製方法の名前、内容は少しずつ違っていたりするので、以下は私たちがインドネシアで行っている方法と名称だと思ってお読みください。)

ナチュラル精製

インドネシアでは大きなプランテーションではなく、山地の斜面にコーヒーを栽培しているので機械での収穫はできず、コーヒーチェリーは手摘みをします。
真っ赤に熟した実から順番に選んで収穫します。

収穫したコーヒーチェリーをそのまま天日干しし、カラカラに乾いた実を割って生豆を取り出す方法がナチュラル精製です。
ただ、インドネシアは雨が多いため、外に干すことができません。
私たちのパートナー農家はハウスの中に「アフリカンベッド」といわれる台をつくり、そこで乾燥させています。

雨に当てないように乾燥させる

腐ったりカビたりするのを防ぐために、干している間は天候を確認し、空気を入れ、こまめに撹拌するなど丁寧な作業が必要です。
このナチュラル精製は果肉も一緒にそのまま干すので、果肉のフルーティーな香りや甘みがコーヒー生豆に残りやすくなります。
また、このときに自然に果肉が発酵していると思われます。
ナチュラル精製のコーヒーは爽やかな酸味や独特の香りを感じるものが多く魅力の一つになっていますが、この自然発酵も影響しているのではないかと考えています。

ちなみに、「腐る」「カビる」「発酵する」はどれも菌類・細菌類が成分を分解する活動を指す言葉ですが、「腐る」「カビる」は悪い方向の(風味が落ちる、毒性のある物質が作られる)活動を、「発酵する」は良い方向の(風味が良くなる、旨味などの良い成分が作られる)活動を示しています。

フルウォッシュ精製

収穫したコーヒーチェリーの果肉を機械で削り取ります。(パルピング)
機械で果肉を削り取ってもミューシレージが残っているので、それを水槽につけ、微生物の発酵によりミューシレージを分解してもらいます。
そして更に水を使って洗い流します。
そうやって種子だけになったものを乾燥させ、硬い殻を機械で割って(ハリング)コーヒー生豆を取り出す方法です。

沈んた豆だけを選んでパルピングマシーンにかけます
発酵槽
種子の硬い殻をハリングマシーンで割りコーヒー生豆を取り出す

ミューシレージまできれいに洗い流してから乾燥させますので、すっきりとクリーンなコーヒーになりやすいと言われます。
ただ、この方法は大量の水を使います。
水が豊富ではない地域には向きませんし、環境負荷の面を考える必要があります。

ハニー精製

「ハニー」と名付けられていますが、「はちみつ」を使うわけでも「はちみつ」の味がするわけでもありません。多言語間で言葉が伝わるときの誤解?によって付けられているようです。
この精製方法はナチュラルとフルウォッシュの中間といえる方法です。
機械で果肉を取り除いた後、ミューシレージが付いた状態で乾かし、乾いたものを割ってコーヒー生豆を取り出す方法です。

果肉を取り除くパルピングマシーン

ほどよくコーヒー生豆に果実感が残り、爽やかな酸味や甘味が出やすいと言われます。
また、機械で果肉を取り除く際に、どの程度果肉やミューシレージを残すかによってコーヒー生豆につく風味が変わるところが面白いです。
ここでも、果肉やミューシレージが自然発酵し、風味を付けていると思われます。

スマトラ式

インドネシアでは、ハニー精製によく似た「スマトラ式」という方法も使われています。
果肉をパルピングマシーンで取り除いた後乾燥させますが、完全に乾ききる前にハリングマシーンで割って生豆を取り出す方法です。

インドネシアは山地にコーヒー農家が点在していますが、それぞれの農家で精製して生豆を取り出すところまで作業するのは大変です。
一般には点在する農家から業者(バイヤー)が果実を買い集めて精製するのですが、インドネシア(特にスマトラ島)はコーヒーの収穫時は雨季で、豆を集めるのも乾かすのも大変。
そこで、下処理としてパルピングと半乾燥までを農家が、それを割って生豆を取り出すのを業者が、という分担制になったようです。

半乾燥の状態で割って生豆を取り出すので傷つきやすいという欠点はあるのですが、このスマトラ式で「マンデリン」に代表される力強さ、コクの深さを持つ豆ができるのですから素敵です。

それぞれの違いを楽しんでほしい

簡単に4種類の精製方法を紹介しましたが、同じ農園の豆でも精製方法が違うと全く違う風味を持っているのが、とっても楽しいです。
また、同じ精製方法の豆でも栽培された国や地域が違うと、風味が違うのが面白いですね〜。
コーヒーの精製方法を知ると、なかなか面倒な作業を経てあのおいしいコーヒーが作られているんだな〜と気づきます。
(しかも、コーヒーは生豆の状態では飲めませんからね…。焙煎、抽出と、まだまだ作業は続きます。)
1杯のコーヒーの価値が、よく分かる気がします。

そして、いずれの精製方法にも関わっている発酵。
最近は自然発酵ではなく「アナエロビック」といわれる嫌気発酵や、乳酸菌を水槽に投入する乳酸発酵などを人為的に行って、面白い風味の豆を作っている人もたくさんいます。

インドネシアの豆は「インドネシアらしい」と表現されることがよくあるのですが、きっとそれはインドネシア特有の在来菌が関わっているのではないかと私たちは考えています。

コーヒーを「発酵食品」と捉えると、さらに理解が深まり可能性が広がるような気がしています。


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