私立恵比寿中学は心臓のドラマだ。
「もう一度、“さいたまスーパーアリーナ”に立ちたい。」
この言葉を聞いた瞬間、彼女達を応援してきた10年間分の感情が溢れ出てきた。
8人が生み出す光の海
〜私が私立恵比寿中学に出会い、初めてLIVEに行った話〜
私立恵比寿中学を好きになったのは、2013年の小学6年生の時。当時の私はサッカーに明け暮れながらも、友達の影響でももいろクローバーZにハマっていた。そしてポケモンのED曲を務めた『手をつなごう』がきっかけで、私立恵比寿中学の存在と、彼女達がももクロの妹分だということを知る。それからどんどん沼にハマっていき、気づけば友達とエビ中を語るのが日常に。そして引っ込み思案でショートカットの少年のような安本彩花が、私にとって初めて推しという存在になった。ももクロは全体的に好きという感覚だったのが、エビ中では自然と彼女を目で追っていた。
山形県の田舎で部活漬けの毎日を過ごしていたサッカー少女が初めてLIVEに行けたのは、3年後の中学2年生の時。2016年に“さいたまスーパーアリーナ”で行われた『年忘れ大学芸会』だった。どうしても行きたいと何度も頼み込んで、クリスマスプレゼントとして連れて行ってもらえることになった。
久しぶりの関東。人生初めてのLIVE。当時はファンクラブの存在も知らなくて、何もわからず一般発売で買った席は3階の最後尾。“さいたまスーパーアリーナ”で正真正銘の最後列で、崖っぷち過ぎて足が竦んだのを覚えている。席的には最悪だったけど、LIVEを一番上から俯瞰して見て、曲に合わせて波打つサイリウムの海に感動した。そこまで私と年齢が変わらない8人が、ステージ上でキラキラ輝いて、こんなに多くの人達を魅了している。そんな姿を生で目の当たりにして、彼女達の熱量に憧れを抱いた。そんな体験をした“さいたまスーパーアリーナ”は、個人的にも思い入れ深い場所だった。
幸せの貼り紙はいつも背中に
〜私立恵比寿中学の歴史〜
『私立恵比寿中学』は、「永遠に中学生」というコンセプトで、2009年から活動しているアイドルグループである。「エビ中ってなんか説明しづらいけど見とかなきゃ損なグループなんだって」という過去のツアータイトル通り、自らの「説明しづらさ」を自覚しながらも、グループとしての在り方を模索しながら今日まで活動を続けてきた。結成当初は、キレのないダンスと不安定な歌唱力の「King of 学芸会」をコンセプトに掲げながら、全てが曖昧かつ不安定な状態。またアイドルグループとしてはかなり長い14年という活動期間で、メンバーの転入や卒業が目まぐるしく、人数が一定する期間がほとんどなくここまでやってきた。それでも彼女達は、LIVEパフォーマンスでトップクラスの実力を持ち、アイドルとしての地位を確立している。
メジャーデビューしたアーティストとしては、2013年当時最速かつ最年少での“さいたまスーパーアリーナ”でLIVEを開催。音楽特番のアイドルメドレーにも、AKB48や乃木坂46などと一緒に踊っていた。2015年に金色のセーラー服でMステに出たいと歌った『金八DANCE MUSIC』を発売すると、本当にMステに出演して爪痕を残した。当時は物理的にキラキラした衣装を纏いながら、彼女達自身も「今、自分達は輝いている」と実感していたという。またこの時期にはエビ中が音楽性を深めていくきっかけとなったシングル『まっすぐ』を発売し、難易度の高い楽曲への挑戦も始めていた。完全に波に乗っていることを肌で感じながら、ここから一気に伸びる。メンバーもファンも、未来に大きな希望を抱いていた。
しかし順風満帆と思われていた中で、2017年2月8日に致死性不整脈による松野莉奈の急逝というグループ最大の悲劇に見舞われた。そして、そこからエビ中に次々と重い試練が圧し掛かることになる。小林歌穂がバセドウ病。柏木ひなたが突発性難聴。星名美怜がステージ転落でくも膜下出血および脳挫傷と骨盤骨折。安本彩花が悪性がリンパ腫ステージ4。世の中で取り上げられるのはメンバーの大怪我や重病発覚などの不幸なニュースばかり。エビ中は幾度となく苦境に立たされ、メンバー全員が揃って活動できた期間は2016年から2021年の夏までほとんどなかった。
Mステに出演した2016年頃に、アイドル界隈でライバル的な関係値にあったBISH。彼女たちは2022年紅白に出場し、今年の6月に行われた東京ドーム公演を締めに解散した。一方のエビ中は、所謂「アイドル戦国時代」の真っ只中に誕生し、一気にスターダムを駆け上がるかと思われた途端に、突然の足止めで長期的に回復期間のような状態に。着実に実力を付けているのに、エビ中だけが時間を止められている。どうして彼女達にだけ、こんなにも辛い試練が立て続けに起きるのだろう。泥臭く直向きに努力しているのに、進む先は何度も障害が訪れる荊な道なんだろう。遣る瀬無くて、もどかしかった。しかしスポットライトの光に逃げられてばかりでも、彼女達は足を止めることなく、今日まで活動を続けている。そして何より強いのは、その苦労話を情けに売れようなどと思ってるメンバーは、誰一人としていなかったことだ。
日進月歩
〜大好きだった6人時代の功績〜
松野莉奈の急逝とエビ中の顔だった廣田あいかの脱退を乗り越え、2018年に6人は新体制として再スタート。やっとグループ形態が安定すると思わたのも束の間、1月3日の6人体制の初披露LIVEが行われている裏では、運営が新メンバーオーディション開催のサプライズ発表を企てていたという。しかし6人の気迫の籠ったパフォーマンスを見て、急遽白紙にする選択を取られていたことが、結成10周年記念のドキュメンタリー本で明かされた。安本が「あの時期のしんどさは、今でも鮮明に記憶に残っている」と振り返ったように、6人時代は不本意な変化に伴う危機とグループの新たな可能性に直面した苦しい時代だっただろう。それでも周囲からの6人体制に対する不安や不満など、全ての否定的感情を力づくで捻じ伏せるほど、彼女達のパフォーマンスには魂が宿っていた。
活動期間が一番短かった6人体制だが、この時期はその後のエビ中に大きく影響する重要な楽曲的変化があった。それまでは先輩のももクロを踏襲するように、王道とはかけ離れたマイナー路線の元気な曲で”エビ中らしさ”を体現していた。しかし6人体制では、経験によって培ったメンバーの熟練された技術力を全面に押し出し、彼女たちなりに音楽性を内省して楽曲の世界観を一気に深化させた。近年発表された楽曲はジャンルが多様化し、現在進行形でグループに厚みが増しているのは、この6人時代の功績と言えるだろう。
そこから各所で、エビ中の高い歌唱力が評価されるようになった。今では椎名林檎や大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)、川谷絵音(ゲスの極み乙女)、尾崎世界観(クリープハイプ)、石原慎也(Saucy Dog)など、数多くの有名アーティストから楽曲提供を受けている。作家の魂が宿った個性豊かな曲を、最大級のリスペクトを込めながら、確かなスキルに裏打ちされたオリジナリティで色付けをして、自分達の曲として昇華させた。作家は総じて、みんなエビ中のために面白がって曲を書いているのである。このことが更に多くのアーティストからの楽曲提供を呼び、エビ中の音楽をどんどん面白くしてくれる。直近では梅田サイファーと礼賛とのツーマンライブを行った。今回の対バンに関しては、ジャンルがかけ離れすぎて誰も予想できなかったであろう。このようにしてアーティストからの支持を確立し、アイドルというジャンルから逸脱した実力派ボーカリスト集団に変貌を遂げた。
紙一重の兆し
〜2022年の年末恒例ワンマンLIVEの感想〜
2022年の12月。幕張メッセにて2daysで行われた、年末恒例ワンマンライブに行った。
1日目は、アイドル界隈では歌姫と言われ、他のメンバーよりも圧倒的な認知を得ていた柏木ひなたの卒業式『smile for you』。落選祭りで行けないと、Twitterで嘆いている人が多く見られた。12年間グループの先頭を走り続けてきた彼女なら、もっと大きな箱を埋められる。誰もがそう思っていただろうし、単純になるべく沢山の人に見送られて欲しかった。しかし、2日目の『New Style 大学芸会』は、当日まで完売していない状態。2日間の動員数の均衡を取った結果、運営は“幕張メッセ”という選択をしたのだろう。
ひなたの卒業式は、彼女が抜けた穴の大きさを嫌でも実感させられるLIVEだった。柏木ひなたは、アイドルとして存在感が強かっただけでなく、エビ中でリーダー的な立ち位置を担っていた。メイキングやドキュメンタリーでも、大事な場面で大人に対して声を挙げるのはいつも彼女だった。エビ中の大黒柱として、メンバーにとって大きな心の支えになっていただろう。「とにかくライブをする以外の楽しみがない。歌がなかったら本当に生きていけないと思う。」と言っていた彼女が突発性難聴を患い、大好きなメンバーに迷惑はかけたくないと、体調面を考慮しての卒業という決断。不器用な故に手の抜き方を知らない彼女は、12年間弱さを隠して自分を追い込み続けた。やりたいことに身体が追いつかず、精神的にも限界を迎えた時もあったという。それでも、理想的な辞め方ではなかったとはいえ、自分の努力を認められるようになったと言って、最後は笑顔でステージを降りていった。
そうして迎えた2日目の、新メンバー2人を加えた10人での新体制LIVE「New style 大学芸会~run in our ebichu family~」。2018年の廣田あいか卒業時と同様に、卒業ライブを行った次の日に新体制ライブを行うという、メンバーには肉体的にも精神的にも苦しく、ファンにとっては残酷にも現実を突き付けられる日程。そのため開演前の会場は、心なしか湿った空気が漂っていた。
そんな中、厳しいオーディションを経てグループに加入した桜井えまと中村悠菜は、堂々と登場して序盤からアゲ曲で会場を圧倒した。ステージに立つ自分自身も含めて、会場にいる全員が悲しみや不安を抱いている。それを自覚した上で、それでも全て吹き飛ばす熱意を彼女達のパフォーマンスから感じた。そして、最初のアゲ曲ブロックが終わった時点で、会場の悲しい雰囲気はメンバーのパフォーマンスに呑み込まれて消えていた。またその日披露された1曲目は、『未確認中学生X』。私立恵比寿中学が2013年に歴史的快挙を達成した、あのライブの1曲目と同じだった。そのため古くから彼女たちを知るファンであれば、脳裏に“さいたまスーパーアリーナ”の文字が浮かんだだろう。
圧倒的な歌唱力を誇る柏木ひなたの卒業は、LIVEでの生パフォーマンスを売りにしてきたエビ中にとって致命傷だ。そこに素人中学生2人が加われば、エビ中の総合値は一気に落ちる。誰もがそう思っていた中で加入した2人は、会場に居た全員が満場一致で即戦力だと認めるほどの実力者だった。
そして新制エビ中の完成度に圧倒される中、MCで決意表明をした。
「もう一度、“さいたまスーパーアリーナ”に立ちたい」
これは、言外に「現在はSSAに立てる集客ではない」ことを認める言葉だった。それはここ最近のLIVEの箱の大きさから見ても、SSAのキャパは埋まらないのが現実だろう。初めてSSAでライブをした2013年からは、もう約10年が経過しようとしている。それでも、もう一度本気で上を目指していく。その言葉の裏にある覚悟を、LIVEを通して感じることができた。もう何度目か分からない再スタートの一歩を勢いよく踏み出した彼女達を、より一層応援したい。そして、私の人生初LIVEであり、初めてエビ中を生で見た”さいたまスーパーアリーナ”をもう一度目指す彼女達を、今年はより傍で見ていたいと思った。
緑の戦士
〜推しである安本彩花の変化と強靭さ〜
これまで語ってきた、2022年の年末恒例ワンマンライブ。
その2日目の新体制LIVEで、推しの安本彩花には一段と強い覚悟が見えた。
私が出会った当初の安本彩花は、引っ込み思案なショートカットの少女だった。初期の握手会では人気がなくて、ずっと裏で退屈にしていた。歌の音程は合うけど感情が籠っていなくて、ボーカロイドと言われていた。独特な口調でおとぼけたことを言う子で、ハキハキ喋れないと悩んでいた。汗をかいたLIVE後は磯の香りがすると、一時期はおじさんキャラが定着していた。本当に素直にまっすぐ生きてきてしまったが故に、メンバーをかき乱して微妙な距離感になってしまったこともあった。バカ真面目な努力家で、すぐに自分を追い込んで弱ってしまうし。こんなにも素直で愚直に努力し続けている人は見たことがない。
私が応援してきた安本彩花の10年間は、本当に激動の日々だった。父の言いなりで始めたアイドル活動だったが、小林歌穂と中山莉子の加入で教育係を任命されたことで、仕事に対する向き合い方が変わっていったり。ヒャダイン(前山田健一)との出会いをきっかけに、グループで自分のカラーを出していきたいという自我が芽生えたり。メンバーの中でも特に親睦の深かった松野莉奈との死別で、彼女の人生観に大きな変化があったり。
安本にとって転換期となったのは、廣田あいかの卒業のタイミングだと感じる。松野の死後から少し経って再びメディアの前に姿を見せた彼女は、見て分かるくらいに痩せていた。それでも松野との死別を乗り越えるため、「7人のエビ中も好きになってください!」と彼女が叫んで始まった新体制でのツアー。なんとか再スタートを切ったと思われたが、7人のエビ中はあっけなく終わりを迎えることに。
安本と同時期にエビ中に加入して信頼関係が強かった廣田あいかが、ツアー直後に卒業を発表したのだ。廣田の決断に他の5人は一定の理解を示したものの、安本だけはどうしても納得ができない様子だった。過去にも彼女は、メンバーの入れ替わりの時に他のメンバーと違う反応をすることが多かった。瑞季、杏野、鈴木が卒業する時も、のちに小林と中山が選ばれた新メンバーの加入が決定した時も。しかしどちらの決定事項に対しても、柔軟に受け入れて1人賛成派の立場を取っていた。そんな彼女が、廣田の卒業に関しては唯一受け入れられないと反発した。責任感が人一倍強い彼女は、松野の想いも背負って7人で改めて再スタートを切ろうと躍起になっていたからだろう。
そうして立て続けに仲間を失った傷が癒えぬ間もなく、彼女たちは極限状態で新しい6人体制を身体に叩き込んでいった。世間には戦力が落ちたと厳しい目を向けられ、エビ中に携わる周囲の大人たちにまでも「このままじゃだめた」と裏で怒られていた。彼女たちは土壇場まで追い込まれながらも、その感情を全てライブでのパフォーマンスで爆発させた。その鬼気迫るパフォーマンスが、運営が背面化で計画していた”新メンバーオディション”の発表を取り止めさせたのである。
無事に廣田あいか卒業LIVEと6人新体制初LIVEの2DAYSワンマンを乗り越え、より一層強固な絆が生まれたエビ中は、10周年のツアーに向けて走り出していく。しかし安本は身体的にも精神的にもどんどん追い込まれ、2019年10月に体調不良で無期限休養することになる。戦友として強い信頼を置いていた仲間を失った恐怖心、もっと自分が頑張らなければという責任感、星名が怪我をしたことで完全体として進めない焦燥感、そしてそれを見せてはいけないと虚勢を張った。その結果、全力を出しすぎて燃え尽き症候群のような状態になってしまったという。休養中も考えること時間ができたことで、もっとエビ中のことを考えて自分を追い詰めた。それでも彼女は強い覚悟を胸に、なんとか2020年3月に活動を再開させた。
しかし復帰直後に、今度はそのタイミングでコロナが蔓延して経済自体が停滞。世間からも見放されたという絶望感と、気持ちに身体が付いていかないことに精神的に落ちていったという。そして更に追い打ちをかけるようなタイミングで、2020年9月に自身の身体の違和感に気づく。病院を受診しても原因が見つからぬまま、それでも彼女は自分に死が迫っていることを悟りながら、野外LIVE「ちゅうおん」と生誕ソロLIVE「安安」を行った。そして幾度かの検査の末に、2020年10月に悪性リンパ腫ステージ4と診断され、治療に専念すべく当面の間休養することが発表された。
病気が発覚してから闘病生活までの心境は、復帰後に出版された自身の写真集で語られているが、本当に壮絶なものだった。自立すると宣言して一人暮らしを始めたタイミングと重なったが故に、すぐに誰かに相談できず家族やメンバーとも音信不通にしてしまったという。彼女は日に日に症状が悪化していく身体で、自分が死ぬかもしれないという恐怖を約1ヶ月間孤独で抱えた。エビ中に命を賭けているとまで言っていた彼女が、「グループを辞めようか」という提案に対して、自然に「はい」と返事を返してしまったくらいに滅入っていた。それでもどうしてもエビ中に戻りたい、歌を歌いたいという気持ちを盾に乗り越えた。
自身の病気が発覚して休養する直前の2020年10月10日に行った、生誕ソロライブ「安安」。もう一生ステージに立てないかもしれない。何なら自分の人生が終わってしまうかもしれない。全てのことを最後だと覚悟して、「今やるしかないんです」「ここに残して私は居なくなるんです」と、止めに入る運営陣を無理に押し切っての挑戦だった。
病の恐怖に蝕まれながらも自分を奮い立たせるかのように、自身のヒューチャー曲『ジャンプ』をアカペラで熱唱。その歌詞で叫ぶ「今だ」は、本当にその当時の彼女にしか歌えないものだった。そして、激動の日々を送りながらも年々パフォーマンスが上達していく彼女の姿は、同じく『ジャンプ』の一節の言葉通り、「これは心臓のドラマだ」と思う。エビ中の楽曲は、幾多の苦難を乗り超えた彼女達の物語が楽曲の背景となり、それが単純な楽曲の良さに肉付けする形で反映される。この曲の歌詞は、彼女達が紡いできた物語とのリンクが完璧で、その相乗効果が抜群に発揮されていると思う。
辛い闘病生活を乗り越えた彼女は、昨年4月に寛解を報告。『THE FIRST TAKE』で279日ぶりにメディア復帰を果たし、2021年の夏から本格的に活動を再開した。復帰後は「小さな幸せをすごくキラキラしたものに感じられるようになったし、今となってはこの経験全てが自分の財産になっている。今は不安も、逆に期待もない。生きていることだけで奇跡、歌えるだけで幸せだ。」と語っている。
現在の彼女は、本当に毎日を楽しそうに生きている。「誰かに勇気や自信を与えたい」という思いのもと、マネージャーに直談判してセルフプロデュースの写真集を発売したり。自分の歌をより多くの人に届けようと、TikTokを始めて積極的に更新していたり。トラックメイカーとして、MAISONdesのリミックスをリリースしたり。美肌スペシャリストやサウナ・スパ健康アドバイザーの資格を取得したり。メンバーと旅行に行くなど、色々な所へ出かけている姿をInstagramで見せてくれたり。新しい自分でどれだけ可愛くなれるのかと毎日変身計画を立てて、今まで恥ずかしくてできなかったというハイトーンに挑戦したり。彼女のハイトーンがあまりにも可愛すぎたため、私も意を決して人生初ブリーチをして憧れだった金髪ショートにした。何よりLIVEでは、歌って踊ってステージに立っている瞬間が、本当に幸せなんだということがパフォーマンスから伝わってくる。そんな彼女の姿は、”当たり前の奇跡”と”今この瞬間の大切さ”を教えてくれた。今年の1月に発売された尾崎世界観のエッセイ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』で彼女が担当した文庫巻末解説にも、闘病生活を乗り越えた現在の心境が綴られている。
現在では、超正確なパーフェクトピッチと魂の籠った感情表現が凄いと、1人のアーティストとして実力を認められるようになった。楽曲では活動を通して磨いてきた幅広い表現力で、自分がエビ中の進化を引っ張っていくんだという矜持を感じる。LIVEでは首の血管を浮かび上がらせながら、歌い出しやサビの大事なパートを堂々と歌い上げる。また気が弱くて誰よりも泣いていた彼女が、柏木の厳しく言うリーダー的役割を自らの意思で担おうとしている。そんな姿を見て、自分が努力と言っていたものがどれだけ温かったかを思い知らされた。
安本彩花は、アイドルとして完璧とは言えなかったかもしれない。容姿が整っていて、キラキラしたアイドルなら、他にもたくさんいる。それでも、命を燃やしながらステージに立っている彼女を、私は誰よりもカッコいいと思うし、尊敬している。
君のままで
〜推しの安本彩花に支えられて生きている私の話〜
今年の春ツアー「私立恵比寿中学 spring tour 2023~100%ebism~」は、5月14日の大宮ソニックシティーと7月16日のパシフィコ横浜の千秋楽を見に行った。
今年の春ツアー期間、私は就職活動の真っ只中だった。私は小中高生時代から続いていた田舎でのサッカー三昧の生活から抜け出すために、なんとなく東京の大学に進学した。12年間続けたサッカーも親の影響で物心つく前から始めていて、自分のやりたいことが全く分からず、なんとなく選んだ人が多い学部No.1であろう経済学科に入った。でもそこから自分に向き合う決心をして、自己分析をしたり読書をしたり、とにかくがむしゃらに行動した。そしてプログラミングや長期インターンなどの紆余曲折を経て、来年の春からはメガベンチャーのプロダクトデザイナーとして就職することが決定した。安定思考の自分が大手企業を蹴ってメガベンチャーを選び、何より経済学科からデザイナーになる。東京という場所に漠然とした期待を抱いていて空っぽだった4年前の自分に、この結果を言っても信じてもらえないだろう。
大学生活はチャレンジの連続で、とにかくがむしゃらに踠いてた。手も頭もいっぱい働かせて、たくさん失敗したし、どん底まで落ち込んだこともある。特に就職活動中は最初はなかなか上手くいかず、心が折れてしまった瞬間があった。
そしてちょうどその落ち込んだタイミングに、今回の初ツアーの大宮公演に行った。ツアーは基本的にセットリストが固定されている中で、今回はセトリガチャとして毎公演ごとにランダムで1曲披露されるコーナーがあった。セトリガチャに大宮公演でスクリーンに映し出されたのは、安本彩花ヒューチャー曲『君のままで』。私がエビ中の中で一番好きな曲であり、人生で一番勇気や活力を貰っていた曲だった。
そもそもその日の会場である“大宮ソニックシティ”は、コロナ明けの2021年6月にコンセプトライブ『MOVE』で私が約3年ぶりにLIVEに行った会場だった。当時安本は闘病中により休養している時期で、彼女が居ないエビ中を見るのが辛くて少し距離を置いていた。しかし復帰前に新メンバーの加入が決まってしまっため、厳しい境遇を乗り越えて新たな基盤を形成した6人体制のエビ中を、終止符が打たれる前に一度は生で見たいと思って応募した。その結果よりにもよって1階1列目の最前列を引き当ててしまい、エビ中の進化と推しのいない現実を交互に浴びた複雑なLIVEだった。安本推しにとっては苦い思い出が残っていたであろう『MOVE』以来の“大宮ソニックシティ”で、元気な姿で『君のままで』を堂々と歌ってくれている。その姿を見て、彼女が歌うからこそより意味を持たせることができる曲であると実感したと同時に、自分らしく就活を頑張ろうと喝を入れてもらった。
また千秋楽のMCで安本は、エビ中の変わらない魅力は”変わり続けることをやめない”ことだと述べた。そして、「今の私立恵比寿中学が最強だと言い続けたいと思います。私たちはさいたまスーパーアリーナに立つまで、絶対負けない!」と声を張った。そんな彼女からは、長年で様々な経験を積み重ねきた自信と、グループの中心として引っ張っていく覚悟、そして責任感が滲み出ていた。
またこれまで彼女の生誕ソロLIVEは、都合が付かずに行けていなかったが、ようやく今年は念願叶って神奈川公演に行くことができた。本当は大阪公演も行く予定で4列目が当選していたが、就活が最終フェーズに差し掛かっていて断念せざるを得ず、リセールでチケットを手放した。生誕ソロLIVEはそれぞれのキャラや性格がセットリストや演出に顕著に出る中で、彼女は自身で手がけたオリジナルソングを多く披露した。彼女が制作する曲は着飾った単語や回りくどい比喩がなく、いい意味で素直でまっすぐな歌詞が多い。それが脆さや弱さを隠しながらも、屈強さや根底に眠る反骨心を持つ彼女らしいと思う。またMCでは、彼女の隠していた胸の内を聞くことができた。
自分に自信が無くてすぐ不安に駆られる所は、推しながらずっと自分に重ねていた部分だった。それでも不格好に踠きながらも懸命に進み続けて、現在は自分の意思も大切にしながら堂々とステージ立っている彼女の屈強さに感化されていた。そしてこれからも彼女の愚直に努力する姿を応援し続けながら、自分もそう在れるように努めてきたいと思っている。また推しと同じくらいの素直さで彼女のメッセージを受け取った私は、LIVE後に中学生の頃からやりたいと思って手を出していなかったアコギを始め、一眼レフを本格的に学ぶ決心をした。
ボイジャー
〜私立恵比寿中学の現在と魅力について〜
私立恵比寿中学は、現在進行形で再構築をしているグループである。新体制となった今、新たにこれからのエビ中として長く歌える楽曲を模索している段階なのであろう。
10人体制になってから発表された楽曲は、TikTokでバズらせたい欲が露骨に出ていると感じる。それをプロモーション戦略として前向きに捉えるか否かは、賛否両論がありそうだ。実際にファミえんに合わせて解禁された『Summer Glitter』では、既存のエビ中ファミリー(エビ中のファンの総称)と外部のアイドルファン間で楽曲に対する反応が拮抗した。Twitterでは、普段エビ中に触れていない人から評価されたツイートの反響が大きかった。同時に楽曲としても、最近のアイドルソングにある「TikTokでバズったものを参考にした手法」や「K-POPをなんとか真似してみた曲」とは一線を画していると絶賛されていた。エビ中は自らの歌唱スキルを発揮させた上で、現代的な感性にリンクしつつも、和製アイドル楽曲の独自進化を見せつけるような意欲作を生み出していた。その一方で既存のエビ中ファミリーからは、ガニ股で変わった曲調の元気な歌を歌う過去のエビ中を懐疑する人も見られた。
運営が売れるために変化を求めているのは、今のエビ中のフェーズから見ても疑問を抱くことではない。しかし現代との親和性を高めて大きな化学反応を出すことに対して必死に見えるのは、過去にTikTokとエビ中の相性がいいことが証明されているからだろう。2020年夏頃からは「仮契約のシンデレラ」がバズり、エビ中の楽曲がアイドルファン以外の層にまで届いたのはほぼ初めてのことだった。次に新元号「令和」の由来と言われる「梅の歌」として、2012年発売のシングル「梅」がバズった。どちらも意図した結果ではないと同時に予期せぬ出来事だった故に、湧き出たオアシスの恩恵を享受することができなかった。その挽回をすべく、4年振りとなるCDシングル『kyo-do?』は、TikTokで大ヒットした可愛らしい楽曲に定評のあるヤマモトショウさんの提供で、ダンスも踊りの真似しやすさが追求されている。
ここまで楽曲を中心に魅力を語ってきたが、私立恵比寿中学はライブパフォーマンスの完成度の高さも、アイドル界でトップクラスを誇っている。初期メンバーのほとんどはダンス未経験者で、基礎が入っているのは柏木くらいだった。またオーディションの末に選ばれた年少メンバーも、単純にダンス力や歌唱力が重視された訳ではないことは、Youtubeにて配信されたオーディション合宿を見れば分かる。しかし、「表現力が技術を圧倒的に追い越している。技術のあるダンサーでも表現がなかなか身につかず苦労するものなのに、そこが逆転しているのだ。」と振付師は語っていた。アイドル界でダンスの基礎がしっかりできているパフォーマンス軍団といえば”ハロー!プロジェクト”の面々だが、そんな彼女たちが、2020年3月放送の音楽番組『Love music』にて「ハロプロ以外の最強のアイドル」の1位に選んでいるのが、私立恵比寿中学なのである。
ここで改めて、エビ中のメンバー変遷について改めて整理する。
冒頭でも触れたが、私立恵比寿中学は、アイドルグループとしてはかなり長い14年という活動期間で、メンバーの転入や卒業が目まぐるしく、人数が一定する期間がほとんどなくここまでやってきた。メンバーの数が一定しないということは、その都度、フォーメーションだけでなく、歌割り、立ち位置番号、時には振り付けそのものが変わることもある。一度体で記憶したものをアップデートするのは、新しい振り付けを覚えるよりも大変だというアイドルは多いそうだ。つまり何度も大小の修正を繰り返し、体制をその都度新たに組み立てながら、彼女達は14年間も走り続けているのだ。相当な体力と気力がなければ、乗り越えられないものだっただろう。それを経て彼女達は、現在の強靭なパフォーマンスに辿り着いたのだ。
メンバー変遷の事情で行われてきた再編成は、グループとしての可能性を広げるトリガーともなっていた。どの時代もその時に在籍していたメンバーの個性が集結し、グループとしてそれぞれ違ったカラーを持っていた。それぞれの個性が強い既存メンバーに、また違った個性の原石を秘めた新メンバーがグループに集約されることで、化学反応を誘発させるのだ。アイドルグループといえば、「センター」や「エース」と呼ばれるメンバーが固定され、楽曲とパフォーマンスを構成していくことが一般的である。しかし歌唱力の平均値が高いエビ中にはそれが当てはまらず、それぞれの楽曲に世界観に合ったメンバーがフューチャーされるのだ。パートも比較的に満遍なく振り分けられており、メンバーそれぞれに見せ場がある。それぞれ異なる趣を持つ10人のメンバーとバラエティに富んだ楽曲の掛け算が、私立恵比寿中学の魅力であると感じる。
そもそも私立恵比寿中学の方向性は、良くも悪くも緩くて曖昧だった。そうやって落ち着きなく動き続ける思春期性と、パフォーマンス面での成長や楽曲面での深化を続けるグループの歩み、その乖離こそがエビ中の面白さと言える。おふざけしている中にも少し憂いを含んでいるような、その儚い少女性も惹きつけられる魅力の1つだろう。私立恵比寿中学は、現在進行形で変化し続けている。キレのないダンスと不安定な歌唱力をコンセプトに掲げていた「永遠に中学生」たちは、いつの頃からか、私たちの感情を大きく揺さぶるグループへと変貌を遂げていった。
アイドル
〜おわりに〜
今年の夏は去年に引き続き、毎年夏恒例の野外ライブ”ファミえん”に行くことができた。エビ中が好きな子と山梨まで車で向かい、ほうとうも食べたりしながら満喫した。去年のファミえんで安本彩花は、演出でほぼ花道に出てくることがなかったため、体調面を考慮したのだろうと思ったのを覚えている。しかし今年は終始全開で踊っている上に、ステージを降りて客席の間に設置されたやぐらにまで動いていた。それがちょうど私がいる通路側に来て50cmくらいの距離で彼女を見れたことで、完全復活したんだと改めて感じて嬉しくなった。
エモーショナルなLIVEパフォーマンス。自然と涙が溢れてくる歌声。全てを出し切るダンス。ごまかしが無いまっすぐさに励まさられる。全力って素晴らしい。美しささえ感じる感情の爆発。残された映像、LIVEでの歌声、全ての瞬間に嘘が無い。もはやジャンルを超えた、アーティストとしての地位を確立した私立恵比寿中学。メンバー間の確執、降りかかる試練、それぞれの葛藤、そして別れ。あの日あの瞬間、彼女たちは何を感じていたのか。そして、なぜここまで走り続けてきたのか。その背景を知ると尚、今この瞬間ステージに立っている彼女達を見ると込み上げてくるものがある。
アイドルは、愚直な努力が必要な職業である。彼女に出会った時は小学6年生だった私も、来年からは社会人になる。その10年間ずっと、彼女は幾多の困難に直面しながらも走り続けてきたのだ。何が成果として結びつくのかが不透明で、いつどこで売れるかは分からない。歌もダンスも、ただひたすら練習するしかない。とはいえ、歌とダンスが上手ければ、売れるという訳でもない。それでも、人生で最も鮮やかで一瞬の10.20代を全て捧げて、ステージに立っている。
「もう一度、“さいたまスーパーアリーナ”に立ちたい。」
今の私立恵比寿中学が、この目標を掲げているのがどれほど凄いことか。それをどうしても伝えたくて、私はこの17000字にも及ぶnoteを書こうと思った。
アイドルは、ただフリフリの衣装を着て、キラキラした曲を歌って楽しそうにしている人間ではない。彼女達は1万人規模のライブを行っているプロのエンターテイナーであると同時に、その中身はまだ10.20代の女の子だ。これを読んで、1人でもアイドルの見方が変わった人が居たら嬉しい。
彼女達が、大切な時に口にする。
「最新の私立恵比寿中学が、最高の私立恵比寿中学」
その魂の鼓動を聴くために、私はこれからもLIVEに足を運ぶ。
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