⑨ 天使と悪魔

色々あって無事に通話できたものの、実を言うともう会話の内容がほとんど思い出せない…。

ただこの日から数日間のうちに、お互いの好きなタイプだとか、どんな服装が好きかとか、デートではどんな事がしたいかとか、とにかくいろんな事を話した。

好きな匂い
好きな映画
好きなこと
(ちょっとえっちな話)

とにかくたくさんの好きを教え合った。
この頃から僕はめらが話してくれた内容を忘れないようにメモに書いて残しておけるように、「めらメモ」を作り出した。好きなもの、嫌いなもの、考え方、したいこと。とにかくなんでもメモした。
おっと、なんだかストーカーじみてるが、この話は彼女と結婚するまでの健全なお話だから安心してほしい。今ではこのメモは「ゆきメモ」と名前を変えて日々の生活に活かされている。

そして実を言うと、この数日間で何度も
「あれ、この子ってもしかして俺の事好きなんじゃね…?」
と心の中の悪魔が囁いてきては、
「いや、落ち着け僕。まだ初めてちゃんと話してから数日間しか経ってないぞ。顔も名前も知らない女の子がお前を好きになる理由がどこにある?」
と心の中の辛辣な天使が反論をしていた。

「だって、めらが言う好きなタイプとかにちょっと不自然なくらい俺の事当てはまるし…めちゃめちゃイケボが好きって言ってくる上に俺のことイケボイケボって褒めてくるんだよ…!?もう俺の事好きでしょ!?」
「バカ。イケボが好きなんであってお前のことが好きなんではない。神様から授かった声帯に感謝しろ。いいか? 思い違いだ。まだ早まるんじゃないぞ。」

もうどっちが悪魔でどっちが天使なのかわからなくなってきた。ピュアな悪魔がかわいい。一方の天使が辛辣すぎる。

さて、この日からの数日間と書いたが、実はこの数日間の間毎日通話できていたわけではなく、一日だけ通話しない日があった。

彼女曰く恋の駆け引き的な意味合いもちょっとあったらしい。YUIの『CHE.R.RY』を思い出す。「返事はすぐにしちゃダメだって、誰かに聞いたことあるけど、かけひきなんてできないの。好きなのよ…ah ah ah ah」
残念ながら(?)彼女はかけひきができるタイプの女の子だったようだ。うん、なんとなく気付いてた……。

で、まだたったの2〜3日しか話してないのに、俺はこの空白の一日、完全にめらのことが気になって気になって仕方がなかった。
「今日は通話できないのか……そうだよな……たまたま最近ちょっと仲良くなってよく喋るようになったけど、別にそれだけだもんな……。毎日通話する方がむしろおかしいよね……。うん、そうだよ、知ってた……あぁ、すごく楽しかったなぁ……死のう……」
「……悪魔……」
僕の中の天使ちゃんもかける言葉が出てこない悪魔の落ち込みっぷり。

結局、この日めらからのアクションはなかった。

僕は心底寂しく、心の中の悪魔を抱き締めながら眠りについた。


翌日

「お前から声かけないでどうすんだよ。話したいんだったら話しかけろよ。今日も通話したいって言えよバカヤロウ!」
と僕の心の中の天使が声を荒げた。
返す言葉もなかった。そうだ、今までは全部めらから誘われてた。僕は完全に受け身だった。なんて情けない人間だ。
天使ちゃんの言葉は辛辣だったが、これ以上なく僕の心を鼓舞してくれた。背中を押してくれた。口は悪いけど、そういえばこれでも天使だった。

「めらちん、今日一緒に遊ぼう!通話したい!」

その日からは毎日、僕から通話に誘うようになった。
やっぱりなにを話したのかは記憶が曖昧だけれど、とても楽しくて幸せだった事は覚えている。


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