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【創作小説】春夏秋冬。一話。


『僕は、図書館から急いで走り逃げ出す。
「何だあれは。何だあれは。」

 図書館から出た瞬間、いいや、

「あの小説に触れたときから」?
 視界が『食らわれた』のだ。

 信じがたい。
 僕は頭でもおかしくしてしまったのだろうか?

 息を切らして雨の中、走り続ける。
 息が切れて、息が、胸が、裂けそうだ。
 背後からは、獣の唸り声と女の笑い声が重なったような音がする。
 さきほどから近づいてきているわけではない。
 すでに「耳元近くに、居るよう」なのだ。

 その声から、かすかに聞き取れた言葉は、
「おまえらが、おれを、殺したのだろう」

 僕はただ逃げる。「此れ」に囚われてしまう前に。』

「作家」と「物語」は剥離し、親と子のよう。
 または「物語」が人と人を渡り、違うものへと独り歩いた「怪談」となったものは、
 生み出した作家に関係がない。
 なぜならば、作家は人であり、寿命で死んでいく。
 だが、残された物語に終わりはない。物語は不死である。

 人が死に、また生まれを繰り返すそのさなか、
 誰かの言葉や解釈で歪み伝わり続けていく「物語」もあるのだ。

 人が語り継げば継ぐほど「悪」にされたその怪物は、
 どこか、悲しそうであった。

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