【創作小説】春夏秋冬。三話。
「触れたい」
それだけだった。
図書館に着き、昨日見た、あの本棚へ向かう。
本棚の壁を迷うように奥へ歩き出す。薄暗い場所に置いてある本棚。
確か、此処を曲がった所に。
すると、体が凍る感覚に陥った。
僕の目の前には、
周りの本棚よりも背の高い、口元には、まるで血肉を喰らったかのような紅。白く破れた着物に、長い髪。
その髪は、男を誘惑するように見える。それは、
『確実に人ではない何か』の姿だった。
・・・・・・
しかし僕は、不思議と安心した。
あの本に出てきた、僕が恋した本の
『物語を語り継がれ。最悪と描かれた怪物』だったからである。
・・・・・・
「あなたは、」
「貴方は、私を許してくれますか?」
初めて話したその『怪物』は、
とても優しい声をしていた。
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