【小説】タピオカジュースのおねえさん 2401字【ショートショート】

僕が肝試しになんて行ってしまったのは、たぶんさみしかったからだ。
何をいっているのかわからないかもしれないけれど、その埋め合わせは僕自身がきっとするはめになるだろう。
まずはその一歩目として。
もう危ないことはしない、人に迷惑をかけるようなスリルは求めない。
それでも生きてるだけでこれからもみんなに迷惑かけっぱなしの僕なんだろう。

「……」
待ち合わせの場所にそのおねえさんは立っていた。
今日はすこし暑くて、あんまり屋外を歩いているとそれだけで頭(あたま)痛くなっちゃいそうだななんてちいさな鬱に浸りながら駅のホームからここまで歩いてきた。
埋め合わせとは言われたけれど、そもそも僕はあまり人と会いたくないしというか喋りたくないしなんなら関わりたくない、なんて考えながら生きているうちに恋人の一人もいない生活に陥ってしまった、いや恋人は一人いたら良い。
だから目前にいるヒールですこし背の高くなった女性に声をかけることにも一定以上に躊躇(ちゅうちょ、ためらうこと)があったのだけれど、ここまで来て帰るわけにもいかない、そこまで小心者でもない、小心なほうがまだましだったのだろうけれど。
「あの」
斜め前から声をかける僕のことを、斜め前から彼女は見上げる。
「……あ、すいません、いや、なんていうか」
彼女はなにも謝ることは無いのだけれど、いや厳密にはあるのだけれど。
「……」
髪が汗で額に張り付いている。
こんな美人でも、そりゃ暑いもんは暑いもんな、手に持ったジュースもまだ半分くらい残ってるけれど彼女と同じように汗をかいていた。
「あっ、これ、そこで買ったんです、飲みます?」
間違えた、貴方の分もその、奢ります、いやご馳走しますので、買いませんか?なんてたどたどしく問われる。
こんな美人と夜道であったら緊張とかするんだろうなと僕は思いながらも、それ以上に目の前で戸惑っている彼女をみていると、なんだか落ち着いてしまって、なんとかしなきゃなのかな?なんて意識したころには、結局僕もすこし緊張しはじめてしまうんだった。
「じゃあジュースは僕も買います」
それ何味ですか?ってあんまり興味の無い話題を振りながら、購入の列に並ぶ。
「今日、暑いですね」
「そうですね、そういえばこのあとどこにいきますか?」
「……」
彼女は自分のジュースを啜っていた。
あれ、もう飲み切っちゃったのか、……。
「えっと、趣味とかありますか?」
どうだろう、もしまともな趣味があったらあんな暗いトンネルに暇を潰しになど行かなかったのかもしれないけれど、むしろまともじゃない趣味してたからああなったのか。
「本読んだり、音楽聴いたり」
ゲームしたり、映画見たり、浅く広く普通の好みを伝える、ああでも映画観には行きたくないな、暗いし。
「だったら映画なんて」
「嫌です」
即答だ。
間の悪さが居心地の悪い間を作り出す。
この人でも屋内じゃないと、せっかくのこのなまっちろい肌がおびやかされてしまうかもしれない、だったら最悪映画館でもいいか。
「えっと、えっと」
おろおろされて僕も困るので助け舟を出す。
「映画ってなにをみるんですか」
彼女の口からホラー映画のタイトルが出てきたので、僕は内心で彼女にツッコミを入れた、なんでやねん。
「ホラー好きなんですか」
質問ばかりなってしまうが、問わずにはいられないだろう、こればかりは。
「怖いので苦手です」
だったらみなくていいじゃん、なにちょっと照れてるのよ、かわいいのに余計に可愛くなってるじゃない、余計じゃない。
「だったらコメディにしません?」
「あれはある意味怖いです」
「ん」
確かに、僕もそれには同感だった。

「オレンジのタピオカのお願いします」
続けて僕は隣のおねえさんの顔色をうかがう。
「ん?」
えっ、僕これ一人で飲みあるくの?ちょっと恥ずかしく……そうでもないか、おいしそうだし。
「以上でお願いします」
タピオカオレンジのみの注文ですね、なんてレジの店員さんに言われながら、おねえさんが僕の肩をつつく。
「焼きりんごみるふぃふぃゆ」
噛んだ。
……。
「……すいません、追加で焼きりんごミルフィーユのクレープも1つお願いします」
かしこまりましたと、なんか店員さんちょっと笑いながらオーダーをとるんだけれど、そんな微笑ましさを当事者の僕は感じられずに時間は過ぎ去っていく。
映画館までの道すがら買い食いをしながらおねえさんと二人で歩みを進める。
「クレープ好きなんですか?」
「んー、リンゴが」
涼しい顔で口のまわりになんか甘そうなのたくさん付いてますおねえさん。
「あっ、食べます?一口」
いやさすがにここから一口もらう人いないでしょ。
「代わりにジュースもらうんで」
止める間もなく僕のオレンジを彼女は啜った。
…………いや、今日はほんと、暑いな。

クレープの味の感想を話したりしながら、結局僕らはカラオケに入った。
結局薄暗いところを選んでしまう。
僕も何か期待しているのだろうか、自分でも自分のそんなところがわからない。


タピオカのねーちゃんなんて言うと彼女はイヤそうな顔をしたから。
「タピオカのおねえさん」
と言い直したら、なんかうれしそうに手なんか握ってきて、そんで結局はずかしくなったのかまたすこし離れていって。
「おねえさん呼びだとなんでいいの?」
「おねえさんはおねえさんですから」
こんなこという人があんなことするなよ、なんて真顔の僕が首を出しそうにするがまあまあまあいいじゃないかと心の中の僕もまた僕をなだめる、ほだされやがって僕め。
「おねえさんは友達いますか?」
「いないよ」
なにがたのしいのかわからないが、彼女はまた笑いながら僕の手を握った。

なんで友達がいないのだろうか。
いつからいなくなった、最初からいなかったのか、愛1つあれば僕らは満たされるのだろうか、そんなの誰も答えなんかもってやしないのかもしれないが、彼女はそれでいいと、僕に言う。
その日僕はおねえさんと友達になった。