小説 「幸福にいきよう、や」

「そういうの、……言葉にしちゃうところが、デリカシーないよね、君は」
彼女はそう言って笑った。

寒い、部屋におっても体が冷えてきて集中できんくなってくるこの時期。
布団に包まっとる時間が、あれこれ妙に時間もったいなくないか?なんて思い始めて、部屋ん中やけどもう一枚服を羽織って活動をはじめる。
水道で水で手を洗う、なんで?って思うかもしれんけど、お湯で洗うとな、すーぐ肌荒れ起こすんよ、乾燥するんかな、だから仮にお湯ですこしは洗ったとしても、水も使う、顔は洗うならもうシャワーで温かいの浴びるわ、……そっちはあんまり肌荒れとか感じんのやけれど、なんでやろな?まあええか。

最近はゲームが楽しい、これが心境の変化ってやつなんかな、結局自分が楽しい気持ちになれるときが、物事を楽しめるときなのかもしれない、……まだ若いうちからこんなこと考えてても説得力ないか、うん。
んー、…………たまには彼女をデートに誘ってみよおかな、迷惑かな、まあええか、僕が嫌な思いするぶんにはええわ。

「外寒いな」
横で歩く小さいこに話しかける。
「そうだね」
心なしか、元気がなさそうな気がして、聴いてた僕は目を細めた。
「なんか食べたいもんある?」
「んー」
思案する彼女、提案する僕。
「あったかいのと冷たいの」
「普段の、君?」
なんでや、僕は内心笑う。
「じゃああったかいのやな」
彼女の手を握る。
「あったかい」
言った彼女の手は、僕よりは冷たかった。
「回転寿司のうどんてなんであんなに美味しいんやろな」
「ギャップじゃないかな」
「冷たいもの食べて、あったかい思いするからか」
食事も二面性なんか、……なんか意識しすぎると、そういうのも寒いな、言わんけど。
「お寿司食べたいの?」
下から彼女の視線を感じる。
「まあまあかな、食べたい?」
お寿司、と僕は聞き返す。
「どちらかというと、うどんかな」
「エビ、うまいもんなあ」
「そうだね」
的はずれな、別の的に向けた会話に彼女は付き合いながら、二人で駅まで歩いた。

紙ってすぐに折り目つくよな、しかもついた折り目は直らんし、人の心みたいやな、その折り目とも折り合いつけて生きていくしかない、傷ついたら、その傷も愛するぐらいの気持ち。こんなん口にはせんけどな。

時間戻るけどな、デート誘うのに電話したときの話。
「あー、もしもし」
「うん、おはよ」
「今、いい?」
「いいよ」
「ん、よかったら、でかけん?」
「どこに」
「近場かな」
「んー、どうしようかな」
「……いかへん?」
「なんとなく」
微妙、そか。
「いきたいな、いこうや」
「どうしても?」
彼女の声にすこしだけ元気な感じがした。
「どうしても」
無理はせんでもいいけど、と僕が言うと、なら行くと彼女が返事をする。

「なんやむりやり連れ出してもーてごめんな」
そんなことないよ、なんて言葉は返ってこんかった。
「自分が悪いことにして逃げると楽だもんね」
……めっちゃやなこと言うやん。
僕は楽しくもないのに内心笑ってしまう。
だって、本質突き過ぎ、普段から思ってるねんやろ、それ?ははっ、残酷過ぎん?そうでもないか……。

でもな
「キミのそういうとこも好きやで」
嘘やない。

「……酷いことゆーね」
「そやなぁ、でも本音やし」
建前とか、要るけどいらんやろ。
笑いたいときに笑ってほしいし、泣きたいときに泣けるようにしてやりたい、頭ええんやからそんな我慢なんかせんでええねん。
「皮肉ちゃうで」
「わたしのは皮肉だよ」
「そやろな」

冬はさ、すーぐ暗なるな。