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最強の味方

今更ながら成人式の話題を。

一般的に成人式そのものはどうでも良くて、その後の同窓会がメインイベントだという。
私もそうありたかったが、同窓会どころか成人式にも行きたくなかった。
何故なら小学生の頃、悪ガキだったからだ。

いじめられてもいないのに廊下に机を出されたことがある。
「廊下に立ってなさい!」というありがたいお言葉を完全に無視し、自由帳に落書きをしていたら「そんなことをするために机はあるんじゃありません!」とヒステリックなおばさん先生が叫び、机を廊下に運び出した。
やれやれという顔で私はイスに座ったまま、今度は膝を机に落書きし始める。
そうして教室からも叩き出されるのだ。
それでいてテストは100点だからクソ生意気だ。
何度「成績はテストの点で決まるわけじゃありません!」とどやされたろうか。
そんな敵が成人式なり同窓会なりに来ていたら、うざったいことこの上ない。
中学受験しているから同級生とも8年ぶりだし仲良いやつもさしていないしで全て無視するつもりだった。

が、母親が写真バカで「成人式の写真を撮りたいから行きなさい、行ったらお祝いをあげるから」とけしかける。
そうして嫌々ながら出席した。
周りを見渡す。
知ってる顔でも声変わりして知らない奴だ。
知ってる名前でも化粧をして知らない奴だ。
そして知らないフリをしたい奴らまでいる。

中学受験をした理由の一つが、進むはずの中学が荒れていることだった。
廊下を単車で走る奴、体育祭に単車で参加する奴、わざと遅刻してきてでかい音を単車で鳴らす奴。
結局この日そいつらは、羽織袴で大暴れ。
成人式の始まる前にホール前で酒を掛け合い、警察も来る大騒動。
一升瓶に樽まで持ってギャーギャーとやっている。
何やってんだか、と見ていたらその内の1人と目があった。
途端に目を逸らす。
そいつが見知った顔だったからだ。

小学生の悪ガキなんて可愛いもんで、学校にデジモンを持っていく、禁止されているシャーペンでテストに答える、嫌いな体育には参加しない、それくらいだった。
その頃親しくしていた同じく悪童がいた。
そいつは別クラスだったので、机ごと廊下に出されている俺をみて「また廊下で勉強してんのかよ」と笑った。
俺ほど目立つ行動もとっていなかったから、クラスのうるさいやつくらいの立ち位置だったと思う。
その頃の絶対権力者である先生に平気で口答えして廊下へ出される俺に一目置いていたようで、廊下で鉢合わせるとよく今日は何をしたのか聞かれた。
噂には聞いていた、そいつが地元を根城にする暴走族に入って日々爆走していると。
地元じゃ有名なその族で副総長をつとめていると。
俺は県外の進学校に進み、その頃のアホみたいな生活は棄て去っていいこちゃんとして暮らしていた。
8年前は俺の方が悪いやつだったが、今や逆転。
いかにもな輩に育ってしまったそいつとの邂逅。
俺はトイレに行くフリをしながらそそくさと逃げ出した。

そこで幸か不幸か昔好きだった女の子にばったり出会ってしまった。
そして誘われるままにその後の同窓会に出る約束まで。
そうして出かけていった居酒屋でそいつにまた出くわした。
ただ、なんとなく中学の頃のグループで固まりはじめ、そいつは輩組、俺は中学受験組で飲んでいる。
まあ多少の騒々しさはあるが、平穏に同窓会の和やかな時間は過ぎて行った。
俺はというとその子のアドレスをゲットできたのでほくほく顔だった。

幹事が会計する間のあの外でグダグダやってるあの瞬間ってなんかいいよね。
久しぶりの出会いの嬉しさと飲んだ開放感とそれが終わる悲しさと外のキュッと冷えた空気。
それが混ざった雰囲気に包まれていた俺の肩を叩く奴がいた。
当然そいつだ。
袴はレンタルだったからかもう着替えてきているが、完全にマイルドヤンキー系ファッションだ。
俺は何を言われるんだろうとビクビクしていた。

「よー、久しぶりだな〜、お前。今何やってんの?大学?お前が大学なんていってんのかよ笑 大統領にでもなるつもりかよ笑 今日全然話せなかったからさ、アドレス交換しようぜ。地元で絡まれたらいつでも連絡してよ。いつでも飛んで行くから」

そういって連絡先を交換するとそいつはまた別の奴のところへ行ってしまったのだった。
副総長でもヤンキーでも関係なく、そいつは結局そいつのままだったのだ。

今年はコロナで帰省できなかったが、今でも帰省するたび「何かあったらあいつが来てくれんだなぁ」と思うのである。


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