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ワクワクさんのにせもの

人生ではじめて会った芸能人はワクワクさんだった。

ちなみにゴロリは来てなかった。じゃじゃまる、ピッコロ、ゴーロリーってね(それはポロリ)。30代以上にしか伝わらないボケだ。つくってあそぼが終わって結構経つから、ワクワクさんすら知らない子も多いかもしれない。

小学生の頃、近くの県民ホールでワクワクさんの工作ショーみたいなのがあり、親と一緒に参加した。途中、「ワクワクさんの作業を手伝ってくれる人ー!?」という一般参加コーナーがあり、親に無理やり上げさせられた手が指名されて壇上へ登った。その時に握手もした覚えがある。

次に会った芸能人は市川新之助こと今の市川海老蔵。ワープステーション江戸という日光江戸村的施設が茨城にあり、時代劇の撮影なんかによく使われていた。俺が訪れた時もまさしく時代劇の撮影中。ちょうど大河ドラマの撮影で、市川新之助が来ていた。なにやら混み合ってるところを見てたら出待ち勢だったらしく、そこから大きな声が聞こえると坊主の人がその先を歩いており、それが市川新之助だった。

当時、俺はその様子を見て「初めて芸能人を見たー」と母に喋りかけた。すると「あんた昔にワクワクさんに会ってるじゃない」というのだ。それに対して俺が言ったセリフが衝撃的だった。

「あれはワクワクさんの偽物でしょ」

ショッピングセンターの催しにヒーローショーなんかがありますわな。後楽園遊園地で僕と握手的な(これももう死語か)。小さい頃は喜んでそういうのに参加していたものだが、高学年ともなるとそれが作り物だってことは承知している。ウルトラマンはウルトラマンじゃないし、セーラームーンはセーラームーンじゃないし、パンダはパンダじゃない。その延長線上で、ワクワクさんもワクワクさんじゃない。小学生の俺はそう判定を下していたようだ。さんざ母親に笑われたものだ。

だが実際、今になって考えれば本物か偽物かっていうのは結構難しい線引きだ。ディズニーランドでミッキーと写真撮るために数時間並んだりする。だが、本物のミッキーとはアニメのキャラクターで、着ぐるみではないだろう。だが、Dオタ達はこぞってグリーティングへ出向く。そのミッキーを本物だと思い込んでいるからだ。一方、ヒーローショーのヒーロー達は子供にとってはヒーローでも大人にとっては「暑い中お疲れ様です」の対象である。だが例え本物の俳優達の撮影現場を見たとて変身後のヒーローはスーツアクターがやっているわけで、むしろヒーローショーのヒーローは本物に近い。結局のところ、その受容者が本物だと思い込めるか否かにかかっている。

ディズニーランドでもシンデレラや白雪姫など生身のキャラクターたちもプリンセス然として振る舞い、またそれをありがたがっている。当然、ドレスを纏う人が変わっても同じドレスでさえあればシンデレラであるという認識を持つ。これがファンの強い媒体の力だ。ヒーローショーだとどうしても大人はファンでないことが多いので偽物だという意識を持ってしまう。その意識の差で偽物か本物かが決まってくる。

そういう意味では俺のワクワクさんはワクワクさんではなくなってしまうのだが、ワクワクさんは分体を持ち合わせていないから本物のワクワクさんだった。だが、シンデレラも複数いるのであれば、ワクワクさんだって複数居てもいいのではないか。角刈り、丸メガネ、赤帽子の3点さえ揃えばワクワクさんとして活動できるのではないだろうか。なんなら、歌が上手いの一点突破で「亜麻色の髪の乙女」の作曲者を名乗って出演料までもらえるのである。

ワクワクさんくらい有名で、かついい具合に忘れられてきていて、印象的なのがちょうど顔の特徴を隠せるものだなんて、完全に騙せる。水曜日のダウンタウンで検証して欲しいくらいだ。角刈り、丸メガネ、赤帽子の中年ワクワクさんだと言い張れば押し通せる説。いつかその三種の神器を持った培養ワクワクさんがあなたの街を訪れることもあるかもしれない。


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