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博物館めぐり~甲府にて~

久々に甲府へ行った。友人と長野方面へ旅行した帰りに寄り道したのだ。いくつか行ってみたい場所はあるが、友人と別れ、1人寄り道したので、ちょっとばかり博物館めぐりでも、そんな調子だ。といっても、山梨中央銀行金融資料館以外はほとんどノープラン。ゆるりとした旅だ。巡った場所のうち、博物館に注目しまとめておこう。山梨在住や休日に山梨へ行く際の何かヒントになれば幸いである。

①山梨中央銀行金融資料館

駅から徒歩10分強のところにある資料館だ。この資料館、入ろうにも少々わかりづらい。少し奥まったところに金融資料館が入るビルがあるのだが、看板が特に目立つわけでもなく、建物の合間に入口へ続く通路らしきものがあるに過ぎない。建物自体も銀行の研修センターがメインのようで、入り口は一般的なオフィスビルと何ら変わりがない。

建物へ入ってみると、守衛の方から目的を聞かれたので、資料館の見学目的であることを告げると、中から女性が出てきて、コロナ対策のためのちょっとしたアンケート、さらには資料館そのものの活動へのアンケートを受けるように言われた。後者に対しては回答するタイミングに疑問を抱きつつも、回答する。なにより、この資料館は入館料無料だ。入館手続きが多少面倒でも、そこはご愛敬。その「儀式」が終わると、資料館の概要について簡単な説明をしてくださった。非常に物腰の柔らかい方である。

資料館の中には国内で鋳造された貨幣が多数展示されているだけでなく、2,3000年前の中国で使われていたものまで展示されていた。古代から現代までに発行された貨幣・紙幣を見学していると、「国立第十銀行」が発行したお金が展示されていた。どうも日本銀行が中央銀行として設立されるまでの間は、国立銀行が発行主体になることがあったらしい。どのようなメカニズムで発行していた(中央政府からの発行要請でもあったのだろうか)のかはよくわからなかったが、そういう歴史があるらしい。そして、この国立第十銀行が山梨中央銀行につながるのである。

入館料無料で見学できるにもかかわらず、その内容は充実していた。しかも、常設で同じものを展示し続けるのではなく、企画展も行っているということで、人を呼ぼうという姿勢を感じられる。また、幼い子でもわかるような平易な文章(しかもルビ付き)で説明がなされている資料があるなど、家族連れで行っても楽しめそうな空間であった。日銀の貨幣博物館とは異なり、山梨(甲斐武田氏)に注目した部分があるのも面白い。お金が好き、もしくは興味があるなら、行ってみる価値が大いにある、そんな施設だ。

②山梨県立文学館

車で10~15分ほど離れたところの公園内にある。文学館は山梨にゆかりのある人物のことが紹介されており、また美術館はミレーら自然主義の画家の作品が常設展示されている。行った日は文学館では芥川龍之介、美術館では動物彫刻のフランソワ・ポンポンの作品が特別展示されていた。メインターゲットは芥川である。芥川のことをあまり調べたことがない私からすると、芥川と山梨のつながりが全くもってイメージできなかったのである。

まずは文学館へ。甲府の宿に泊まっていると、260円で入れるらしい。ただでさえ入館料安い(330円)のに、さらに安くなるとは。とはいえ、見学する側からするとありがたい。実際に見学してみると、芥川だけでなく、樋口一葉、太宰治まで。つくづく無知なことを思い知らされる。

芥川は数回旅行で山梨を訪れたらしい。しかもそのうち1回は青梅街道横断旅、つまり柳沢峠越え。昔の人の旅と言えば「徒歩」が当然の選択肢ではあるものの、恐れ入る。いや、現代人が車(電車)移動に慣れすぎているのか…。

文学館には芥川、樋口だけでなく、多くの山梨にゆかりのある作家や俳人らの作品が展示されていた。中にはアクリル板に来歴や肖像が彫られている作家もあり、展示の仕方もユニークだ。透明なので読みにくいが、博物館のオーソドックスな展示手法の中にあっては、ある種のスタイリッシュさを感じさせる。

芥川を特集した特別展では山梨に限らず、国内や中国への旅がそれぞれ紹介されていた。そこで書かれた日記もあり、芥川自身が受けた感覚を追体験できる。常設展(といっても、季節ごとに展示内容は変わるらしい)でも芥川が多くの作家との交流した記録や彼らへの評価が展示されていた。青年期からの旅や交流は当然、作品に反映されている。こういうものを知ってから改めて芥川の作品を読むと、また違った経験を得られるだろう。私は「羅生門」「鼻」「糸」くらいしか読んだことがないのだから、この学びの前後での違いを体験できはしないだろう。だが、改めて芥川に対して興味を持つ、そんな機会になった。

もし、芥川のことを知ってみたいと思うなら、今はこの文学館に行くのがベターだろう、そんな感じを抱かせる場所であった。

③山梨県立美術館

文学館のすぐ目の前にあり、ちょうど、ゴールデンウィーク中は両方を訪れると景品がもらえるという。甲府にくる機会もなかなかないので、こちらにも寄ってみた。ミレーやバルビゾン派の画家の作品が多く展示されていた。絵画は全くもってよくわからない世界ではあるものの、彼らの作品は写実的なだけでなく、その場の臨場感を感じさせる。臨場感は印象派や立体派(キュビズム)、超現実主義(シュールレアリスム)の作品とは大きく異なる感覚のように思われる。彼らの作品にも訴えかけてくるものはあるのだが、その場に居合わせたかのような感覚や、同じような場面を実生活で追体験するような局面にはなかなか巡り合えない。だが、彼らの作品は現代でもヨーロッパの田舎、いや、日本国内でも地方へ行けば似たような場所、場面に遭遇する機会がありそうなものもある。

芸術作品の見方は特に学んだこともないので、専門家の知見とは全く異なるだろう。だが、何も知らないところから、ある作品に出会い、その作品に描かれた情景を思い描いてみる、メッセージを読み解こうとしてみる。そこでは作者自身の来歴や専門知識は、ある種の「偏見」になってしまう。その偏見がある見方の方が、第三者との感覚を合わせやすいだろうが、新たな発見にはむずびつきにくい。全く知らない分野、全く知らない作者の作品をただ眺め、そこにある作品を見つめる。そこから得られる発見は、仮に他者と共有できなかったとしても、いつかどこかで実を結ぶかもしれない。妙な偶然の積み重ねが結果的に思いがけない結果をもたらすように。

今回、甲府で訪れた施設には関連性があまりない。だが、山梨のことを知る機会、そして、新たに知ったこともあった。また興味の範囲が広がったようにすら思える。これ以上広げてどうする?なんて友人には聞かれそうだが。とはいえ、面白そうに感じたら、まずはそこに飛び込んでみる、その方が最終的な結果に対しても、プラスの感覚を抱きやすいだろう。友人との旅路も含め、今回はまさにそのようなことの大切さを感じさせられるものであった。友人との旅路もまたいずれ、書く機会があれば書こうと思う。

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