見出し画像

"Mr. Irrelevant"―ドラフト最下位指名からの躍進―

"Mr. Irrelevant"、NFLのドラフト会議でその年の最後に指名された選手につけられるニックネームだ。当然ドラフト上位指名選手に比べると、知名度も期待度も低くなる。いい感じに成長してくれれば儲けもの、そのくらいの位置づけの選手といって良いだろう。もっとも、ドラフト会議で指名されるのは250人強なのだから、指名されるだけでも非常に名誉なことだ。

過去のMr. Irrelevantの選手を振り返っても、目覚ましい活躍をした選手は少ない。例外はキッカーのRyan Succop(ライアン・サカップ)であろう。2009年に指名され、10年以上一線級のキッカーとして活躍している。しかし、そもそもキッカーはほとんど下位指名だし、ドラフト外入団の選手も数多い。他のポジションとは違うので、Mr. Irrelevantといっても他のポジションとはかなり様相が異なる。他のポジションで長年活躍したMr. Irrelevantの選手はほぼ皆無である。

さて、今年のMr.IrrelevantはQBのBrock Purdy(ブロック・パーディー)、SFから指名された選手である。SFはここ数年プレーオフ進出の常連であり、今年も攻守のバランスが非常によく、スーパーボウル進出の可能性すら十分に期待できる優勝候補のあるチームだ。

本来、エースQBは若手超有望株のTrey Lance(トレイ・ランス)であり、控えはシーズン直前に契約更新をした"前エースQB"のJimmy Garoppolo(ジミー・ガロポロ)がいる。よほどのことがなければ、QBの交代はあり得ない。よって、第3QBのPurdyが割って入る余地はない「ハズ」であった。

しかし、シーズン開始して間もないWeek2にLanceがシーズン絶望となる怪我に見舞われた。Garoppoloがエースに返り咲いたが、今月骨折で離脱してしまった。怪我人続出の緊急事態により、Purdyがエースに昇格することとなったのだ。

急遽エースに昇格したとはいえ、出場経験がほとんどない。パスを投げたのはWeek7の9回のみ。そのようなQBに求められるのは、「無理しない」ことだ。無理なパスを投げてインターセプトでもされたら、たまったものではない。得点力が下がったとしても、ディフェンスの負担が増えたとしても、いかに安全に試合を進めるか、それが課題になる。

しかし、Purdyのプレーを見ると、その課題はあまり問題にならないようだ。これまで3試合先発出場し、全勝(新人QBが先発出場した試合で連勝するのは史上初)。Garoppoloが怪我した試合(試合開始直後に離脱)も含めれば4戦全勝だ。しかも、得点力も下がっていない。個人成績も、パス獲得ヤードは少ないものの、Passer ratingも先発全試合で110以上と素晴らしい成績を残している。文句のつけようのない活躍ぶりだ。

Purdyの活躍もあり、チームはプレーオフでの第3シード以上が確定した。Purdyの今後の活躍次第では、さらなる上位シードも視野に入る。まるで2001年のNE、Tom Brady(トム・ブレイディ)が出てきた時のようなシンデレラストーリーがこの先に用意されている雰囲気すら漂わせる活躍である(※)。
※Bradyは2000年ドラフト6巡目指名であった。2001年、当時NEのエースQBであったDrew Bredsoe(ドリュー・ブレッドソー)の怪我によって回ってきた先発出場のチャンスを逃さず、エースに昇格し、そのままチームをスーパーボウル制覇に導いた。

奇しくもPurdyが初めて先発出場した試合、相手の先発QBはBradyであった。もし、このままPurdyが先発のままスーパーボウル制覇まで導けるならば、まるで、神か何かがBradyの伝説をPurdyに引き継がせるべく、手の込んだ準備をしたかのようですらある。

ドラフト下位指名選手にもたらされるチャンスはドラフト上位指名選手に比べれば確実に少ない。しかし、ないことはない。その少ないチャンスをつかめるよう、準備を怠ってはならない。まさにそれを実感させるPurdyの活躍である。SEAファンとしてはSEAの躍進を観たい気持ちが強いが、それとは別にSFの躍進にも注目したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?