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わたしの日本語教師物語13~教科書作成プロジェクト!

産休明けて2年ほどたった2002年の秋から学内で使用する中級~上級の教科書を作るプロジェクトが始まりました。以前と比べて学生の国もタイプも多様化してきて、初級から中級へのブリッジ教材が必要になったこと。同様に中級からスムーズに上級に移行するためのブリッジも必要だと考えられたからでした。

メンバーは5人、長く一緒に中級を担当してきた非常勤の2人と私、そして専任講師2人のチームでした。内容は主に非常勤3人で考え、イラストや版下を作る作業を専任のお二人が担うという役割分担でした。中級1、中級2、上級1で使用する教科書を作るわけですが、この3冊に統一したコンセプトを作り、シラバスを考えていくことにしました。3人でたたき台を作ってから、中級、上級担当の先生にも入っていただきブレストを行いました。(結構厳しいことも言われましたねー)でも、実際に使うのは先生方なので、理解し、納得してもらわなければなりません。そうやって、まずシラバスをしっかり練ってから、内容を作る作業に入っていきました。

私たちが考えたコンセプトとは
①1冊で四技能が学べる教科書にする。
それまで中級というと読解や文法中心の教科書で、聴解、会話、作文などは副教材をプリントとして使うことが多かったのです。しかし、せっかく配ったプリントも学生によってはちゃんと整理せずにバラバラ、時には授業が終わるとゴミ箱の中に発見!なんてことも。では、それぞれの副教材本を買わせればよいかというと、それも学生の負担になります。できるだけ学生の負担を少なく、1冊で最低限必要な四技能を学べる本を作りたい!というのが私たちの思いでした。

②一つの課は大きなテーマでゆるく繋がっている。
中級と上級の教科書は少しスタイルが違うのですが、中級1と中級2は同じで、1つの課の中に、本文、語彙・表現、会話、文法、活動が必ずあり、課によって聴解の練習問題や留学試験の記述対策の作文や要約練習などを入れました。豆知識的なコラムも入れたかな。それぞれの課には大きなテーマがあります。例えば中級1の第1課は「紹介する」がテーマ。なので、故郷を紹介する文を読み、自己紹介したり、自分の故郷を紹介したり、自分の国の文化を紹介したり、で、それに必要な語彙、表現、文法を学び、お互いに紹介しあう会話ロールプレイをして、みたいなイメージです。
他に「意見を言う」だとか「食文化について知る」みたいなテーマもありました。意見文を書いてもらう時、「大人も電車で漫画を読むことをどう思うか」とか「男性が化粧をすることをどう思うか」なんてテーマを出したことがあったけど、今思うと時代を感じるわねー。「食文化」の課の活動は、お国の料理のレシピ集を作ることでした。みんながレシピを書いてくれたら私が実際に作るから分量と手順ちゃんと書いてよーと言って。実はその時学生が書いてくれた料理のレシピ、私今でも作っているんですよ。スウェーデンの学生のポテトのミルクグラタン、イランの学生の鶏肉のサフラン焼き、ペルーの学生のセビーチェも!

この本を使って本当にいろいろな活動をしました。グループで物語を作って発表したり、カルタを作ったり、架空の人物になりきってインタビューをしたり。とにかく学生が受動的に教師の説明を聞くだけの教科書にはしたくないという思いがありました。

上級の教科書の方は、大学や専門学校など上の学校に進んだ時に必要な力を身につけるということを主眼において作りました。中級と同じように課ごとにテーマはありましたが、スキャニングとスキミングだったり、記事を読んでまとめて発表したり、小論文を書いたりということを教科書の中に取り入れました。学期の終わりにグループでラジオドラマを作って発表するという活動も。こういう活動はやっぱり、日本語学校でしかできないなと思うので、日本語学校が懐かしくなることもあります。

③音読しやすい文章を
私達が考えたもう一つのコンセプトは音読です。もともとこの学校ではS子先生の教えもあって、音読を重視していましたし、斎藤孝さんの「声に出して読みたい日本語」や東北大学の川島教授の音読は脳を活性化させるという理論の影響もあり、学生には音読を勧めていました。しかし、それには音読しやすい文章でなければなりません。読解に使われる文章って声に出すことは考えられておらず、一文が長過ぎたりして音読には向いていないのです。それで教科書の本文は出来るだけ音読しやすいように文の長さや読点に配慮しました。自分達で読んでみて、あ、これはちょっと修飾部分が長くて読みにくいとかチェックしあいました。全ての本文と会話にはプロの声優さんに読んでもらった音声がついています。書き忘れましたが、中級1と中級2は私達3人の書き下ろし文です。一つだけK先生ご主人(新聞記者)の書き下ろしも。3人で分担して書いたのは、1人で書くとどうしても同じトーンになってしまうからです。様々なタイプの文章に触れてほしいという思いから、丁寧体、普通体、手紙文、日記、雑誌記事、インタビュー、物語などバリエーションを持たせました。

材料集めも分担して。私は函館の文章を書くために現地まで写真を撮りに行きました。それから、妖怪についての文章では河童を探しに牛久沼へも。(嘘です。牛久には小川芋銭の河童の碑があるのです)河童が祀られている水天宮にも行ったな。沖縄の自然について書いた文章は私が久米島で買ったヤンバルクイナの絵本がヒントになっています。他のメンバーも奈良まで行ったり、ロボットの研究者にインタビューに行ったり、みんな結構頑張った。そうやって素材を探しに行くのは楽しかったです。

上級はさすがに書き下ろしは難しいと思い、作家の方に外国人学習者が日本語学校で使う教科書ということで使用許可を頂きました。(お1人は今も活躍の有名作家です!Twitterをフォロー中)

④コミュニケーション重視、でもJLPT対策も
教科書は全体としてはコミュニケーションを重視しているのですが、学生にとってJ L P Tの合格も大切なことなので、N2までの文法項目は全て入れました。

こうやってチームで手塩にかけて作り上げた教科書なので、とても愛着はあるのですが、あくまで学内用なので、学校を離れている私はもう使うことはありません。それに、本音を言うと、紙の教科書には限界があると思っているんですよね。特に中上級用では時事的な内容も入ってきますし、例文に登場する名詞もどうしても古くなってしまいます。M Dプレーヤーなんて名詞も出してた!

なので、これから作るなら修正のしやすいデジタル教科書にするべきだと思っていますし、なんなら教科書は使わなくてもいいのかな、なんて思ってもいます。皆さんはどうお考えですか?
(でも、長々書いたこの文章が、これから学内用オリジナルテキストを作ろうと考えている方の参考になれば幸いです。今の方がずっと楽にテキストは作れると思います。また特定のジャンルのテキスト作成のご用命がありましたら、ぜひお願いいたします~)

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