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【漫画キングダム】 信の強さについて考えて見た。

「結果が全てじゃない」
「あなたらしさが大事」
「あなたはあなたのままでいい」



この世界には、今のままの自分を受け入れてくれる言葉がたくさんある。美しい世界観だし、そういった言葉に若い頃は何度も救われた。しかし現実は熾烈な競争だ。ブルーオーションもいつかは競合が誕生し、レッドオーションへと変わっていく。自分が競争に興味がなくても、競争は私たちに関心がある。競争からは逃げられない。

若い頃は資本主義を否定し、ビジョンを過大評価していた。日本とアメリカを比較してビジョンを持つことの大切さや、モチベーションを正当化したが、そもそもアメリカは実力主義をベースに作られた世界。実力主義の世界でビジョンを語ることと、実力主義を否定しながらビジョンを語ることの違いに気づけなかった自分が馬鹿だった。

そんな時に「キングダム」という漫画は、自分の価値観を見直す上で役立った。「戦争」という完全なる結果主義社会の価値観に触れ、勝つことの難しさ、勝つことの厳しさ、本質を見失うことの恐ろしさを改めて考える機会になったからだ。



信(しん)とは

信は漫画キングダムの主人公だ。戦争孤児の少年で下僕という低い身分から自らの腕で「天下の大将軍」となることを目指す。下僕から将軍にまで昇格する過程は心にぐっとくる何かがある。社会という熾烈な競争の中で失ってしまった大切なものを思い出すことができる。今回はそんな信の強さを自分なりに掘り下げて考えてみた。

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<信の強さ①> 邪念がないこと

若い頃の自分はメンタルが出来上がっていなかった。メンタルを所詮は精神論だと見下していた。しかし人生を見つめ直すと、悩みの9割以上は成果を出すための悩みじゃなく、メンタルの弱さから生まれる逃げの思考であることに気づいた。いかに自分が傷つかないか、面倒くさくないか、どうしたら他人に自分の素晴らしさを認めさせられるかで悩んでいた。

・こんなやり方じゃうまくいかない
・こんな言い方をされたらモチベーションが下がる
・こんな仕事はキャリアにならない
・もっと適正を見極めて仕事を任せるべきだ

こういった悩みのやっかいなところは、自分が天才占い師かのように未来を当てられることだ。そしてそれ以上にやっかいなのは、「活躍できないのはあなたのせいじゃない。職場の環境が問題なのだ」とSNSで共感者を集めることが目的のインフルエンサーたちに惑わされることだ。ビジョンや理念などの「組織としてあるべき理想の姿」を盾にして、目の前の成果と向き合わないことを正当化している自分がいることに気づくまで3年費やした。私は邪念の中で生き、同じように邪念の中で生きる誰かと共感し合うことで傷を舐め合うだけのクソみたいな時間を過ごしていた。

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勝利を何と定義するからは人それぞれだが、勝利に対して純粋に向き合うことは難しい。歳を重ねるごとに高度な言い訳を思いつくことができるようになるからだ。10代の頃は1つしか見つからなかった言い訳も、20代後半になれば100以上の言い訳を発見し、共感者まで現れる。


信の強さで最も尊敬しているのは、邪念がないことだ。どんなピンチでも勝つために何ができるかを考え、勝利に向かって行動し続ける強さがある。下記は魏が中華最強と自負する装甲戦車隊をしかけてきた時のシーンだ。

戦車隊


兵士たちは装甲戦車隊に苦戦し、「なんでこんなにやられているのに騎馬隊は援軍にこないのか? あいつらは自分たちのことを見捨てたのか? なぜ自分たちを見捨てたのか?」という勝利とは関係のないことばかりを考えていた。命がかかった場面で、考えてもしょうがないことに時間を投資する。これが弱さであり邪念だ。

信は「そんなもん最初から期待してんじゃねえよ。自分の生きる道は自分で切り開く。それだけだろ」と言って、勝つための行動を連続的に繰り返した。

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行動の先に失敗が見える時、
勝利が見えて行動したのに失敗してしまった時、

人間は弱いからこそ、成果を出すための思考(緑のドット線)から抜け出し邪念へと走ってしまう。その中で「PDCAが大事だ!!」と過去を振り返ったところで何の意味があるだろうか? 


強い人間がいるわけじゃない。
強くあろうとする人がいるだけだ。


この言葉の意味が、信の生き様をみて少しだけ理解できたような気がする。



②邪念の排除が生み出す利益

成功した人間の経歴を本当に際立たせているのは、驚くべき才能ではなく驚くべき好機である。著書「天才!成功する人々の法則」で、成功は「1万時間の努力」と「好機」によってもたらせることを、過去の多様で具体的な事例から解説されていてる。


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個人の偉業を理解するためには、努力や才能などの個人の視点から抜け出して、社会の文化や環境が与える影響を考慮する必要がある。例えば環境要因の具体例として、マタイ効果がある。マタイ効果とは「成功者には同年代の間で早く生まれた人々に多い」というもので、この効果が働く理由は「累積するアドバンテージ」だ。野球のプロに4月生まれが多い理由は、10歳以下・15歳以下、などの年齢で代表を区切る際に身体的なアドバンテージがあり、それによって優秀な選手と競う、優秀なコーチから学ぶ機会が生まれ、ここで手に入れたアドバンテージが、さらなるアドバンテージへと人を導いていく。

類まれなる努力を約10年、1万時間以上の時間をささげて、やっと一人の人間は天才になれる。そしてそのための努力をするには、家庭環境や偶然のチャンス、生まれた時代などの要素が関与してくる。


信の人生は奴隷からスタートした。幼い頃から友である漂(ひょう)と「天下の大将軍になる」という夢のため、お互いに剣の修行を行った。修行内容は単純明快で、延々と試合をするというもの。その試合の回数は1253戦。ただの稽古ではなく、昌文君(元武人)が驚くほどの激しい試合を1000戦以上繰り返した。「戦争ですべてを奪われたから、戦争ですべてを奪い返す」という目的のために、勝つために必要な努力を継続してきた。

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信の努力と、勝利に対する邪念なき心によって得たものは「出会い」だ。より優れた才能に多くの機会が与えられ、機会を与えられたものが成長し、また新たな機会を手に入れる。

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これは社会でも同じことが言えるのではないだろうか?

社内に優秀な先輩がいないと嘆く人間は多いが、そういう人に限って「なぜその会社に入社したのですか?」と問えば、「福利厚生が魅力的だったので」と勝利に全く関係ない回答をする。福利厚生が動機で入社した先に、優秀で魅力的な人間と仕事をする機会が得られる可能性は限りなく0に近いだろう。

よく考えて欲しい。もしあなたが優秀で魅力的な人間だとして、福利厚生や自分の立場を守ることが大事なんですという若手にわざわざ自分の貴重な時間を投資しようと思うだろうか? 優秀で魅力的な先輩と会える確率が高いのは、勝つために必死で努力している人間だけだ。邪念に取り憑かれた人間の元に現れるのは、同じように邪念に取り憑かれた人間と、本物っぽさを演じることに必死な偽物だけだ。



③出会いがもたらす動機の成長

いい出会いは、人の動機にも影響を与える。初期の信は「戦争ですべてを奪われたから、戦争ですべてを奪い返す」と、自分が勝つことだけを目的として戦っていた。これが当時の信の本心だったし、それ以外の全てのことは綺麗事でしかなかった。

しかし、彼は戦う過程で嬴政(えいせい)や王騎将軍といった本物と出会い、少しづつ考えが変わっていく。今まで見えなかったものが見えるようになり、今まで考えなかったことを考えるようになる。そしていつの間にか「なぜ戦うのか?」という動機まで変わっていく。

憧れる上司との出会いばかりではない。桓騎(かんき)という、自分より強いが真逆の価値観をもつ人間との出会いもあった。それでも彼は勝つことから逃げることなく戦い続け、その過程でなぜ戦うのか? について彼なりにたどり着いた言葉を仲間と共有した。何も素晴らしい出会いばかりが、人生に良い影響を与えるわけじゃない。


44巻 飛信隊の理想1

44巻 飛信隊の理想2


本当に大切なものは走る前でなく、走りながら見つかった。




「今あなたが本気で思えること」が本物の動機であり、それを無理矢理綺麗な言葉に並び替えて綺麗な偽物をつくる時間は無駄だ。

戦う過程の中で素晴らしい出会い、最悪な出会いがあり、素晴らしい機会、最悪の機会もある。その中で自分の弱さと向き合い、戦い続けることで「心から思うこと」に変化が生まれていく。動機は生き物であり、成長するのだ。クズみたいな今が永遠に続くわけじゃない。


頭からでる言葉ではなく、心からでる言葉に変化が生まれること。これが本当の成長であり、信の強さだ。頭の中でわかっていても、心が邪念で縛られることはたくさんある。


だから若い時は心でなくルールで自分を縛った。
自分の弱さを知っていたからだ。


弱さと向き合い、必死になって戦っていると、不思議なくらい素晴らしい機会(運)に恵まれるようになり、今まで薄っぺらい言葉で使っていた「誰かのためになりたい」という言葉に厚みが生まれるようになった。今の自分は信ほど強くないが、信のように強い人間でありたいと思う。

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