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ピッチの上のBlack Lives Matter 渡米直後のサッカー日本女子代表・籾木結花が見た光景:『スポーツの価値再考』#001【後編】

2020年夏、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第1回目の対談相手は、慶應義塾大学総合政策学部を卒業し、なでしこジャパンの10番を背負う籾木ニコル結花選手。
「世界一は目標ではなかったと気づいた」と語る、アメリカ挑戦中の彼女が見据える目標とは。そして、籾木流「スポーツの価値」とは。第1回対談の後編です。

▶第1回対談の前編はこちら

東京オリンピックの延期。それでも揺らがない信念

辻:今年は東京オリンピックが延期されて、女子W杯の日本招致もかなわなかったけど、それによって考え方が変わったりした?

籾木:私としてはオリンピックが無くなった今もこれまでと変わらない想いでいます。辻先生の「今、ここ、自分」という考え方にも通じますが、私にとって一番大切なのは日々成長し続けることです。大会の開催がどうなるかといったことは結局自分ではコントロールできないもので、そういったことに左右されず、今を積み重ねていくことでしか未来は生まれないと思っています。
ただ、今のこの年齢だから言えるという部分はありますね。引退を考える年齢だったらまた違う想いを抱いていたかもしれません。

辻:これまで人生のいろいろな場面で選択してきたと思うんだけど、それぞれの選択の目的を理解した上でブレないで行動するっていう考え方が身についているんだろうね。

安西:籾木さんの話を聞いていると、大きい決断を自分の意思でしてきているなという印象を受けます。それって当たり前のようで普通はなかなかできないことだと思うんです。
僕の周りの学生は小さい頃から勉強一筋な人が多くて、価値判断の尺度が通り一辺倒になりがちなんですよね。籾木さんはいろんな種類の尺度を持っているように感じるのですが、決断する時に意識されていることってありますか?

籾木:うーん、そうですね、「その選択によって自分が成長できるか」という軸があるように思います。
ベレーザに入団する時には「日本一のクラブで揉まれて成長したい」と思いそれに合った環境を求めていましたし、大学受験でSFCを選択した時も、学業や様々な面でレベルの高い環境に身を置くことでより一層自分が成長できると感じていました。
今年になってアメリカに移籍する際には、未知の世界に飛び込んで通用したら、きっと新しい環境に対する怖さも消えて人としても大きくなれるのかもしれないという思いもありました。

辻:その考え方自体も、選択における尺度を自分で認識できていることも、どちらもすごいと思うな。

安西:籾木さん自身は成長する時に非連続的な成長を目指しているように感じました。「想像できない環境に飛び込んだら、想像できないような成長ができるんじゃないか」という、良い意味で無鉄砲な。

籾木:確かにそうですね。私自身も話す中で気づいたのですが、「その選択の先により高いレベルの環境があるか」ということが軸になっているように思います。

安西:僕は大学でラクロス部のコーチをしているんですが、「自分の意思で決める」ということを最優先に学生に伝えていますね。たとえば、「バイトがあるからミーティングに参加できません」と言う学生がいる。でもそれって、「バイトを優先し、ミーティングに参加しない」という選択を自分の意思でしているだけなんですよね。自分の意思で選択していることを認識できていないと、いずれ大切なことを決めなきゃならないときに自分の意思で決められなくなる

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「世界一」は目標ではなかった

辻:今はアメリカでたくさんの経験をしているけど、将来はどんなことをしたいと思っているの?

籾木:今は興味の幅が広すぎてひとつに絞りきれないので、楽しみながら迷っています。
サッカーを通じての体験、大学での勉強、社会人になってからの出会い…。いろいろなことを経験するうちに、やりたいことの幅も広がって、規模もどんどん大きくなって、ますます絞りきれなくなっています。

でも興味の幅が広がっても、自分の幸せの軸ははっきりしていて。
自分の幸せについて考えるようになったきっかけはある取材でした。目標を聞かれて、それまではいつも「世界一」と答えていたのに、その時はどうもそうやって答える気になれなくて、「日々成長すること」と答えたんですね。どうしてその時「世界一」と答える気にならなかったのか振り返ってみると、実は「世界一」って自分の意思で決めた目標じゃないなって気づいて。自分の意思で決めて本気で信じている目標だったらいつでも答えられますもんね。
そのときから、「世界一」は私にとって目標ではなく手段なんだって考えるようになりました。

辻:人はみんな「この大会で優勝する」といった目標ばかりを考えがち。でも、結果だけで判断できる「目標」だけでなく、「なぜその目標を目指すのか」という「目的」こそが大切なんだよね。

安西:籾木さんはすごく深く思考しているという印象なのですが、思考するときに、何をきっかけに、どういうプロセスで考えているのかとても興味があります。

籾木:考えるきっかけになるのは、自分の心の動きですね。常に自分の心の動きに敏感でいることを大切にしています。「今」自分が何を思っているのか、何を考えているのかということに意識が向いていないと、自分の感情の動きに気づけないし、何を感じたかも見過ごしてしまいます。
プロセスとしては、気づいたことについて「why?」で深掘っていくことが多いですね。頭の中にしろ、紙に書くにしろ、「なぜ起きたのか」「なぜそう感じたのか」と、「なぜ」でどんどん自分自身に問いを投げかけていきます。
あとアウトプットすることも大切だと思っています。今日もなんですけど、取材などに回答していると、その回答の中に新しい考えのきっかけが生まれることも多くて。

辻:口にすることで気づくことはあるよね。話すってことは考えを形にする作業だし、そもそも整理されていないと話せないからね。

スポーツの価値は「問題提起のきっかけ」

辻:では最後の質問になるけど、籾木さんが考える「スポーツの価値」とはなんでしょう?

籾木:難しいですけど、言語化するとしたら「問題提起のきっかけ」になることだと思います。
スポーツの価値ってその時々の状況によって変わると思うんですね。同じような経験でも、年齢が違ったら受け取り方も大きく変わるし。でも、スポーツを通して経験できることってとても幅広くて、その経験を通じて自分なりの幸せを見つけて追い求める人が増えてほしいですし、そういった「スポーツの価値」をスポーツと関わりが少ない人にもどんどん届けていきたいと思います。

Black Lives Matterなどについて自分なりに考えるようになったのも、スポーツを通して社会の問題に出会ったからこそです。

辻:まさに「スポーツは社会の縮図」なんだよね。スポーツの中に課題が潜んでいて、スポーツを通してそれに気づく。そして気づいたことをスポーツを通して社会に還元するという循環が存在しているんだね。
籾木さん、貴重なお話ありがとうございました。


▼第1回対談の前編はこちらよりご覧ください。

プロフィール

籾木ニコル結花(もみき にこる ゆうか)
1996年ニューヨーク州生まれ。高校進学と同時に日テレ・ベレーザへ所属(#10)。なでしこリーグ4連覇をはじめ9つのタイトルを獲得。慶應義塾大学総合政策学部に進学後、2017年になでしこジャパンデビュー(#10)。2019年より株式会社Criacaoへ入社。2020年5月、アメリカプロサッカーリーグのOL Reignへ移籍(#21)。
Twitter:@nicole_m09
Instagram:@nicole10_official
note:@y_nicole_m
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009 


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