eSportsにおける選手批判に違和感を覚えている話

てんぱと申します。普段はゲーム関係のライターをしています。

以前書いた記事→VALORANTのチーム解散が相次ぐのはシーンの構造が悪いんじゃないかという話

今回はeSports、とりわけ私がメインで追っているVALORANTについて、「選手批判」というセンシティブな話題について書きます。
ただタイトルに「違和感」とあるように、すっきりした話にはならず、長くなります。読んでいただけると幸いです。

この記事では「競技シーンそのものの問題点」と「eSportsの問題点」に分け、検討していきます。

0.プロ選手への誹謗中傷

プロ選手に対する誹謗中傷はリアルスポーツでここ最近問題となっており、eSportsも例外ではありません。

氷山の一角ではありますが、具体例を挙げるとFENNELのSyouTa選手が、出自を背景に中傷されたケースがあります。(中国から日本へ国籍を変えたことに関し、人気チームに勝利した直後に誹謗中傷が届く)これに関しては議論の余地なくアウトです。

他にも人気チームを倒して世界大会出場を決めた選手に対し、誹謗中傷が届いたケースも確認されています。

繰り返しますが、誹謗中傷は論外です。この文章では「批判」がどこまで正当性を持つのか、という話を扱っています。

1.競技シーンそのものの問題点

① 「プロは批判されるのが当たり前」なのか?

選手批判の際、よく言われているのが「プロなのだから批判されて当たり前」という論調です。もちろん過度な批判は許されないという前提ではありますが、私もこの主張には一理あると思っています。

ある程度の想像を含みますが、「ゲームの上位勢」を見ていると、ランク(実力)=偉さという風潮があります。読んでいる方も、部活などで実力がヒエラルキーに繋がる状況は経験してきたでしょう。「で、お前のランクは?」という言葉が、実力が無い人の発言を封じこめてきました。

しかしプロシーンが誕生すると、「視聴者」の地位が自動的に上昇します

たとえば野球やサッカーでは、プロ選手に対してヤジやブーイングが飛ぶこともあります。そうして選手を批判する人々は、選手に求められているプレイをこなすことはできません。いわゆる「エアプ」の批判を、プロはある程度受け入れなければならないのです。

なぜ、それが許されるのか。答えは、プロにとっては「プレイすること」が観客にとっての「サービス」になるからです。お金と時間をかけたにも関わらず、満足できるようなプレイ=エンタメが提供されなかった。それに対してファンは怒りを露にし、選手は「来てくれた人に対して申し訳ない」と謝罪するわけです。もしファンがたまの休みにスタジアムへ行くことを選んでくれたとしたら…その気持ちを、プロはくみ取らなければならないということになっています。

ではeSportsはどうか?ここに、私の引っかかる部分があります。eSportsの試合はほとんどがオンラインで行われ、観客はお金をかけることがありません。時間に関しても移動は無く、つまらないと感じれば見なければいい(他のエンタメを探せばいい)だけの話です。オフラインの場合は別ですが、リアルスポーツとの違いを挙げるとすれば、チケット代はゲーム会社に行くため、チームや選手にとって直接の利益は少なくなっています。

もちろん、ファンあってのスポーツです。ファンがいなければ競技シーンは成立しません。しかしオンライン形式では「愛ゆえの批判」なのか、「嫌がらせの批判」なのか、見分けがつきません。そして、リアルスポーツでプレイヤー側が批判を受け入れる理由となった「時間」と「お金」の両方について、eSportsにおいてはそこまで必要とされません。選手側が「申し訳ない」と思う理由が、弱くなっているのです。

ちょっと待ってくれ、私はチームのグッズなどをこんなに買っている、だから批判する権利があるという理屈も、私が言及してきたことをもとにすれば成り立ちます。「お金を払えば批判できる」という理屈に違和感はあるのですが、そもそもネット上の観戦であるため、「お金をかけた」ことをリアルで証明するのは難しいでしょう。さらに言えば、現状の競技シーンはグッズなどを多く買う人はかなり盲信的に(言葉は悪いですが)チームを応援しているイメージがあります。

長くなりましたが、「選手を批判する大義名分はどこにあるのか?」というのが私の持つ疑問です。

②  控え選手の不在

冷静に考えると、チームとしての動きが求められる競技において、控えが存在しないというのは異常です。多くのeSportにおいて、チームはロスターを固定しています。

これは致し方ないことではあります。たとえばVALORANTでは練度が重要なため、6人以上を試合に出したチームの多くは結果を残せませんでした。

しかし一方で、「控えがいない」ことは、「選手が批判から逃げられない」ことを意味します。これは③とも関係するのですが、リアルスポーツにおいてチームが勝てないとき、もちろん選手にも批判は集まりますが、その選手を起用する首脳陣も批判されます。よっぽどの高給取りでない限り、「その選手を起用するチームが悪い」という方向に落ち着くわけです。

しかしeSportsでは、選手個人に批判が集まりがちです。1年間メンバーが変わることなく、特定の選手が批判され続けることもあります。メンタルへのダメージは、リアルスポーツに比べてもかなり重くなることは想像に難くありません。その負担が軽くみられているのではないか、というのが私の主張です。

③ コーチ・オーナーの責任が不明確

②では、eSportsにおいて選手に批判が集まりがちな点を指摘しました。その一方で、コーチなどチームの責任は不明確なように感じられます。

チームが上手くいかない理由は選手にあるのではなく、コーチの構想が上手くいかなかった可能性はないか。そもそも、その選手たちを集めたコーチ陣の責任はないのか。コーチを任命したチーム側に問題はなかったのか。

上記で挙げた要素は、多くのチームで情報が明らかになりません。"ブラックボックス"といってもいいでしょう。さらに踏み込んだ話をするならば、日本ではまだまだコーチが不足しており、チーム側がコーチの能力をどれだけ見抜いて起用しているのか、とりあえず任命してはいないか、疑問が残ります。

たとえばFNATICのVALORANT部門では、ロスター変更においてその狙いをHP上で説明しました。この狙いが上手くいかなければ、コーチの責任を問うことになるでしょう。

戦術面に関することはいかなるものでも公開しない、という風潮が日本シーンにはあるように感じられます。競争が激しいのは分かりますが、このままでは評価も何もあったものではありません。

結果を残せた理由は選手にあるのか、それともコーチの貢献によるものなのか。スタッフ陣が正当に評価される競技シーンとなれば、選手が過度に批判される状況を改善できるのではないでしょうか。これは裏方陣の待遇改善にも繋がるでしょう。

④「神視点」であることの意識が薄い

あらゆるスポーツにおいて、観客は神視点でプレイを眺めます。サッカーにおいて「なんでそこにパス出さないんだ」、麻雀において「なんでその牌を切らないのか」と言われるような現象はeSportsでも発生します。ミスが出たり単純に撃ち負けた場合、その原因はフィジカル不足にあるのか。それとも他に原因があるのか。

VCで誤った情報が伝えられていたかもしれないし、コミュニケーションエラーがあったかもしれないし、VCの改善でより良い選択肢が取れたかもしれない。しかしそうした情報は無視して批判される状況になっています。"目に見える"ミスをした選手が悪い、という評価になりがちです。

VCを公開しろというのは無茶な話ですし、これは視聴者側が理解する必要があるのではないでしょうか。

⑤試合数が少ない

これはeSports特有の問題ですが、プロスポーツに比べて試合数が少ないことが気になります。「負けても次がある」とファンも選手本人も感じて、次の機会に備えることが一般的です。

しかしeSportsではそうなりません。負けたら長いオフシーズンが待っており、チーム競技ならではの連帯責任ものしかかってきます。1試合ごとの重みがかなり違うわけです。

さらにゲームの寿命も、選手人生もかなり短い。1年1年が文字通り勝負となるなかで、選手にかかるプレッシャーは相当のものでしょう。ファンの熱量もそれに応じて高まります。その負担を受け止める選手たちを、ファン・コミュニティとしてサポートするべきではないでしょうか。

2.eSportsの問題点

①無料コンテンツの弊害

そもそもを言ってしまえば、eSportsを観戦するのはSNS使いたての若い人が多くなっています。さらに無料で見られるコンテンツにとなれば、民度が良くなることは基本的に期待できません。

今後試合観戦を有料とすることもないでしょうし、現状が大きく変化することは(eSports、そしてVALORANT自体が衰退しない限り)ないでしょう。

②eSportsの現在地

eSportsへの批判が過熱しすぎる原因として、それ自体の社会的な地位が低いことは原因の一つになるでしょう。「eSportsだから」「所詮プロゲーマーだから」何を言ってもいいとする空気は確かに存在するでしょう。

意識せずとも、「これぐらいは言ってもいい」の「これぐらい」のラインがかなり甘くなっているように感じられます。そして過激な発言をする人々を、コミュニティは抑制することができていません。

eSportsはまだまだ発展段階です。過激な批判を行う人も、おそらく結果を残せば反転して応援してくれるだろう存在であり、それを無視できないのではないでしょうか。

ある程度時間が経てばコミュニティが成熟する…ことも考えにくいでしょう。常に若いファンが入ってきて、シーンを追うにはかなりの時間的拘束がある以上、社会人になると離れていく人が多くなります。

③SNSとの相性が悪い

最近では他スポーツでもSNSで選手を傷つけるようなメッセージが送られ問題になっていますが、eSportsの場合はユーザーとの距離が近いことが問題をより深刻にしています。

よく言われますが、「嫌なら見なければいい」という指摘は意味を為しません。

特にeSportsでは実力だけでなく人気も加味して採用を行うことから、選手はSNS上でも知名度を高めることが求められます。ネットと近くなければ、プロとして生き残れないのです。時に過激な批判を行うファンコミュニティと、現役を続ける限り付き合っていく必要があります。

最後に

長くなりましたが、今回私が指摘した問題はeSports界の今後の課題となってくるのではないでしょうか。

成熟した、選手にリスペクトがあるコミュニティをどのように築いていくのか。練習時間の長さなど厳しい状況に置かれがちな選手を、どのようにサポートするのか。チームに透明性を持たせるにはどうすればいいのか。選手が正当に評価される環境を、どのように作り出すのか。"eSports"が社会的に評価される世界を、日本でどう築き上げていくのか。

まとまりのつかない文章となってしまったうえ、やや雄大な話となってしまいましたが、この文章を読んでくれた方に何か感じるところがあれば、非常に嬉しく思います。

書いた人のX→@tempaaaaa1 (普段はマップ分析などをしています)

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