VALORANTのチーム解散が相次ぐのはシーンの構造が悪いんじゃないかという話

てんぱと申します。一応ゲーム関係でライターをやっています。
その関係もあってVALORANTの競技シーンを追っており、(自分で言うのもなんですが)私より競技シーンに詳しい人はほぼいないと思っています。なお、ゲームは上手くありません。

今回記事を書いたのは、VALORANTで国内チームの多くが活動休止・解散に追い込まれていることについてTwitterが盛り上がっていたからです。具体的には以下の3つ。

私が確認しただけでも、以下のチームが活動を停止しています。今年のVCJである程度結果を残したチームが、次々と休止しているわけです。発表の表現のまま並べています。

解散-TZ Gaming・エヴァ:e・DETONATORアカデミー・Focus e-Sports
脱退-FIRST Gaming・Re:Vast
一時休止-Good 8 Squad・SETOUCHI SPARKS
再編成-ENTERFORCE.36・DopeNess eSports
公式発表無し、メンバーがLFT Asterisk
2名変更、募集中 FAV gaming・REJECT

10チーム以上が休止する中で、メンバー募集を始めたのはDopeNess・FAV・RCと父ノ背中(新規参入)のみ。プロ・セミプロとして活動していた選手に十分な枠が確保されているとは言えません。

いわゆるtier2シーンが停滞することによって日本VALORANTのレベルが下がってしまう懸念があるうえ、活動を休止したチームが今後戻ってこなければ、盛り上がりが失われる不安もあります。

とはいえ、私の意見は大多数の人々と変わりません。こうして解散に追い込まれる状況を残念に思いつつも、仕方がないと感じています。プロスポーツは興行を通じてお金を稼ぐもので、興行そのものがないのならばチームに費用を出すメリットはありません。

にもかかわらず私がこの文章を書いている理由としては、先ほど取り上げたツイートでチームやRiotのことを批判する意見が出ているように感じたからです。もちろんその意図がどの程度あったかは分かりませんが、問題の原因は個別の何かにあるのではなく、"構造"とでもいうべき複雑なものにある、というのが私の意見です。

問題点①:大会が少ない


視聴者数の多さにもかかわらず、日本ではプロチームが参加するコミュニティ大会がほとんどありません。もちろんAIM杯やXross Cupについては知っており、おそらく無償でシーンを盛り上げてくれている関係者の方にはリスペクトを持っています。

しかし、有名なプロチームが参加するようなコミュニティ大会は日本に存在しません。たとえばNAでは「Knights Monthly」や「Mystic Singularity」など、賞金総額50万円規模の大会が毎月開かれています。ここには日本でいうAdvance Stageに進むような強豪チームが参加するほか、有名プレイヤーが即席で参加することもあります。

日本には一国としては異常なレベルの視聴者がいるにも関わらず、大会が開かれない。思えば2022年のオフシーズンも韓国の大会に一部チームが招かれたほかは、海外組織が主催したESL程度で、結局Riotがいくつかのイベントを主催しました。「UTAGE」や「LIMITZ」はミックスマッチで、プロチーム同士の真剣勝負を国内で主催する組織は存在しませんでした。

「大会慣れ」の重要さを指摘する声がVCJでは見られましたが、それに加えて新たな才能を発掘し、新ロスターを試し、プロチームが名前を売る場としての大会が増えてほしいと願っています。

これは推測ですが、新しくプロシーンに登場する若手選手はチーム経験がほとんどありません。これは大会がないために、即席であってもチームを組む機会が無いからではないでしょうか。プロシーンで活躍するにはアカデミーに入るしかないというような風潮が広まらないことを願っています。

昨年ZETA DIVISIONが躍進したとき、「eSports後進国だった日本が…」という文脈で語られるシーンをいくつか見ました。人気や実績面では確かに向上した部分はありますが、シーンを支えるハード面・ソフト面(大会運営の組織・それを支える人材育成など)ではまだまだ後進国と言わざるを得ないのではないでしょうか。

問題点②:最低目標が「日本一」になってしまっている


これはeSportsの大きな問題点だと思っていますが、おそらくどのタイトルでも「日本一」を目標にチームが作られています。多くのケースでは世界大会出場枠が1つしかない、というのが背景にあるでしょう。

しかし冷静に考えれば、多くのプロスポーツではそうではありません。野球で言えば「Aクラス」、サッカーで言えば「J1残留」を目標に掲げるチームは存在し、ファンもその目標へ向けて応援します。ですがeSportsではそうなっていません。

VCJでも、インターナショナルリーグへの参入を目標に掲げるチームが数多くありました。しかしその多くは、実現可能性に首をかしげざるを得ないものでした。失礼な言い方になりますが、FL・CR・SZなどには明らかに及ばないチームであるにも関わらず、国内優勝をターゲットにするチームがいくつか見られました。

ただ、建前だけでも日本一を掲げるのであれば、今回の解散騒動はまったくもって理解できます。時間をかければ強いチームはできるかもしれませんが、(言葉を選ばず言えば)Advance Stageに進出できないチームに翌年の日本一など期待できないからです。

そうした点で、ムラッシュゲーミングは画期的でした。「配信試合へ登場する」という目標がファンに承認され、それを達成するというストーリーが確かに存在したからです。しかし、ほとんどのチームはそうではありません。

なぜ日本一しか許されないのか。それは結局、日本一を目指すようなチームでなければ利益を期待できないからではないでしょうか。

「名」と「実」の両面で考えてみます。分かりやすいのは「実」です。VCJのリーグに進出しても、プレイオフに進めなければ賞金は10万円。4位で40万円、3位で75万円なのでトップ3くらいまで進まないとチームにそれなりの利益は入りません。

そもそも賞金が安いという話はありますが、全世界的に安いのでここでは問題にしません。個人的にはRiotが全世界分け隔てなく大会を開いてくれることで、現在の盛り上がりがあると思っています。

続いて「名」の面を考えてみます。Split1で最も人気度が上昇したのは間違いなくSZでしょう。私はSZファンなのでいろいろと追っていましたが、善悪菌選手の同接は数倍~20倍になり、Yoshiii選手のTwitterフォロワーは3桁から5千人まで増加しました。

しかし、他のチームで劇的に状況が変化したところはなかったように思います。CR,FLはもともと人気チームのため大きな変化はなく、下位チームは十分な注目が集まりませんでした。結局強いチームに人気が集まるのは宿命なのでしょう。

選手人気=チーム人気とならないところも気になるところです。eSportsは結局、ファンからお金を集めることが難しい。グッズを売るかオフイベを開催するかくらいしか手段はありません。そういう意味では、今回解散したチームの多くは(悪く言えば)ロスターガチャを引き、大会で名前を売り、新たなスポンサーを獲得するという自転車操業的な難しい道に進まざるを得ないのではないでしょうか。

問題点③:プロチームが多すぎる


ZETAとDFMを含めれば、日本にフルタイムプロは20チームほど存在します。一部のチームはリーグに進出できないどころか、配信試合に到達できず1年を終えました。

これははっきり言って異常です。日本ほどプロチームが多い国は無いと言っていいでしょう。多くのChallengersリーグではアマチュアチームがリーグに進出しています。NAでさえ12チーム中3チームがアマチュアで、そのうち2チームが最終的にプロとの契約に至りました。

言い方は悪いですが、配信試合に到達できなかったチームはVALORANT部門へかけた費用を無駄にしたわけです。先述したように最上位にまで辿り着かなければ「名」を得られない以上、正直VALORANTシーンに参入するチームは賭けを行っているようにしか見えない部分もあります。

プロチームが多いことはメリットの1つです。チームを移りながら成長していった選手もおり、受け皿が広いと選手がより良いチームを見つけられる可能性が高くなります。

しかし、個人的には多すぎるプロチームが数少ないスポンサーを奪い合っているように見えてなりません。1つの企業が複数のチームを支援する図を多く見ました。一つのチームにもう少しお金があれば、ロスターをもう少し長く保つこともできたのではないでしょうか。

プロチームのうち、大規模な親会社を持っているところは多くありません。FAV(角川)、SG(九電工)、SZ(伊藤忠)くらいでしょうか。ZETAも含め、多くのチームは数社のスポンサーに頼っている状況です。

私の推測に過ぎませんが、結局は結果を残せないチームが淘汰されていくことで、この問題は解決するのではないでしょうか。長期間にわたり選手を保持できる体力のあるチームが生き残ることになると思います。日本のeSports熱が盛り上がれば、多くのチームが生き残る形でスポンサー獲得競争が行われる可能性も考えられます。

まとめ

まとまりのない話になってしまいましたが、私が指摘する「構造」は以下のようなものです。
①大会が(運営側の不足という面もあって)少なく、チームが名を売る機会がない
②最上位チームを作らなければ利益を望めず、中堅クラスのチームをキープするメリットがない
③プロチームの数が多く、スポンサー資金の奪い合いのような状況になってしまっている

この問題を一挙に解決するような案を、私は持ちません。今後eSports業界が順調に拡大していけばどうにかなるかもしれませんが、それまでVALORANTの盛り上がりが保つかどうか。私はただの底辺ライターですが、自分なりにコミュニティを盛り上げられるよう頑張っていくつもりです。何でも構いませんので、手伝えることがあれば声をかけて頂ければと思います。

書いた人のTwitter: @tempaaaaa1


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