#12 Answer (秋田県由利本荘市)
秋田県由利本荘市に滞在していることを知った仙台の音楽仲間から『アンサーってお店があるから行ってみて』とメッセージがあり、とある晩タクシーを呼んで遊びに行った。
店の前に車をつけてもらいタクシーを下りる。
友達から紹介されている以上何の心配も無いのだが木材を使った外観も『Answer』というロゴも自分には馴染みのある風合いで、これから楽しい時間が始まることを十分に予感できた。
扉を開くと男性店員と女性店員が迎え入れてくれた。知らない顔の男の来店に『ん……誰?』という若干の緊張感が漂うが、こちらも慣れているので愛想よく席に着いてビールを注文…するかしないかぐらいのタイミングで既にフッと笑い出してしまった。
『カンちゃんの絵ですね』
『え!?知ってるんですか?』
『知ってますよ、そもそもの話が……』
音楽が好きな須田くんが開いたこの店では県外からゲストミュージシャンを招いたライブイベントを開催していて、ここに来て演奏したミュージシャンの多くが自分とも関わりのある人たちで、壁に掛けられている絵をペイントしたカンちゃんもその一人だった。
そんな風に共通の名前や話題が次々と湧いてくればお互いを知るために費やす時間はかなり短縮されて、あっという間にアウェイはホームに変わり、時は満たされる。
2週間に満たない滞在で拠点からタクシーを使わないと辿り着けない距離だったが3晩をAnswerで過ごした。2度目の晩には早々に店を閉めて須田くんと女性店員のちはるさんと別の店に出かけてテキーラなんぞを呑んでワイワイと楽しみ、最後の晩は夜が更けるまで飲み続けた。
たまたま会社の仕事に空きができて、しぶしぶ向かった秋田県南端の小さな町でこんな出会いがあるとは思わなかった。
東京に帰る車のなか、胸に迫ってきた感情はかつて何度も経験した長い長い旅の終わりによく似ていた。
およそ観光で訪れるような場所ではない、だからこそ稀少な体験をしていると思う。
日本海に沈んでいく夕日と毎日現場から眺めていた鳥海山の美しい佇まいを忘れることはないだろう。