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本が繋いでくれる

帰省を終えて、家に帰ってきた。いつも通りの生活が始まった。
実家では、結局、父の本棚を眺めながら、欲しくなった本があって、母に、「お父さんの部屋の本棚の本、こんなにもらってもいい?」と尋ねたら、「いいよいいよ。全部持ってってもいいよー」と言ってくれたのでお言葉に甘えてもらってきた。どれも読んだことのない本だった。内容はどんなものかも知らずになんかいいなーというのを選んできた。

帰りの船や電車は大混雑だった。
そんな中、息子はずっとわたしの荷物を持ってくれていた。自分のキャリーバックの持ち手に、ひょいと荷物をかけて何食わぬ顔でどんどん歩いていく。
電車の中でも荷物が上の荷物入れになかなか入れられないお姉さんの「手伝いましょうか?」なんてひょいと入れてあげていた。さてお姉さんは電車がついた時自分で出せるのかな?なんて思ったりもした。
こんなに気が利く息子を初めて見た気がする。

人って成長するんだなと思った。
家族だけの世界をちょっと飛び出して、幼稚園では「ダンゴムシを見つけるまで帰らない!」とか言ってわたしまで探させられたり。
「みんなと一緒にお弁当食べない!」と言って園長先生と階段のとこに座って2人で食べてたり。
小学生の頃は、雨の日は毎回傘を壊して帰ってきたり、毎日、石やワッシャーを拾ってきたり。
中学生の頃は、毎日のように友達がうちに遊びにきたり。
高校の頃は、課題に追われたり、文系だから男子が少なかったからみんなと結託して仲良かったり。
大学の頃は、昨日、金髪にしてきたり。

こうやって振り返ると色んな人に迷惑かけたり、支えられたりして、ここまで成長してるんだと思いました。
それは親である私たち、家族には、できないことばかりでした。

そういえば、父はよく言っていた。「本の中には色んな登場人物がいて、いつでもその人になれるから楽しい。友達にだってなれる。だから本を読むのはやめられないんだよね。」

晩年、父はALSという病気になって、大好きな本が読めなくなった。
その間、娘がイラスト付きのハガキを何通も送って父にメッセージを送った。
そのメッセージに励まされ、父はいつも涙をこぼしていた。母も涙していた。

わたしの唯一の後悔は父に本を読んであげられなかったことだ。
なんでもいいから、家の本棚から一冊持ってきて読んであげたら良かった。
もしかしたら、父のリクエストも聞けたかも知れない。
今更悔やんでも仕方ないけど、子守唄みたいに少しは父の気持ちが和らいだのかも知れない、と思った。
もしかするとわたしなんかより息子の方が気が利くのかも知れない、と思った昼下がりでした。

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