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明るい私のもうダメだと思った話

お酒も料理も美味しくめちゃめちゃ好きな店がありまして。
雰囲気も落ち着くし洒落ていて、人気店でだいたいお客さんいっぱいでそりゃそうだわって感じ。
でもそんなことはどうだっていい。例えばお酒が薄くても、料理が全部冷凍食品でも、蛍光灯のダサい店内でも。いつ行ったってガラガラだっていい。私がその店に行くのはそこじゃない。大将と女将が全てだ。
しかし言っておく。酒も料理も雰囲気もめちゃくちゃいい。そして大将と女将ではない。誰もそうは呼んでない。

近頃よく飲みに行く。駅前は飲み屋さんばっかりで選びたい放題だ。いい店もいっぱいあってだいたいどこも美味しい。どこ行こう?って友達を誘うけど私の頭の中では行く店は決まっている。友達もその店が好きだからきっといいんだろうけど、こいつ毎回だな。とも思われたくないから一回違う店を提案したりして伺う。
先日飲みに行った時も、友達が行ったことないってゆう店に行くことにしたけど、1軒目で酔っ払ったら2軒目はもう向かっていた。大将に会いたいと言っていたらしい。そんなストレートに言えるなら最初から言え。恥ずかしさが増すだろ。
2軒目ともなると時間は21時を回っていた。これは危険だ。大将は21時を回ると料理を作ってくれない、という暗黙の了解がある。
案の定大将に嫌われたくない私はビールだけを注文。ひたすら飲む。楽しい、楽しすぎる。みんなも楽しそうだった、気がする。実はほとんど覚えていない。覚えていないからまた次も行けるのかもしれない。

私は一度大将にひどく怒られたというか説教を受けたことがある。もうこの話は私の人生で最も恥ずべき話で墓場まで持っていきたい。いや持っていきたくない。持っていったら成仏できない。笑い話にしたいが私が笑うのは違う気もするし、そんなすごい話なのかって思われたかもしれないが、もしこれが人の話だったらたいした話ではない。自分の話だから困っている。
私が新しいお店を開店するとき大将がお花やお酒をくれた。私にとっては“まさかっ“の驚きで嬉しすぎたのを覚えている。大騒ぎだった。これは電話ではなく直接お礼を言いに行こうと決めたけど、バタバタしてるうちに(言い訳させてくれ)時間は経ち、数日経ってしまったのだ。そしていよいよいつもの友達と飲みに行った日、お礼を言ったはいいものの説教が始まった。怒鳴られたならまだよかった。でも大将はああ見えて優しく、そんなことはしない。裏でめちゃめちゃ悪口言ったぞって言いながら「よくないよ〜」と体感では2時間くらい教えをいただいた。お祝いをもらってこっちがどんな気持ちでいたかは関係なく、お礼はすぐに伝えたほうがよかった。取り急ぎ電話で絶対によかった。あんなに後悔したことはない。お酒を飲んでいたこともあり、号泣してしまった。これも恥ずかしすぎて死にたい。優しい友達はもらい泣きで号泣。2人で号泣。あまりの号泣に隣の常連さんが奢ってくれたくらい号泣。店を出てから崩れ落ちたのを鮮明に覚えている。あぁ嫌われたわぁ。礼儀とか私も1番気にするタイプなのに自分がやってんじゃん。

すごい反省した。もう2度としないと誓い2度としていない。お礼はできる限り秒で伝える。こんな状況でも自分を褒めるとしたらその店に行くことをやめなかったこと。あんな恥を晒しておいてずっと通っている。もう何年も前の話。生き恥の話。たまにこの話題が出るが、その度に我にかえる。どんなに調子に乗っても、私はあんなことをやった愚かな人間だと。


私はその店がとても好きだ。一般的な愛想はないかもだけど、嘘のない大将と女将が大好きだ。どんなに仲良くしてくれてもこの緊張感はなくなることはないが、それはそれでいい。絶対嫌われたくないが、最悪嫌われても私はきっと好きだ。同じ時代に同じ世代であったこの幸運。
しかし言っておく。嫌われたくないとか言ってるうちは好かれない。こんなとこでほんとの話してどうにかこうにか伝われって思ってる時点で好かれない。
そしてもう一つ言っておこう。
行ったことないって人が「この店美味しい?」と聞いてくるが、そういう次元の店じゃないから。



りえ

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